73 なんか想像と違う……っ!?
次の日。
レベルアップの後遺症はもう治ったし、お母さんが出て行っちゃダメって言ったのは昨日だから今日からはまた森へ狩りに行けるって僕は思ってたんだ。
ところが、
「ルディーンはしばらくの間、森に入るのは禁止」
「えぇ~、何で?」
お父さんに森へ行くのを禁止されちゃったんだ。
でもそんなの、急に言われても納得できないよね。だから僕は抗議しながら、どうして森に行っちゃダメなのかを聞いたんだ。
そしたら帰って来たのが、
「ルディーンはまだパーティーを組んでないだろ。ソロで森の狩りをするのは危険だから、禁止だ」
と言う答え。でもそれは酷いよ。
「でも僕、パーティーを組むなんて無理だよ。だって同い年くらいの子はまだ森に連れて行ってもらえないもん。それにもう森に行けてる上の子達は、みんな自分たちのパーティーを組んじゃってるし」
森へ行くのにはパーティーの方が安全だって言うのは僕も解るよ。
でも村では同じ歳くらいの子達でパーティーを組むのが普通だよね? だったら僕がパーティーを組むはずなのって、まだ平野での狩りでさえうまく出来ない子ばっかりじゃないか。
そんな子達と一緒に森になんて行けるはずないもん。パーティーを組まないと森に行っちゃ駄目って言うのなら、僕はずっと行けないって事じゃないか。
「確かにそうだが、やはり小さな子供1人で森に入るのを許すわけには行かないんだ」
でも僕がいくら言ってもお父さんは許してくれなかったんだよね。
そうか、そんな子達とでもパーティーを組まないといけないって言うのなら仕方ない。僕は近所の同い年くらいの子たちに声をかけてパーティーを組むことに決めたんだ。
みんなを森に連れて行くのはちょっと危ない気もするけどきっと大丈夫、僕が守ればいいんだからね。
「解ったよ。僕、近くの子達とパーティーを組むよ。それなら行っていいんだよね?」
「いや、それはダメだろ」
「えぇ~、何で? パーティーを組めば行ってもいいんでしょ? 村には僕に近い歳の子が5~6人いるし、声をかければ多分パーティ組んでくれるもん。1人だからダメなんだって さっきそう言ったよね?」
「いやだからと言って、近所の小さな子たちを森に連れて行って怪我でもしたらどうするんだ?」
「大丈夫だよ。僕、レベルが上がって強い治癒魔法も覚えたし、大きな怪我をしたって治せるようになったから」
そう、実は賢者が10レベルになった事で僕の治癒能力は物凄く高くなったんだよね。
今までのキュアでは治しても減った血を増やす事はできなかったから大怪我をさせちゃったら助けられなかったかもしれないけど、8レベルで覚えたライトヒールなら流れ出ちゃった血もちゃんと元通りになるんだからその心配も無くなったんだよね。
流石にいきなり魔物に襲われて死んじゃったりしたら今の僕には治せないけど、探知をこまめにすればそんな事もまず無いからお父さんが心配してるほど危なくないと思うんだ。
それに後2レベル上がれば例え手とか足が取れちゃったとしても魔石を触媒にして治しちゃう事が出来る魔法を覚えるから、いっぱい森に行って早くレベルを上げたいんだ。そしたらもっと安全になるからね。
だからそれをお父さんに話したんだけど、やっぱり許してくれなかった。
もう、お父さんの嘘つき! パーティーを組んだら森に行ってもいいって言ったのに。大人なのに嘘をついちゃダメだって事も解んないの!
この後いくら言ってもお父さんは許してくれないみたいだから、僕はお母さんの所に行って抗議したんだ。
お父さんがパーティーを組んだら森に行ってもいいって言ったのに、近所の子達とパーティーを組んでも言っちゃダメだって言ってるって。
「う~ん、ルディーン。流石に小さな子を森に連れて行くのは危ないとお母さんも思うわよ。それに近所の子達のお父さんお母さんも森に連れて行くなんて言ったら心配するでしょ? だから、近所の子達を誘うのはやめて頂戴」
そしたらこんな風に言われちゃったんだ。
でもそっか、確かに僕と同い年の子達を森に連れてったらみんなのお父さんお母さんは心配するよね。
と言う訳で、僕は近所の子達とパーティーを組むのをやめにしたんだ。
今日はもう、森に行くのはあきらめた。だってどうすればいいか、他にいい考えが浮かばなかったんだもん。
それにお母さんもお兄ちゃんやお姉ちゃんに、今度僕と一緒に森に行ってくれるよう話してくれるって約束してくれたからね。
と言う訳で今日は村の近くで、昨日やろうと思ってた新しく覚えた魔法の試し撃ちをやってみる事にしたんだ。
ただ覚えた魔法の殆どは多分狩りには使えないんだよね。だってそれを使うと狩った魔物に大きな傷ができるものばかりだったからね。
例えば火の攻撃魔法であるフレイム・ボルト。
これは火の矢を飛ばす魔法なんだけど、これが当たるとそこには大きなやけどができるんだ。
って事は毛皮には大きな傷ができるって事だし、その下の肉もこげちゃうからそこは捨てなきゃいけなくなっちゃうもん。こんなのを使うのならマジックミサイルを使ったほうがいいよね。
次にロックランス。
これは魔物の足元に石の槍を生み出して串刺しにする魔法なんだけど、石なんだからもし鉄の槍みたいに細かったら折れちゃうよね? だから当然かなり太いんだよ。
そんなのが刺さったら毛皮だけじゃなくお肉まで痛んじゃうもん、当然狩りになんか使えないんだ。
その他にも無数の風の刃を含んだ竜巻を魔物の周りに作り出すウインド・カッターとか、細かな水しぶきを高速で飛ばして相手にダメージを与える範囲魔法、ウォーター・スプラッシュなんて魔法もあるけど、そんな魔物をぼろぼろにする魔法なんて使えるはずがないんだよね。
では何故そんな魔法の実験をしてみようと思ったのか? それは単純にカッコ良さそうだからなんだ。
狩りには使えないかも知れないけどやっぱり派手な魔法ってカッコイイし、誰でも一度は使ってみたいって思うよね?
ところが実際に使ってみたら、どれもこれも思ったほど派手さが無くてがっかり。
フレイム・ボルトは標的に当たると確かにボッと燃え上がるんだけど、的にしてるのが拾ってきた木の棒だから一瞬で燃え尽きてつまんなかったし、ロックランスはただ太い先の尖った石の柱が音も無く下から勢い良く出てきただけ。
ウインド・カッターとウォーター・スプラッシュにいたっては透明だから撃ってもよく見えなかったし、どれもこれも実際に魔物に使えば派手なんだろうけど、何もないところで使ったら意外と地味で何の感動も無かったんだ。
でもまぁ仕方ないか。
ドラゴン&マジック・オンラインでは見栄えがいいように派手な演出があったけど、現実に使うとなると派手な魔法ほど避けられやすかったり警戒されたりして使いにくそうだもんね。
特に火の魔法なんてゲームの中みたいに火の粉を撒き散らしながら飛んで行ったりしたら森の中は当然として、たとえそこが草原でも周りの枯れ草に火がついて大変なことになりそうだもん。
僕がさっき使ったフレイム・ボルトみたいにあたった場所が一瞬燃え上がる方が、実際に使うのなら絶対に使い勝手がいいと思うんだ。
と言う訳で実際に使ってみたらちょっとがっかりした結果になったけど、別にこれが全部無駄だったわけじゃない。だって魔法を使ったおかげで各属性の魔力の流れを覚える事ができたんだから。
そう、これで僕は今まで作れなかった水、風、土の三つの基本属性の魔石も火の属性魔石同様作る事が出来るようになったんだ。
そして僕は最後に一つの魔法を使ってみる事にする。
これは攻撃魔法じゃないから派手さは無いんだけど、この魔法の属性が実は一番作れるようになりたい魔石だったから帰るまでに最低でも一度は使っておくつもりだったんだ。
その魔法と言うのはアイス・スクリーン。
これは氷の幕を張って、この魔法をかけられた人に対する炎系の攻撃の威力を下げる防御呪文なんだ。
ただこれの上位魔法であるアイス・ウォールって言う魔法は目の前に一瞬にして大きくて分厚い氷の壁を作り出すから結構派手なんだけど、ゲームの中でのアイス・スクリーンは一瞬氷の幕が張られるだけのかなり地味な魔法だった。
だからこの魔法の見た目には何の期待もしてないけど、この魔法の属性は氷。その魔力の流れを覚えて氷属性の魔石を作りさえすれば色々なものが作れそうだから、僕はそっちの方が楽しみなんだよね。
と言う訳で最後に一回だけ使って帰ることにしよう。そう思った僕は、体に魔力を循環させて、
「アイス・スクリーン」
呪文を唱えたんだ。
そしたら足元から上に向かって氷の粒が空高く舞い上がり、僕の周りを包み込む。
「わぁ!」
そして舞い上がった氷の粒たちは太陽の光を反射してキラキラ光り輝いて、その光景は今まで使ったどんな魔法よりも派手で、その上とても綺麗だったんだ。
それにゲームの時と違って効果時間中はずっと氷の粒が僕の周りに漂ってるのが見えるから、動くたびにキラキラがちょっとずつ変化するんだよね。
「帰ったらお母さんやお姉ちゃんたちにも見せてあげよ」
魔法の効果が切れて下から舞い上がる氷のカーテンが消えるまで駆け回りながらその光景を楽しんだ僕は、お母さんやお姉ちゃんが喜ぶ顔を想像しながら家へと急いで帰ったんだ。
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