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76 司祭様がやってきた


 髪の毛つやつやポーションの存在がヒルダ姉ちゃんにばれた二日後。


「ルディーン、来週の頭、イーノックカウに行くぞ」


 お父さんから急にこんな事を言われたんだ。


「え~なんで? 来週になったらお兄ちゃんとお姉ちゃんが森に連れて行ってくれるって約束してくれてるのに!」


 でもそんなの、急に言われても納得できるわけない。


 僕1人で行っちゃだめだって言うし、同い年くらいの子達と一緒に行くのもダメだって言うからずっと我慢してたんだよ。


 それなのにひどいや! そう思ってお父さんに抗議したんだけど、


「仕方ないだろ。司祭様からあんな風に言われてしまったんだから」


 ちょっと困った顔をしながらこんな事を言われちゃったから、僕は何も言えなくなっちゃったんだ。



 これは昨日の夕方の事。


「ハンスさんとシーラさんはご在宅かな?」


 突然村の神殿出張所から司祭様がうちを尋ねて来たんだ。


 一体どうしたんだろうって思いながらお父さんとお母さんが出迎えると、司祭様は僕が作った薬の件で話があるそうなんだ。


 と言う訳で呼ばれたんだけど、ちょっと難しい話だからって僕だけは会話に参加せずに少し離れた所に座って話を聞く事になった。



「出張所のシスターなんじゃが、もう50の声が聞こえてきそうな年齢なのに、ある日突然まるで若者のような張りのある姿になっておってのぉ。それに驚いて何があったのかと聞いてみれば、この家の末のご子息が作ったポーションによって肌が若返ったと言うではないか」


「はい。うちのルディーンが作ってくれた肌用のポーションです。私もはじめて使った時は本当に驚きましたわ」


「そうであろうな。今まではわしもポーションと言えば傷を治すものだと思っておったから、肌を若返らせるポーションの存在を知って驚いたわ」


 僕も知らなかったんだけど、一般的にポーションと言えば傷を治したり毒を消したりするものが主流で、美容や健康維持のためのポーションというものは存在しなかったんだって。


 そもそも錬金術と言うのは魔力操作ができるようにならないと覚える事ができないから、勉強を始める段階で結構なお金が掛かっている上にポーションが作れるようになるまでには同じくらいの時間とお金をかけて勉強をしなければいけないんだ。


 だからそこまでして身につけた錬金術で、ただ肌を綺麗にするとか髪の毛をつやつやにするだとかのポーションを研究してまで作り出そうなんて考える人が居なかったみたい。


 そりゃそうだよね。


 傷や毒を治すポーションが作れるようになればそれだけでお金を稼げるようになるのに、わざわざ更にお金が掛かるような別のポーションを作るための研究を普通の人がするはずがない。


 それに錬金術ギルドのような所でもより効果の高いポーションを作るためなら経費をかけて研究するだろうけど、そんな実際にできるかどうか解らないものの開発にお金をかけるはずがないもん。


「それで、ここからが本題なんだが。ご子息が作ったという薬、一刻も早く錬金術ギルドか商業ギルドに特許登録をした方がいい」


「とっきょ? ですか」


 いきなりよく解らない話をされてお父さんたちは驚いたらしいんだけど、司祭様が言うにはあの薬の存在をそのままにして置くと僕に悪い事が起こるかもしれないんだってさ。


「うむ。先ほども言った通り、この肌を若返らせるポーションと言うものはわしも聞いた事がない。これでもわしは治癒の勉強をしておる時にポーションの勉強も一通り修めておってのぉ、仮にこの様なものがもし存在しておったのなら知らぬはずがないのだ」


「はぁ」


「と言う事はこの肌を綺麗にするポーションと言うのは、ルディーン君が初めて開発したポーションである可能性が高い。そしてその価値がどれほどのものなのかは実際に使った事のあるシーラさんなら解るな?」


「はい。確かに女性なら誰もが欲しがるものだと思います」


 お母さんの返答に、そうだろうと頷く司祭様。


 でもこの薬についていえばその程度の認識では危ないって言うんだよね。


「確かに女性なら誰でも欲しがるだろう。と言うのもこのポーション、やや効き過ぎる。例えば焼けた肌が白くなるとか、くすんだ肌がキメを取り戻す程度ならそれ程問題にはならないと思うのだが、このポーションを使えばうちのシスターのように歳を取ったものでも若者の肌のようになってしまう。この様なものの存在を知れば誰もがその製法をほしがるであろう事は簡単に想像が付くであろう?」


「と言うと、ルディーンが狙われると言うのですか?」


「うむ。何せルディーン君はまだ幼い。この様な子供ならかどわかすのは簡単だと考えるのが普通だろうからな」


 司祭様のこの発言にお父さんとお母さんはびっくり。


 まさかこんな物でそんな事を考える人が出てくるなんて想像もして無かったからね。


「しかし司祭様。ここはグランリルですよ? この村に来て子供をさらおうなんて考える奴がいるでしょうか?」


「そうです。この村は大人たちはもちろん、子供だって街にいる冒険者たちよりも強いのですから」


「普通はそう考えるだろうが、全ての者がこの村の者たちの力を知っているわけではない。例えば遠く離れた町の者ならどうだ? この村の存在を知らず、ただルディーン君のポーションの存在だけを耳にすればそんな暴挙に出てもおかしくはないのではないか?」


 話を聞いて黙り込んでしまうお父さんとお母さん。


 確かにこの近所の村や町の人ならグランリルまで人攫いに来ようなんて考えないだろうけど、知らない人なら何をしたっておかしくないんだよね。


 そして実際に僕はまだ小さい。こんな小さい僕なら簡単に抱えられるし、姿だけを見たらさらうのなんてそんなに難しいとは考えないんじゃないかな。


 だからこそ、そんなのが現れてもおかしくはないってお父さんたちは考えたんだ。


「では、司祭様。先ほどのとっきょとか言うものをすればその心配はなくなるのですか?」


「うむ。特許と言うのはな、ポーションの製法とその製作者を登録して公開する制度なんじゃ。これに登録さえしてしまえばルディーン君をかどわかしても意味がなくなる。何せすでにその製法はギルドに知られており、金さえ払えば作れるようになっているのだから犯罪を犯してまで知る意味もそのポーションを独占して稼ぐ事もできないのだから」


「なるほど」


 司祭様の話を聞いて納得するお父さんたち。


 確かにその特許と言う物に登録さえすれば、僕に危害を加えるような人は出てこなくなるだろうから司祭様の言うとおりにした方がいいって考えたんだ。


「解りました。ではなるべく早くそのとっきょとか言うものをやります」


「うむ。その方がいいだろう」


「ところで司祭様、それは肌の薬だけで宜しいのですか?」


 話が纏まりかけた所で、お母さんからこんな話が飛び出した。


 と言うのも、綺麗になる薬は肌のほかにもう一つあったからだ。


「わしが知っておるのは肌のポーションだけなんだが……もしかして他にもあるのか?」


「はい。昨日うちの嫁いだ娘がルディーンから聞き出しまして。髪を若返らせる薬もルディーンは作り出せるのです」


 そう言うと、お母さんは頭に巻いていた布を取る。


 なんでそんな布を頭に巻いていたかと言うと、この薬に関しては肌のポーションが村の人たちにいきわたるまでは秘密にしようってお母さんがヒルダ姉ちゃんと2人で話し合っていて、綺麗になった髪を2人とも隠してたからなんだ。


 そして取られた布の下から現れたのは絹のようなさらさらとした綺麗な髪の毛。


 お母さんは狩りの邪魔になるからって短くして居るおかげで今まで誰にもばれていなかっただけに、その髪には司祭様もびっくりだ。


「どうです? ルディーンがくれたポーションのおかげで、髪だけならレーアやキャリーナに負けないくらいつやつやになっているんですよ」


「いつの間に。って事はヒルダもか? あいつはお前と違って髪が長いだろう」


「昨日私と一緒にポーションを使ってみたら、その効果に驚いてね。これは見られたら流石にすぐにばれるからって、ヒルダは周りに解らないよう髪を結い上げてから布をかぶるって言ってたわ。でも髪がつるつるさらさらになりすぎて、引っかからないから纏めるのが大変って笑ってましたよ」


 そう言いながら髪に手櫛を入れるお母さん。


 そのしぐさから、何の抵抗も無く指が髪に入っているのが解る。


 確かにお母さんが言う通り、髪が若返っているんだろうね。


「なんともはや。当然その薬も特許登録しなければとんでもない事になるのは間違いない。一緒に登録してくるのがよかろう。ところで他にはないだろうな?」


「ええ。私が知っているのはこの二つだけです。ただ、本当にこの二つだけなのかはルディーンに聞いてみないと解りませんが」


 お母さんがそう言った事で、少し離れたところで聞いていた僕に3人の目が向く。


 一斉に見られるとなんか怖いんだけど。


「ルディーン、もう他にはこんな薬、無いのかしら?」


「こんな薬ってお肌のかさかさを取るポーションと髪の毛つやつやポーションみたいなのの事? う~ん、今の所その二つだけだよ。言われたら作れるようになるかも知れないけど、どんなのを作ったらいいのかなんて僕、解んないもん」


 本当に若返る事が出来るポーションなんて作れるわけないし、お母さんたちが何でこんなにこの二つのポーションで騒いでいるか解んない僕は、この二つ以外は作ろうとさえ考えてなかったんだ。


 あっ、ただ踵のがさがさを取る薬だけはお父さんに言われて作ったけどね。


 でもあれは肌のかさかさを取るポーションの内、かくしつって言う奴を取る成分だけが必要だったから作り方自体は普通に作るよりも簡単だし、材料もいろんな成分が無くなってたり少しくらいおかしな匂いがしてもいいからって捨てるはずだった前に飲んだのを使ったんだ。


 要するにあれは劣化版で、本物を使えば当然同じ効果が出るんだよね。


 だから言わなくってもいいよねって思って話さなかった。


「そう、なら問題はないわね。でももし何か思いついたり作れたりしたらすぐに言うのよ。そのとっきょとか言うのに申請しなきゃいけないんだから」


「うん、解ったよ」


 こうして僕はイーノックカウの錬金術ギルドまで特許申請のために行くことになったんだ。


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