780 ニコラさんたちはお勉強に来てる人たちとおんなじ物をいつも食べてるんだって
帰ってきたお父さんたちが僕たちのこと臭いって言ったでしょ。
だから今日の晩ごはんはカテリナさんに頼んで、にんにくを使ったお料理にしてもらったんだ。
「私たちもいっしょで、本当にいいんですか?」
「だってディック兄ちゃんが、僕たちだけ臭いのはダメって言うんだもん」
それにね、僕たちと近いお部屋に住んでるニコラさんたちが臭いと困るからってディック兄ちゃんが言ったでしょ。
だからそのことをニコラさんたちに教えてあげたんだ。
「へぇ、そのおかげで私たちもおいしいご飯が食べられるんですね」
「ありがとうございます」
そしたらニコラさんたちはにっこり。
ディック兄ちゃんにありがとうって言って、僕たちとおんなじテーブルに座ったんだ。
「ニコラさんたちはいつも、何食べてるの?」
「この館に勉強に来ている人達と同じものですよ」
「使用人用の食事だから、それほどいいものは出ないんですよね」
ここにお勉強に来てる人たちは、僕たちとおんなじでカテリナさんたち料理人さんが作ったご飯を食べてるんだよ。
でも使ってる材料が僕たちとは違うんだって。
「ルディーン君はここの主人だし、カールフェルトさんたちはその家族でしょ。それにグランリルの村は裕福だから、食事に使う材料は結構いいものを使ってるって前にストールさんが言ってました」
「あっ、でも私たちの食事だってフランセン家の使用人さんたちと同じものだから、冒険者時代に食べていたものに比べると信じられないくらいいい物ばかりなんだけどね」
ロルフさんちはお金持ちだから、そこで働いてる人たちもいいとこの子ばっかりみたいなんだ。
だからニコラさんたちのご飯も、イーノックカウにある普通のご飯屋さんで食べるくらいのが出てくるんだってさ。
「ルディーン。話はそれくらいにして、そろそろ食べ始めるぞ」
「はーい」
僕が元気にお返事すると、みんなでご飯前のお祈りをして食べ始めたんだよ。
でね、おいしいねって言い合ったり今日あったことのお話しをしながらご飯を食べてたんだけど、流れでゴブリンの村をやっつけに行ったお話になったんだ。
「お父さん。ゴブリンの村はやっつけられなかったんだよね?」
「ああ。馬鹿な奴らが先走ったせいでな」
なんかあんまり強くない冒険者さんたちが先にゴブリンたちをやっつけようとして、逆にぼこぼこにされちゃったんだって。
それを助けようとしたもんだから、ほんとは今日中に終わるはずだったのに失敗しちゃったんだよってお父さんが教えてくれたんだ。
「そっかぁ。その冒険者さんたちは大丈夫だったの?」
「死にはしなかったが、大怪我をしたからなぁ。神殿で治療しないとどうにもならないレベルのケガだったから、間違いなく後遺症は残るだろう」
ゴブリンをやっつけに行った中に偉い神官さんがいたらきれいに治っただろうけど、森からイーノックカウの大神殿まではちょっと遠いでしょ。
着くまでの間に傷がちょっとだけ変な風に治っちゃうから、魔法を使ってもきちんと元の通りには戻らないみたい。
「帝都やダンジョン都市の大神殿にいる高位神官ならきちんと治せるだろうけど、とんでもない金がかかるからあいつらじゃとても払えないだろう」
「それでも、手足を失ったりしてないから何とかなるんじゃない? ちょっと苦労はするだろうけど」
いっしょに行ったテオドル兄ちゃんがそう言うと、お父さんが今回のことはニコラさんたちにとっていい教材になったなって笑ったんだ。
「あいつらは確かに考え無しの無謀な行動をした。だが、死ぬどころか、部位欠損さえなく助かっただろ。なぜか解るか?」
「防具を整えていたからですか?」
「ああ、そうだ。あいつらはバカだが、その基本だけはちゃんと守っていたんだ。だから多少は苦労するだろうけど、冒険者として復帰することもできる」
お父さんはニコラさんたちに、防具はどれほど大事なのかを教えてあげたんだよ。
「ゴブリンは非力だが、それだけに相手の行動を奪ってから仕留めようとする狡猾なところがある。これはニコラちゃんたちもよく思い知っているだろう?」
「はい」
ニコラさんたちはお互いのお顔を見ながら頷いてる。
「でもちゃんとした防具で身を固めていれば、あの馬鹿どものようにゴブリンの集中攻撃を受けても何とか無事生還することができるんだ。だから防具だけは決しておろそかにしてはいけないんだ」
「僕たちでも森に入る時は、体だけじゃなく腕や足も防具でしっかりと守るからね」
テオドル兄ちゃんの言う通り、イーノックカウの森には弱っちい魔物しかいないのにお父さんもお兄ちゃんたちもしっかり防具を付けて出かけてったもん。
それをニコラさんたちも見て知ってるから、お父さんたちのお話を真剣なお顔で聞いてるんだ。
「僕も! 僕も森に行く時はお父さんに買ってもらった、革のひもをぐるぐるってするやつをいっつも足に着けてるんだよ」
「あれは簡易的なものだけど、ゴブリンの粗末な武器くらいからなら足首を守ってくれるからな。ちゃんと付けて偉いぞ」
「えへへっ」
僕が笑ってると、お母さんがハイハイッて言いながらおててをパンパンってならしたんだ。
「ハンス、説教臭い話はもうそれくらいにしましょうよ。ニコラちゃんたちも今日のことで防具の大切さはよく解っただろうから、今はカテリナさんの作ってくれたお料理を楽しみましょう」
「ああ、そうだな」
そんな訳で、防具のお話はこれでおしまい。
「それじゃあさ、他のお話をしてよ。ゴブリンの村でなんか面白いことなかった?」
「いや、討伐作戦でおもしろいことなんかあるはずがないだろう」
だから他になんか面白いことなかったの? って聞いたら、ディック兄ちゃんに呆れられちゃった。
でもね、テオドル兄ちゃんが笑いながらゴブリンの村でのことを教えてくれたんだよね。
「面白いかどうかは解らないけど、そう言えばゴブリンが変なものを用意してたなぁ」
「変なのってなに?」
「ゴブリンがお父さんと僕たち、それにイーノックカウの冒険者たちに襲われて洞窟に逃げ込んだんだけど、その時鉄格子のようなもので入り口をふさいじゃったんだ」
それを聞いて、ディック兄ちゃんもあれには驚いたなぁって。
「ゴブリンがあんなものを作れるなんて知らなかったよ」
「いや、そんな技術はないはずだぞ。というか、あんなのが作れるのなら洞窟なんかには住まないだろう」
お父さんが言うには、帰りがけに見てたら冒険者の人たちが盾を構えてその鉄格子みたいなのに体当たりしてたんだって。
でもびくともしてなかったから、そんなのをゴブリンが作れるはずがないって言うんだ。
「あれが作れるなら、ゴブリンたちの装備はもっといいものになっていたはずだろ。でも、持っていた武器は刃こぼれだらけだったし、防具は体のサイズに合わないものばかりだった」
「そう言えばそうだね。でも、それならあれはどこから拾ってきたんだろう?」
「さてな。その辺りは斥候役の冒険者が突き止めてくれるんじゃないか?」
ゴブリンの村に一緒に行った冒険者さんたちの中には、いまもまだ残っていろいろ調べてる人もいるんだって。
だからお父さんは、明日になったら冒険者ギルドで聞いてきてあげるよって言いながらおいしそうにお酒を飲んだんだよ。




