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74 ヒルダ姉ちゃんのお願い


 森への狩りがお預け状態の僕。


 お兄ちゃんたちが言うには来週には一緒に行ってくれるらしいんだけど、いつも組んでいる人たちとの約束ですぐには無理なんだってさ。


 だから僕は、1人錬金術の練習を……しようと思っていたところで、ヒルダ姉ちゃんに捕まっていた。


「ルディーン、お母さんにあげたって言うポーション、また作れる? もし作れるのなら私の分も作って欲しいんだけど」


「えっと……」


 なんだろう? ヒルダ姉ちゃんの様子がいつもと違う。


 鬼気迫るって言うか、なんかもしできないって答えたら絶望するんじゃないかってくらい必死な形相なんだよね。


「材料さえあれば作れるけど、どうして?」


「ルディーン、解ってないの? あなたは物凄いものを作ったのよ!」


 えっと、僕がお母さんに作ってあげたのって肌のかさかさが治るだけのポーションだよね? それなのにヒルダ姉ちゃんの言い方だと死んだ人に振りかけただけで生き返るとか、そんな凄いポーションを作ったみたいな言い方なんだけど……。


 って事はヒルダ姉ちゃん、もしかして僕が作ったポーションの効果をお母さんから間違って聞いたのかなぁ? なら違うよって教えてあげないと!


「ヒルダ姉ちゃん、落ち着いて。僕が作ったのはお肌のかさかさを無くすだけのポーションだよ? お姉ちゃんが思ってるようなそんな凄い……」


「だから、そのポーションが凄いって話をしてるんじゃないの!」


「えぇー!?」


 ヒルダ姉ちゃんが言うには僕があげたお肌用のクリームポーション、使い始めた日よりその次の日、ようは昨日の方がもっと解りやすい効果が出たそうなんだ。


 初日は肌のかさかさが取れてプルプルしただけなんだけど、二日目にお風呂に行ったら凄くいっぱいアカが取れたんだって。


 それだけ聞くとあんまりいい事だとは思えないよね? だけど、お風呂から上がったお母さんを見たお姉ちゃんは物凄くびっくりしたらしい。


「お母さんの肌がさらに艶々になっていて、狩りに出かける日々で日焼けしてた肌は透明感のある白い肌に、その上しわや小さな染みまでが綺麗さっぱり無くなってたのよ? そりゃあお母さんはまだそれ程皺が多かったわけじゃないけど、それでも35歳を超えて目じりに小じわが出来始めたって悩んでたのにそれがまるで20代の肌みたいになったんですもの。驚くなって言う方が無理だわ」


 そういやぁお母さんの肌、白くなってたね。でもそれっていい事なんだろうか? 正直よく解んないや。


 でもお姉ちゃんの勢いを見てるうちに、どうやら凄い事なのかもしれないなぁって僕もちょっとずつ考えるようになってきたんだ。


 ただ、それでも解んない事はある。


「肌なんてかさかさしたり、かゆくなかったらいいと思うんだけど、そんなに大事な事なの? それにヒルダ姉ちゃんはまだお肌つるつるでしょ? ならあんなポーション、僕いらないって思うんだけど」


「何を言ってるのルディーン。お母さんでもあれほど肌が若返ったのよ? 私が使ったらもしかして10代前半の肌まで、いやもしかしたらルディーンの肌くらいまで若返るかもしれないじゃない!」


 僕、ヒルダ姉ちゃんが何を言ってるのか本当に解んないや。


 僕の肌とヒルダ姉ちゃんの肌ってそんなに違うかなぁ? そりゃヒルダ姉ちゃんはスティナちゃんが生まれるまでは毎日のように狩りに出てたせいで日に焼けて真っ黒だったけど、今はずっと家に居るからすっかり白くなって僕の肌とそんなに違わないと思うんだけど。


 それにヒルダ姉ちゃん、まだ19歳だからしわも無いし、そんな顔して僕に迫ってくるほどあのポーションが必要だとは思えないんだけど。


 でもここまで言うんだから、もしかするとヒルダ姉ちゃんにとっては大変な事なのかもしれない。だから言われた通り作ってあげる事にしたんだ。


「よく解んないけど、ヒルダ姉ちゃんがほしいって言うのなら作ってあげてもいいよ。でもさぁ、僕、お肌に塗るクリームポーションの材料、持ってないよ」


「そっか、ポーションを作るにしても材料が要るわよね。いいわ、取ってきてあげる。何がいるの?」


「セリアナの実」


「はっ? セリアナのジュースが飲みたいの?」


「ちがうよ。あのポーションの材料はジュースを取った残り。セリアナの実の中にある白い果肉の部分を使って作るんだ」


 これを聴いて大きく目を見開いて驚くヒルダ姉ちゃん。そりゃそうだよね、今までは使い道が無くて捨ててた部分だもん。


 でもその果肉部分があのクリームポーションになるのは本当だから、もしあるのなら持ってきてって頼んだんだ。


「確かこの間お父さんがイーノックカウの土産だって持ってきたけど……ねぇルディーン、ジュースを抜いて数日経ったものじゃダメなのよね?」


「うん。実を割ってジュースを出すとすぐに悪くなるから、多分それじゃダメだと思う」


「解ったわ。とりあえず一度家に帰って調べてみるから、ちょっと待ってね」


 そう言ってヒルダ姉ちゃんは僕の部屋を飛び出して行ったんだ。




「ジュースを抜いてないセリアナの実、一つも残ってなかったわ」


 帰って来たヒルダ姉ちゃんはこの世の終わりみたいな顔をしてた。


 お姉ちゃんが言うにはスティナちゃんがあのジュースが大好きらしくて、貰ったらあっと言う間に飲んじゃったみたい。


 うんうん、スティナちゃんにねだられたら断れないもんね。あっと言う間に無くなっても仕方ないよ。


「でも困ったわ。セリアナの実がないと、あのクリームポーションは作れないんでしょ?」


「そりゃそうだよ。材料もなしにポーションが作れるはずないもん」


 砂糖とか塩のように単純なものなら創造魔法で作り出せるけど、薬草は植物とは言え生物だから作り出すことができない。これはどんなに高レベルになっても変わらない事なんだ。


 一応ポーションに含まれている成分の一つ一つならレベルが上がりさえすれば作れるようになるかもしれないけど、あのクリームに入ってる分全部を魔石で作ろうとしたら大きなお屋敷より高くなっちゃう。


 それなら素直にセリアナの実をどこかから持ってくるほうが楽だよね。


「そう言えばルディーン、この家は? ここにはセリアナの実はもう残ってないの?」


「どうかなぁ? お母さん、セリアナのジュース、大好きみたいだし」


 あんな実に穴を開ける道具まで持ってるくらいだもん、全部飲んじゃってたとしてもおかしくないかも。


「ルディーンはどうなの? 家に帰ってからもう何個か飲んだ?」


「ううん、僕はまだ1個だけだよ。帰ってからは雲のお菓子を作ったりして甘いもん食べてたから」


「なら絶対あるわ。だってお母さん、子供の分までは絶対に手をつけないもの」


 そっか。みんなの分はともかく、森に行ってからずっと寝てた僕の分は当然残ってるはず。


 ならそのセリアナの実を使えばクリームポーション、作れるね。


「でも僕、セリアナの実がどこにあるのか知らないよ?」


「それに関しては大丈夫。多分私がまだこの家に居たころから変わってないだろうから解るけど……流石に勝手に使うわけには行かないわね。ルディーン、お母さんはどこに行ったの?」


「確か、近所のおばさんたちとの集まりのはずだよ。朝ごはんの時、そう言ってたもん」


「えっ……」


 その時ヒルダ姉ちゃんがいきなり固まった。


 でも何で? お母さんが近所のおばさんたちの集まりに行くなんていつもの事じゃないか。


 あっ、もしかしてヒルダ姉ちゃんも行かなきゃいけなかったのに忘れてたとか?


「不味いわね」


「ねぇ、もしかしてヒルダ姉ちゃんもその集まりに行かなきゃ行けなかったの? なら早くしないと」


「違うわ。手遅れって意味よ」


 ???


 焦ったように呟いたお姉ちゃんの言葉の意味が、僕にはまったく解らない。


 何が不味くて手遅れなんだろう?


 だからお姉ちゃんの次の言葉を待ってたんだけど、そんな僕の耳にドドドドドドッていう遠くの方から多くの人が走ってくるような音が聞こえてきたんだ。


「やっぱりこうなっちゃったか」


 そしてその音を聞いて何かを悟ったかのように頷くヒルダ姉ちゃん。


「何がこうなったの? ねぇ、どうなっちゃうの?」


「すぐに解るわ」


 その感情が抜け落ちたようなヒルダ姉ちゃんの顔を見て不安に思った僕は慌ててそう聞いてみたんだけど、お姉ちゃんは何も答えてくれない。


 そして、


 バタン!


「「「「「ルディーン君! ルディーン君はいる!?」」」」」


 玄関のほうから聞こえてくる、近所のおばさんたちが僕を呼ぶ叫び声。


「ほら、これが答えよ」


 鬼気迫るおばさんたちの声に、僕はこれからどうなっちゃうんだろうって震え上がったんだ。


読んで頂いてありがとうございます。

 

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