763 フィートチーネを取りに行ったら料理長さんも来ちゃったんだよ
バーリマンさんがペソラさんに頼んでフィートチーネをお家に取りに行ってもらったでしょ。
でもね、なかなか帰ってこないもんだからバーリマンさんはどうしたんだろう? って心配してるんだ。
「距離を考えると、いくらなんでも遅すぎるわね。何かあったのかしら?」
「この辺りは治安もよいし、憲兵も見回っておるからめったなことは起こらぬと思うが。ふむ、確かにちと遅く感じるのぉ」
バーリマンさんち、そんなに近いわけじゃないけど遠くもないんだって。
それにバーリマンさんやロルフさんが食べるものを運ぶんだから、帰りは絶対馬車に乗ってくるって言うんだ。
それならどう考えてももう帰ってきてないとおかしいんだけど、ペソラさんが帰ってこないもんだからロルフさんもどうしたんだろうって言ってるんだよね。
「案外フィートチーネがきれていて、いま作っている所だったりして」
そんな二人を見て、クリームお姉さんがそう言ったんだよ。
でもバーリマンさんは、それはないよって。
「いや、それならそうと連絡が来ると思うわよ。だってフィートチーネは作るのに時間がかかるもの」
「そういえばそうねぇ」
フィートチーネって、パンとおんなじで最後に生地を寝かさないとダメなんだって。
なんでかって言うと、練った小麦粉とお水がなじまないとぼそぼそ切れちゃうから。
でもそんなことしてたらすっごく時間がかかっちゃうでしょ。
だからもしそうだとしても、ペソラさんが今作ってるよって教えるために帰ってこないとおかしいんだって。
「でも、だったらなんで帰ってこないんだろう?」
僕がそう思って頭をこてんって倒してたらね、
カランカラン
お外のドアからベルの音が聞こえてきたんだ。
「あっ、帰ってきた!」
もしかしたらお客さんかもしれないけど、それだったらこんにちはって言うはずだもん。
だからペソラさんが帰ってきたと思って、お台所の入口を見てたんだよ。
そしたらおっきな男の人が入ってきて、びっくりしたんだ。
「お嬢様、遅くなりました」
「ユリウス、お嬢様はやめて頂戴といつも言ってるでしょ」
入って来たおっきな人は、バーリマンさんちの料理長をしてるモーガンさん。
そっか、フィートチーネを持って来てって言ったもんだから、それを料理するモーガンさんも来たんだね。
なら次に入ってくるのはペソラさんかな? って思って入り口を見てたんだけど、次に入って来たのもすっごくおっきな男の人だったんだ。
「何じゃ、クラーク。お前も来たのか」
「はい、旦那様。ルディーン君が何やら新しいものを作ったと聞いたもので」
二人目のおっきな人は、ロルフさんの東門の外にある方のお家で料理長をしてるノートンさん。
あれ? でも、ペソラさんはバーリマンさんちにフィートチーネを取りに行ったんだよね。
なのに何でロルフさんちの料理長のノートンさんがいっしょに来たんだろう?
僕がそう思って頭をこてんって倒してたらね、続いて今度こそペソラさんが入って来たんだ。
「ギルドマスター、お待たせしました」
「それはいいけど、なぜこんなに遅くなったの? 心配したじゃない」
「ああ、それに関しては私からご説明します。お嬢様」
バーリマンさんがお家に行けばあるって言った通り、フィートチーネの生地はモーガンさんが毎朝作ってるそうなんだよ。
だから今日もいつも通り作ってはいたみたいなんだけど、使用人さんたちのお昼ご飯にするためにもう茹で始めちゃってたんだって。
でも、そこにペソラさんが来てフィートチーネを持って来てってバーリマンさんが言ってるよってもらいに来たでしょ。
だからモーガンさんはどうしようって慌てたんだってさ。
「流石に今から作る時間は無いと途方にくれたのですが、そこにいるペソラさんからフランセン様も一緒にいらっしゃると聞かされまして」
ロルフさん、いつも錬金術ギルドにいるでしょ。
だからバーリマンさんちとロルフさんちもなかよしなんだって。
ロルフさんが一緒にいるって聞いたモーガンさんは、もしかしたらロルフさんちにフィートチーネがあるかもしれないって走って聞きに行ったそうなんだよね。
「そしたら偶然そこに、ノートンさんが居たのです」
モーガンさんもノートンさんも、僕からいろんなご飯やお菓子のことを教えてもらってるから、そのお話をするためになかよしさんになってるそうなんだよ。
だからフィートチーネがないか聞いた時に、ペソラさんが僕も錬金術ギルドにいるよって言ってたって教えてあげたみたいなんだよね。
「ルディーン君がいて、フィートチーネという普段錬金術ギルドでは使わない食材を所望している。これはまた何やら新しい料理が生まれるのではないかと思い、本宅にあったフィートチーネを持ってきがてら私もご一緒したという訳です」
旦那様が気に入った料理を私が作れないという事態は避けなくてはなりませんからって言いながら、ニッコリ笑うノートンさん。
それを見たロルフさんは、長いお髭をなでながら苦笑い。
「わしのためと言いながら、その実ルディーン君の料理に対する興味の方が強いのではないか?」
「はい、それは否定いたしません」
それを聞いたノートンさんはね、さっきと違ってニカッて笑いながらそう言ったんだ。




