774 さぁ、ゴブリン退治に出発だ
今回はハンスお父さん目線です。
少し時をさかのぼって、ゴブリン集落討伐の朝。
「みんな、おケガしちゃダメだよ。あっ、そうだ! もしおててや足が取れちゃったらちゃんと持って帰ってきてね。無いとくっつけられないから」
「お父さんやお兄ちゃんたちは強いけど、ゴブリンが見えないとこからえいやぁってしてくるかもしれないもん。だからみんな、おケガしないでね」
「お父さんもお兄ちゃんたちもお願いね。ゴブリンやっつけるのが楽しいからって、ニコラさんたちをほっといちゃダメだよ」
ニコラちゃんたちが心配なのか、いろいろと世話を焼いてくるルディーン。
最後には俺たちにニコラちゃんたちをほったらかして戦ったりしちゃダメだよなんて言い出す始末だ。
確かにゴブリンは弱いが、少しくらいは俺やディックたちの心配をしてもばちは当たらないだろうに。
そんなことを考えながらディックに頭をなでられているルディーンを苦笑しながら眺めていると、近くにいた最後の冒険者が門を出て行くのが見えた。
「さて、そろそろ俺たちも行くか」
流石に遅れる訳にもいかないからなとディックたちの声をかけると、ルディーンが不思議そうな顔でこう尋ねてきたんだ。
「あっ。そう言えばお父さん、ゴブリンの村まで案内するってギルドマスターのお爺さんに言ってなかったっけ? もっと早く行かなくってもよかったの?」
「森の入口で一度集まってから行動することになってるからいいんだよ」
今回は参加する冒険者の数が多いからな。
イーノックカウの門で集合するとぞろぞろと大人数で移動することになる。
森の外とは言え、多くの人間が徒党を組んで移動すれば森の中にまでその物々しさが伝わるかもしれないだろ。
だから森の入口で集合して、そこからは各自冒険者ギルドの指示に従って行動することになっているんだ。
「それにしても早く行かないとギルマスがやきもきするから、ハンスも急いだ方がいいと思うわよ」
「そうだな。じゃあ行ってくる」
「はい、いってらっしゃい!」
こうして俺たちは両手を力いっぱい振るかわいいルディーンの姿に癒されながら、イーノックカウを後にして森の入口にある商業ギルドの天幕を目指した。
「やっと来たか」
天幕につくと、早速筋肉だるまの爺さんがお出迎えだ。
「まだ出発予定時間前だろ?」
「何を言っておる。ゴブリン集落の詳しい場所を知っているのはお前だけなのだから、来てもらわなければ作戦も立てられぬだろうが」
はて? 集落やルディーンが見つけた見張りのゴブリンたちの位置を記した地図は渡してあるはずだけどなぁ。
そんなことを考えながら急かすギルマスに背を押され、ディックたちと一旦分かれて天幕の奥へ。
するとそこには大きな地図が置かれたテーブルと、その前にいる数人の男たちの姿があった。
見知った顔は、ルディーンが世話になっているロルフさん子飼いのバリアンとか言うやつくらいか。
ギルマスが言うには、こいつらはイーノックカウの中でも比較的高ランクの冒険者や優秀な斥候職の冒険者たちらしい。
「ギルマス。こんな大きな地図があるなら、俺を待たなくても始められただろう」
「何を言っておる。実際に現地を見たものがおらねば、現在の状況は解らぬだろうが」
確かに、ゴブリンたちが集落を作っている洞窟なんてこの地図には書いてなかったからな。
それに洞窟前で周りを見張っているゴブリンたちの様子も、実際に見て来た俺じゃないと解らないか。
そんな訳でギルマスや参加する冒険者たちの質問を受けながら、今日の大まかな流れを把握するのだった。
「お帰り。集落討伐はどんな流れになるの?」
「基本は高ランク冒険者が最初に集落前で騒ぎを起こして、ゴブリンたちがある程度出てきたら隠れていた低ランクの冒険者たちがそいつらを引き付ける。そしてその隙をついて高ランク冒険者たちが洞窟内に突入するという流れだな」
テオドルの質問に答えると、今度はディックが質問を投げかけてきた。
「その流れだと、低ランク冒険者たちは固まって行動するんだろ? でも、さっきから少人数で出発してるみたいだけど」
「ああ、それはあれだ。イーノックカウからまとまってここまで来なかったのと同じ理由だよ」
いくら見張りのゴブリンがどこにいるのかが解っていると言っても、軍隊のように大人数で進軍すれば流石にばれてしまう。
だから最初はバラバラに森に入り、各自決められたルートで集落近くに移動して合流。
準備が整ったところで、高ランク冒険者たちが集落前にいるゴブリンたちのところに流れ込むという寸法だ。
「小人数なら例え見張りのゴブリンたちに見つかったとしても、わざわざ集落に連絡されることはないだろうからな」
「それで、俺たちはどう動くの?」
「俺たちはこのルート。大回りだが、ゴブリンと違って魔物は相手の強さに敏感だからな。ほかの連中となるべく離れて行動しないと、魔物の動きでゴブリンたちに警戒される可能性があるからそうしてくれとギルマスからのお達しだ」
ニコラちゃんたちが一緒だからあまり遠回りはしたくなかったのだが、イーノックカウの魔物たちが俺やディックたちにおびえて逃げ出したりしたらそれが原因で作戦がばれる可能性があると言われてはなぁ。
この作戦には弱い連中も参加するんだから、いらない危険を冒す必要もないだろう。
「そんな訳だから、俺たちの出発はさっきディックが話していた少人数で出かけ始めている第一陣の後半だな。準備はできてるか?」
「準備なんて、イーノックカウを出た時からできてるよ」
そんな軽口を叩きながら、俺たちは天幕を出て森の入口へ。
するとそこには、俺たちと同じように第一陣で出発する冒険者たちの姿があった。
「皆さん、緊張しているようですね」
「こんな大人数での作戦なんて、めったにないものね」
目を向けるとニコラちゃんたちの言う通り、緊張からか顔がこわばっているものもちらほら。
今からあんな感じで、本当に大丈夫なのかねぇ。
「まぁ、ゴブリンが相手とはいえ、弱い連中からしたら命懸けだからな」
「それは私たちも、身に染みて解っています」
そう言えばニコラちゃんたち、ゴブリンにやられそうだった所をルディーンに助けられたんだったな。
ここはひとつ、安心させる言葉でもかけてやろうかと思ったんだけど、残念ながらディックに先を越されてしまった。
「でも、今日は大丈夫。俺たちが一緒にいるからな」
「ええ、頼りにしています」
ディック的にはアマリアちゃんに言ったつもりなんだろうけど、答えてくれたのはニコラちゃん。
それも仕方がないことで、恥ずかしいのか明後日の方を向きながら言ったからなぁ。
ホント、情けない。
ディック、そんなことじゃいつまでたっても気持ちは伝わらないぞ。




