72 植物油発見!したんだけど……
お母さんにあったかいお湯で洗ってもらったおかげで体がほこほこした僕は、その後ベッドに戻るとお昼ごはんを運んできてくれたレーア姉ちゃんに起こしてもらうまでぐっすり眠れた。
そのおかげで朝はまだ少しだけふわふわしてた頭もすっきり。早すぎるレベルアップでおかしくなってた体はもう完全に回復したんだよね。
だから僕はベッドを出てお母さんに、
「ふらふらするの、お昼まで寝たら治っちゃった」
って言いに行ったんだ。
「そう、もう大丈夫なのね。よかったわ。でもね、ルディーン。今日は一日は念の為、大人しくしてるのよ」
そしたら笑顔で喜んでくれたんだけど、それでもお外に出かけるのは許してもらえなかったんだよね。
ちぇっ、レベルが上がって新しく使えるようになった魔法を試してみたかったのに。
でもお家で使ってみる訳には行かないから、僕は仕方なくイーノックカウで買ってきた本を部屋で読むことにしたんだ。
僕が開いたのは錬金術の本。
村にあった本で勉強した魔道具と違って、錬金術はブドウのタネから油を取ろうって思って急いで覚えた抽出とギルドでロルフさんに教えてもらった下級ポーションと属性魔石の作り方くらいしかよく知らないから、ゆっくりと本を読んで勉強しようって思ったんだよね。
で、最初のページから順番に読んでたんだけど、道具のそろえ方とか錬金術を使う時の心構えとかばっかりでちょっと退屈。
でもなぁ、だからと言って材料も無いから錬金術を実践してみる事もできないんだよね。
僕がいるのがいつも魔道具を作るのに利用している部屋なら魔石とかいろんな道具があるんだけど、今居る部屋はお兄ちゃんたちも一緒に寝る場所だから当然何にも置いてないんだ。
じゃあ移動すればいいじゃないかって話になるんだけど、さっきのお母さんの様子からすると、僕が魔道具を作る部屋に行こうとしたって止められちゃうと思うんだよね。
だから今は我慢。
魔道具の本だって最初はこんな感じだったし、このまま読み続ければきっと面白い所が出てくるはずだって思って僕は静かに本を読み進めたんだ。
そうして一時間くらい経ったころかなぁ?
「ルディーン、入るわよ」
お母さんがそう言って部屋に入って来た。
その手にはお盆に乗った木のカップと見覚えのあるちょっと大きめな木の実、僕たちがイーノックカウで買ってきたセリアナの実が乗ってたんだ。
「そろそろのどが渇いたんじゃないかって思って持ってきたのよ。飲むでしょ?」
「うん!」
どうやら僕がずっとお部屋で本を読んでたから、そろそろ休憩した方がいいと思ってセリアナの実を持ってきてくれたみたい。
で、お母さんはそう言うとお盆を近くのテーブルにおいてなにやら金属製の道具を取り出したんだ。
それは先端が斜めにカットされた直径3センチくらいの金属でできたストローのようなものに細い棒がTの字になるように付けられた道具で、お母さんはそれをセリアナの実に軽く突き立てた後、くるくると回し始めたんだよね。
そしたらその先端が硬いはずのセリアナの実の殻を簡単に突き破って、どんどん奥に入っていく。
そっか、あれはセリアナの実に穴を開ける為の道具なのか。
前にお父さんがセリアナの実のジュースはお母さんの大好物だって言ってたけど、こんな道具まで持ってるって事は本当に好きなんだね。
だってイーノックカウの酒屋さんで出された時は、売ってるお店なのにナイフみたいなもので穴が開けられてたもん。多分あれって露天とかでジュースを売ってる人が使う道具なんじゃないかな?
「はい。できたわよ、ルディーン」
お母さんはセリアナのジュースが入ったカップを僕に渡すと、続いて自分の分のジュースを取り出すために2個目の穴あけに取り掛かる。
それを見ながら何気なくお母さんの近くにあったお盆に目を向けると、そこには穴が開いたセリアナの実の横に、そこからくりぬかれた物がお皿の上に乗せられてたんだよね。
どうやらセリアナの実の中にはジュースの他に白っぽい果肉のようなものが詰まってるみたいで、パッと見結構おいしそう。
だからお母さんにこれは食べないの? って聞いてみたんだ。そしたら、
「う~ん、これは食べないわね。甘い香りがしておいしそうではあるんだけど、食べようとすると繊維が口の中に残る上にぬるぬるして美味しくないのよ。もしかしたら栄養があるのかもしれないけど、普通は捨ててしまうわ」
って、答えが帰って来たんだ。
そっか、美味しくないのか。あんなにおいしそうなのになぁ。
でも、もしかするとお母さんが言ったみたいに栄養がいっぱいあるかもしれないよね。
もしそうなら捨てられちゃうのはもったいないって思った僕は、とりあえず鑑定解析で調べてみたんだ。そしたらなんと、この白い果肉の40パーセント以上が油だったんだよ。
入ってる栄養に関してはコラーゲンとかセラミドとかよく解んないものばっかりだったけど、僕にとってはそんな事はどうでもいい。だって目の前のこの白い果肉を使えば植物性油が取れるかもしれないんだから。
そう、もしかしたらこのセリアナの油によって夢の調味料、マヨネーズができるかもしれないんだもん!
「どうしたの急に? なにかあったの?」
それに気が付いて興奮する僕にお母さんは何が起こったのか解らず心配するような声を掛けてきたから、もしかするとこのセリアナの実の果肉が錬金術で凄いものになるかもしれないのが解ったんだって教えてあげたんだ。
「へぇ、そうなの。これはみんなが捨ててる部分だから、本当に凄いものになるんなら大発見ね」
お母さんはそう言いながら僕の頭を撫でてくれたんだ。
お母さんにほめられて上機嫌な僕は、早速錬金術でセリアナの実から油を抽出する準備に入る。
とは言ってもこの部屋でやる訳にはいかないから、いつも使ってる魔道具を作る部屋に移動しなきゃいけないよね。だから、今解った事を早く確かめてみたいってお母さんに言ったら、
「仕方ないわね。家から出ないのならいいわ。でも疲れたらちゃんとやめるのよ」
って許してくれたんだ。
こうして僕の分とお母さんの分、二つのセリアナの実を持った僕はいつもの部屋へ移動。入るとすぐに金属トレイを出して、実の中から白い果肉をそこへかき出して行く。
で、それが終わると普通の錬金術で使われる解析をしたんだ。だって、とりあえずこれをしないと油を指定できないからね。
ところが、
「これ、繊維質以外の全部が油に溶け込んじゃってるのかなぁ? 油だけだと、今の僕じゃ指定できそうにないや」
やってみたらもっと錬金術のレベルが上がればできるかもしれないけど、今の僕のレベルじゃいろんな成分がいっぱい入ったものしか取り出せそうにないって事が解ったんだ。
でも前世の油にもいろんなものが入ってたし、取り出してみたら普通に使えるかもしれないよね。
よく解んない成分が並んでるけど毒になりそうなものは無いみたいだし、少しのアルコールを含んでるみたいだけどそれも本当にちょっとだからマヨネーズにして僕が食べても多分大丈夫だと思う。
と言う訳で早速抽出開始!
……あれ? なんで? 確かに油の抽出には成功したはずだよね? なのになんで液体じゃないの?
錬金術を使って僕がセリアナの実から取り出したものは、少しだけ黄緑がかった白いクリーム状のものだったんだ。
もしかして抽出に失敗したのかなぁ? って思った僕は詳しく調べる為にそのクリーム状の油らしきものを鑑定解析。
するとある事が解ったんだ。
「セリアナの油って、34度を超えないと解けはじめないんだ」
どうやらこの油、温めないと液体にならないみたいなんだよね。
「そっか。40パーセントも油が入ってるのにあんな状態だったんだもん、植物の油だからと言っても液体になるとは限らないか」
ちょっと納得したけど、これじゃあ動物の脂と同じでマヨネーズになんてできるはずない。
僕はこれを知って物凄くがっかりしたけど、でも折角作ったんだから何かに使えないかなぁって思って、解析結果の続きを読んだんだ。
そしたらこれ、実は本当に凄いものだったって事が解ったんだよね。
「セリアナって薬草だったんだ」
なんとこの油は肌にいい成分や保湿成分が多いらしくて、体に塗ると肌荒れを防止してくれるみたいなんだ。ただ、このままだとすぐに悪くなっちゃうみたいだけど。
でもさぁ。
「薬草と同じなら、ポーションにすれば長持ちするはずだよね?」
普通の薬草だって煎じた物は一日くらいしか持たないけど、ポーションにすれば長持ちする上に効果も高くなる。だからこれもきっとそうだと思った僕は、セリアナの油をポーションにしようと考えたんだ。
ところがこれが物凄く大変。だってこの油、薬になりそうな成分が多すぎるんだもん。
どうせ作るのならって思っていろんなものに魔力を込めようとしたんだけど、数がいっぱいあるから魔力の適量が解りづらいんだよね。
だから僕は鑑定解析でそれぞれの限界値を注意深く確認しながら焦らずゆっくりと、そして物凄く慎重に魔力を注ぐ事でやっと完成させる事ができたんだ。
でもそれだけ苦労した甲斐はあったんだよ。だって、
「ルディーン、これは本当に凄いわ! 日に焼けた肌がこんなにぷるんって」
このクリーム状のポーションをお母さんにプレゼントしてあげたら、僕を抱えあげてくるくる回っちゃうくらい喜んでくれたんだもん。
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