762 キャリーナ姉ちゃんはあまいものが好き
あとがきにも書いてあるのですが、誤字報告があったので前書きにも記載
作中に出てくるフィットチーネと思われる食材をフィートチーネと書いてあるのは誤字ではなくわざとです。過去に出て来た食材なので。
「ルディーン。なんか茶色っぽくなってきたけど、大丈夫なの?」
お鍋の中のにんにくスライス、煮てるうちに油の中でちょっと茶色っぽくなってきたんだよね。
だからお母さんは、火が強くって焦げちゃったんじゃないかって心配になったみたい。
「うん。もうちょっと濃い茶色になったらできあがりだよ」
「そう。これで間違ってないのね」
だから大丈夫だよって教えてあげると、安心したみたい。
そのまま火にかけてくれたから、僕はちょうどいいくらいの色になった時にもういいよって教えてあげたんだ。
「お母さん。それをこの木のボウルに入れちゃって」
「その、網が載っているのに入れればいいのね」
お母さんはそう言うと、お鍋の中の油とにんにくスライスを網の上からボウルの中にどばって入れたんだよ。
そしたら油だけボウルに落ちてにんにくスライスだけが網の上に残ったから、僕は動かないように網の端っこを持ちながらおさじで広げてったんだ。
「油はすぐに乾いちゃうから、その間にポップコーンを作っちゃお」
「ええ、いいわよ」
ってことでお母さんはさっきまでとおんなじようにとうもろこしの種とバターを入れようとしたんだけど、僕はそこでちょっと待ってって止めたんだ。
「お母さん。これは普通の油で作って」
「バターじゃなくていいの?」
「うん。だってさっきの油とにんにくを後でかけるもん」
バターを使うといいにおいがするし、ちょびっとだけ甘くなるんだよ。
でもにんにくの方がにおいがすごいし、どっちかって言うと甘くない方がおいしいみたいなんだ。
だからほんとだったら胡椒とかをかけてもおいしいみたいなんだけど、そしたら辛くなって僕やキャリーナ姉ちゃんが食べられなくなっちゃうもん。
そんなのやだから、今日はお塩だけのポップコーンに、にんにくをかけることにしたんだ。
「それじゃあ、フライパンを火にかけるわよ」
お母さんがとうもろこしの入ったフライパンを魔道コンロの上で動かしてたら、そのうちポンポンって音がしだしたんだよ。
だから僕、もうそろそろいいかなって網の上のにんにくスライスを確認したんだ。
「うん。ちゃんと乾いてるね」
サラサラカリカリになってるにんにくスライスを見て僕がうんうんうなずいてたらね、クリームお姉さんが上からぬぅってのぞき込んできたんだ。
「おいしそうな色をしているけど、それをどうするのかな?」
「あのね、このままじゃポップコーンと一緒に食べられないから叩いて細かくするんだよ」
僕はそう言うと、網の上のにんにくスライスをおさじでちょびっとだけ掬って底の浅い木の器の中へ。
その上から先っぽが丸い木の棒でとんとんして、粗目の粉にしたんだ。
「なるほど、これを塩みたいにポップコーンに振りかけるのね」
「うん。においがちゃんとつくくらい油を入れちゃうとベタベタになるから、これも混ぜるんだ」
クリームお姉さんとそんなお話をしている間に、ポップコーンができあがったみたい。
「ルディーン。これにその粉とさっきの油をかければいいの?」
「ううん。その前にお塩で味付けして。これだけだとおいしくないから」
にんにくはいいにおいがするけど、味はあんまりないでしょ。
だからお塩を振って木のへらでわっさわっさしてもらってから、さっきにんにくのスライスを煮た油をおさじで掬ってその上からたらり。
そして砕いたにんにくスライスをその上からパラパラかけて、もう一回わっさわっさしてもらえばにんにく味のポップコーンの完成だ。
「ルディーン。もう食べていい?」
「うん、いいよぉ」
僕がそう言うと、キャリーナ姉ちゃんはさっそく一つ摘まんでパクリ。
そのままもぐもぐしてたんだけど、
「う~ん。これもおいしいけど、私はあまいポップコーンの方が好き。ねぇ、ルディーン。そっちのきゃらめるっての、もう食べてもいいかな?」
「もう乾いてると思うからいいよ」
「やったぁ」
キャリーナ姉ちゃんはそう言うと、さっき乾かしたキャラメルポップコーンをパクリ。
「やっぱりこっちの方が、絶対おいしいよ」
そう言いながら、そのままキャラメルポップコーンを食べ始めちゃったんだ。
でも、せっかく作ったのに食べてもらえないのは悲しいよね。
だからちょっぴりしょんぼりしてたら、クリームお姉さんが僕の頭をおっきなおててでぽんぽんしたんだ。
「ルディーン君。私もそのニンニク味、食べてもいいかな?」
「いいの? あまくないよ?」
「私は大人だからね」
クリームお姉さんはウィンクしながらそう言うと、ニンニク味のポップコーンを3つくらい一気に摘まんでパクリ。
そしたらちょっとびっくりしたお顔になって、ロルフさんの方を見たんだ。
「フランセン様。これ、多分領主様がかなり気に入ると思いますよ」
「ほう。それはかなり期待できるのぉ」
ロルフさんはそう言うと、一つ摘まんでパクリ。
その隣では、バーリマンさんがおんなじように一つ摘まんでお口に放り込んだんだ。
「なるほど。これはいろいろと想像してしまう味じゃな」
「ええ。次の社交シーズンで出せば話題になりそうですわね」
そしたら、なんか変なこと言いだすんだもん。
だから僕、何を言ってるのかなぁって頭をこてんって倒したんだよ。
そしたらクリームお姉さんが笑いながら、ロルフさんたちに言ったんだ。
「振った私が言うのもなんですが、子供たちの前で生臭い話はどうかと思いますよ」
「おっと、確かにその通りじゃな」
「そうですわね。ルディーン君がせっかく作ってくれたのですから、今はただ楽しむことにしましょう」
う~ん、よく解んないけど大人の世界のお話だったのかな?
クリームお姉さんのおかげでそのお話はやめになって、ロルフさんたちはお酒が飲みたくなるねって言いながらおいしそうにニンニク味のポップコーンを食べ始めたんだ。
でね、ちょっとの間3人でもぐもぐしてたら、クリームお姉さんがなにかに気が付いたようなお顔をして聞いてきたんだよ。
「ルディーン君。この茶色くなったにんにく、他にも使い道があるんでしょ。どんなのがあるの?」
「あのね、焼いたお肉にそのままのっけてもいいし、粉にしたのを葉っぱのお野菜のサラダにかけてもおいしいんだよ。あとね」
僕はそう言うと、ちょっと考えてからお母さんに聞いたんだ。
「お母さん、あれなんだっけ? フィ何とかっていう、平ペッたくてちょっと硬い棒を茹でて食べるやつ」
「フィートチーネのこと?」
「そう、それ! それをこっちの油と一緒にかけて食べてもおいしいと思うよ」
僕はそう言うと、にんにくスライスを煮た油の入ったボウルを指さしたんだ。
そしたらさ、ロルフさんがバーリマンさんに聞いたんだよ。
「ギルマス。ここにはフィートチーネは置いておらぬのか?」
「流石に、ここには無いですわ。あっ、でも館にはあるでしょうからペソラを使いにやって持って来させましょう」
なんかお話しを聞いてたら食べたくなっちゃったみたいで、バーリマンさんのお家にならあるから持ってきてもらおうよってお話になったんだ。
だからね、僕、もう一個教えてあげることにしたんだ。
「あのね、僕やキャリーナ姉ちゃんは食べられなくなっちゃうからダメだけど、辛いのを入れるともっとおいしくなるんだよ」
「辛いものをとな?」
「うん。トウガラシって言う、これくらいの長さの赤いとんがったお野菜がすっごく辛いんだけど、それを輪切りにしてさっきの油に入れたらおいしくなるみたい」
僕が指でこれくらいって教えてあげると、ロルフさんとバーリマンさんはちょっとびっくりしたお顔に。
「ギルマス。あの実はここにあるな?」
「はい。体を温める効能がある薬草ですから当然ございます。すぐに取ってまいります」
バーリマンさんはそう言うと、そのまま台所の外へ。
でね、ちっちゃな麻の袋を持って帰ってきたんだ。
「ルディーン君。君が言っている赤いお野菜って、これのことよね?」
「うん、そうだよ。バーリマンさん、トウガラシのこと、知ってたんだね」
僕がニコニコしながらそう言うと、なんでかロルフさんとバーリマンさんは苦笑い。
「前にちょっとね」
「うむ。二人で味を見たことがあるのじゃよ」
なんでそんな変なお顔をしてるのかよく解んないけど、とにかくトウガラシがこの世界にもあることを僕は知ったんだ。




