761 薬草は古くなると使えなくなっちゃうんだって
ロルフさんは倉庫に行っただけだからすぐに戻ってくるでしょ。
だから特別なことはしないで、ニンニク味のポップコーンを作るのに使う道具を出しちゃうことにしたんだ。
でもね、一つだけいるものがどうしても見つからなかったんだ。
「あっ、ここって網が置いてない」
錬金術ギルドの台所って、いつも使う訳じゃないでしょ。
だからなのか、普段のお料理に使うもの以外は置いてないみたいなんだよね。
そのせいか、金属製の網が、いくら探しても見つからなかったんだ。
「ルディーン、網なんて何に使うの? この魔道コンロじゃ、網焼きはできないよ」
「違うよ、キャリーナ姉ちゃん。網は油をきるのに使うんだ」
僕が考えてるのを作ろうと思ったら、揚げたにんにくと油を分けないとダメなんだよね。
だから絶対に網がいるんだけど、ここには無いんだ。
「そうだ! 無いなら作ればいいじゃないか」
そう思った僕は、腰のポシェットから鋼の玉を一個取り出したんだよ。
でね、体に魔力を循環させてクリエイト魔法を発動! サラダボウルくらいの木の器にのっかる丸い金網ができあがったんだ。
「おや、ルディーン君。魔法など使って、何を作っておるのかな?」
そしたら丁度そこにロルフさんが帰ってきたんだよね。
だから僕、すぐに聞いたんだよ。
「あっ、ロルフさん。にんにくってここにないやつだけど、使っていいの? バーリマンさんに怒られない?」
「そんなことを心配しておったのか。大丈夫じゃよ。このにんにくのように刺激が強く匂いもきつい薬草はあまり使用されないのじゃが、あまり長い間置いておくと薬効が落ちてしまうからのぉ。定期的に交換しておるから、使ったところで問題はなかろう」
にんにくってお薬にする成分はいっぱい入ってるんだけど、強すぎるから人によっては使うとお腹が痛くなっちゃうことがあるんだって。
それにこの匂いが絶対いやって人もいるから、効果は低くても別の薬草を使ってお薬を作ることも多いそうなんだ。
だからお料理に使えるって解るまでは、長い間置いといて乾燥してきたやつはみんな捨てちゃってたんだよって教えてくれたんだよね。
「あっ! でもこれ、まだ新しいやつだよ。真っ白だし、周りの皮もパンってしてるもん」
「おお、よく見分け方を知っておるの。確かにこれは比較的新しいものじゃ。しかし、どうせ食べるのならばそちらの方が良いじゃろう?」
ロルフさんはね、おいしいものが食べたいからってわざわざいいのを選んで持ってきたんだって。
「だったらバーリマンさんに怒られるんじゃないの?」
「大丈夫じゃよ。もし急に必要となったら、わしの館から運ばせればよいだけの話じゃ」
ロルフさんは錬金術が大好きだから薬草としても持ってるし、この頃はお料理にも使うからお家の台所にもいつも置いてあるんだって。
だからこれを使っても大丈夫って言うもんだから、僕はロルフさんが持ってきたにんにくを使うことにしたんだ。
「わかった! じゃあ、使うね」
「うむ。おいしいものを作っておくれよ」
使って大丈夫ってことになったから、早速お料理開始。
まずは皮むきなんだけど、前にロルフさんちの台所でやった時は麻の袋があったからそれに入れてバンバンしたんだよ。
そしたら皮が破れて簡単に取れちゃうんだけど、錬金術ギルドにはそんなものないもん。
だから一個一個、ナイフで先っぽを切りながらむきむき。
「このにんにく、粒がおっきくておいしそうだね」
「うむ。小さいものは薬効も少ないからのぉ。錬金術ギルドでは比較的粒の大きい物だけを仕入れておるのじゃよ」
そんなことをお話ししながら薄い皮を全部むくと、今度は粒を横にしてスライスしてったんだ。
でね、それが全部終わると真ん中の芽のところを串で抜いてけばにんにくの下ごしらえは完成だ。
「結構手間がかかるのじゃな」
「うん。でもこうしとかないとおいしくならないんだよ」
ロルフさんとそんなお話をしながら、僕はそのにんにくをちっちゃなお鍋の中へ。
そこに植物の油を入れたら、お母さんにはいって渡したんだ。
「お母さん。こっからは火を使うからやって」
「ええ、いいわよ。これを火にかければいいのね」
「うん。お鍋を傾けてにんにくが全部油の中に入るようにして、ちっちゃな火であっためてね。じゃないとすぐに焦げちゃうから」
「解ったわ」
お母さんはそう言うと、魔道コンロをつけて僕に火の大きさを聞きながらにんにくと油を熱し始めたんだよ。
そしたらちょっとずつ油があったまってきて、ちっちゃな泡が出てくるころには今までのとは比べ物にならないくらいすっごくいいにおいがお鍋の中からしてきたんだ。
「ルディーン。すっごいにおいだね」
「おっきなにんにく、全部切っちゃったからね」
ホントはそんなにいらないんだけど、外の皮を破って一度ばらばらにしちゃったら他のも乾いてっちゃうでしょ。
だから全部スライスしちゃったんだよね。
でもその分お鍋の中にはにんにくがいっぱい入ってるから、そのにおいもすっごいことになってるんだ。
だからなのかなぁ?
「なになに? この暴力的なまでのいい香りは」
「ルディーン君、一体何を始めたの? 気になって思わず来てしまったけど」
石のクリエイト魔法を使える錬金術師さんのことをお話してるはずのバーリマンさんとクリームお姉さんが、僕たちのいる台所に入って来たんだ。
「あっ、クリームお姉さん。もうお話しは済んだの?」
「いいえ、まだ途中よ。でも今までに体験したことのない、凄くいい香りがしてきたものだから話を中断してきてしまったのよ」
にんにくを油で煮た匂いって、すっごいもんね。
別のお部屋に居ても、思わず来ちゃうのも解る気がする。
「それで、何を作っているのかな?」
「ポップコーンだよ。さっき作ってくるねって教えたじゃないか」
「いやいや、これはポップコーンの香りではないと思うんだけど」
そう言ってお鍋を火にかけているお母さんを見るクリームお姉さん。
そしたらお母さんはくすくす笑いながら、何をやってるのかを教えてあげたんだ。
「ルディーンがにんにくという薬草を使ったポップコーンもおいしいと言いだしたので、それを作っているんですよ」
「にんにく? 初めて聞く名前だけど、香りからして香草の類よね? 料理に使う香草の中にこんな強烈な香りのするものってあったかしら」
「ほっほっほっほっ。レーヴィ坊が知らぬのも無理はない。薬の素材としては有名じゃが、それが食材として使えると判明したのはつい最近じゃからな」
僕が教えてあげてから、にんにくや生姜をお料理に使う人はちょっとずつ出てきてるんだって。
でもそういう人はまだ薬屋さんや錬金術師さんの知り合いがいる人だけだから、クリームお姉さんだけじゃなくほとんどの人が知らないんだよってロルフさんは言うんだ。
「なにせ、まだ薬師ギルドと錬金術ギルド、それと領主や一部貴族くらいにしか発表されておらぬからのぉ」
「なるほど。だから聞いたことがなかったのですね」
そう言ってうんうん頷いてる、クリームお姉さん。
でもね、そこでキャリーナ姉ちゃんがこんなこと言ったんだよ。
「あれ? にんにくってうちでも食べてるよね。それにこの街にあるルディーンのお家でも使ってたし」
「うん。だって、マロシュさんのお店で見つけた時買ってったし、僕んちで料理長をしてくれてるカテリナさんにも教えてあげたからね」
「なんだ、そっかぁ」
僕とキャリーナ姉ちゃんがそんなお話をしながら笑ってたらさ、クリームお姉さんがなんか言いたそうなお顔でロルフさんのお顔を見てたんだよ。
そしたらそれに気付いたロルフさんも、ニコニコしながらうなずいたんだよね。
「ルディーン君は料理スキル持ちでのぉ。切り株薬局を訪れた時、にんにくが良い調味料になると教えてくれたのは彼なのじゃよ」
「やっぱり」
クリームお姉さんはそう言うとね、今度はすっごく変なお顔をしながら僕の方を見たんだ。




