760 バターチーズのポップコーンはお酒と一緒に食べてもおいしいんだって
「ルディーン。ポップコーンができたけど、これにそのチーズをかけるの?」
「ううん。その前に、まずお塩を入れて」
僕がお母さんにお塩を入れてった頼んだから、キャリーナ姉ちゃんがびっくりして聞いてきたんだ。
「チーズのお味にするんじゃないの?」
「そうだよ。でも、粉にしたチーズだけだとあんまり味がしないから、先にお塩で味付けしておくんだよ」
そう教えてあげるとキャリーナ姉ちゃんも納得したみたい。
お母さんに早く早くって言って、お塩をポップコーンに混ぜてもらったんだ。
「できた? それじゃあ、それをこのボウルに入れて」
僕が出したのはおっきめのボウル。
そうじゃないとチーズを混ぜる時にこぼれちゃうかもしれないもんね。
「それじゃあ、入れるわよ」
そう言って、一気にドバっとポップコーンを入れるお母さん。
それが終わると僕の方にボウルを渡してくれたから、早速チーズを削って……。
「どうしよう、うまく削れない」
僕は削る道具とチーズを持って削ろうとしたんだよ。
でも削る道具もチーズもすっごく重たかったもんだから、両方持つとおててがプルプルして削ることができなかったんだよね。
そしたらそれを見たロルフさんがほっほっほって笑ってこう言ったんだ。
「ふむ。ルディーン君にはどちらも、ちと大きすぎたようじゃな。どれ、グレーターを貸して見なさい」
「グレーター?」
「その、チーズを削る道具のことじゃよ。わしがそれをボウルの上に持って行くから、ルディーン君はチーズを両手に持って削ればよかろう」
そっか、両方持とうと思うからおててがプルプルしちゃうんだもん。
チーズだけだったら両手で持てるから、言われた通りロルフさんが持った削り器の上でギコギコしたんだよ。
「あっ、いいにおいがしてきた」
キャリーナ姉ちゃんの言う通り、まだあっついポップコーンに粉のチーズがかかるとちょっと溶けていい香りがしてきたんだよね。
だから僕のおててにも力が入って、さっきよりも早くギコギコ。
「これくらいでいいかな」
でね、なんとなくこれくらいが一番おいしいんじゃないかなぁって思ったところで、僕はチーズを動かすのをやめたんだ。
「お母さん。木のへらでポップコーンとチーズを混ぜて」
「ええ、いいわよ」
お母さんが二本の木のへらを使ってわっさわっさすると、チーズとポップコーンがどんどん混ざっていってあっと言う間に完成!
それを見たキャリーナ姉ちゃんは、もう我慢できないってお顔で聞いてきたんだよ。
「ルディーン。もう食べてもいいの? いいよね?」
「うん。おててにチーズが付くけど、それは冷えてもおんなじだもん。だからもう食べてもいいよ」
僕がそう言うと、キャリーナ姉ちゃんはやったぁ! って言いながら一つ摘まんでパクリ。
「ルディーン。これ、すっごくおいしいよ!」
「どれ、それではわしも頂くとするかの」
それに続いてロルフさんも一個食べたんだけど、そしたら何でか黙っちゃったんだよね。
「どうしたの、ロルフさん。なんか変だった?」
「いやな。先ほどのただ塩を振っただけのものと違い、このチーズ味のポップコーンはこれだけで一つの料理として立派に完成しておったから少々驚いたのじゃよ」
ロルフさんはね、今までにもバターとチーズの味がするお料理を何度か食べたことがあるんだって。
でもそのお料理はすっごく手がかかってたのに、これはポップコーンにお塩と粉にしたチーズをかけただけでしょ。
それなのにおんなじくらい美味しかったもんだから、びっくりしちゃったんだよって教えてくれたんだ。
「これならば、ワインの共として客に出しても十分満足してもらえる味じゃな」
「そっか。じゃあ、お父さんに出したら喜ぶかなぁ」
僕がそう言うとね、お母さんがちょっと怖い笑顔になってこう言ったんだ。
「ダメよ、ルディーン。ハンスはこの頃お酒の量が増えてるんだから」
「そっか。おいしいのと一緒に飲んだら、もっといっぱい飲んじゃうもんね」
お母さんの意見に、キャリーナ姉ちゃんも賛成みたい。
僕に絶対食べさせちゃダメよって二人で言ってきたんだ。
「しかし、ただチーズをかけただけでこれほどの味となるとはな。のう、ルディーン君。このような調味料は、他にもあるのかな?」
「他に、お酒に合いそうなの?」
そう言われて僕、両手を前で組んで頭をこてんって倒したんだよ。
でね、う~んって考えてたらいいのを思い出したんだ。
「マロシュさんのお店に、にんにくってのがあったでしょ。あれでもおいしいのが作れるよ」
「切り株薬局で教えてもらった、あのにんにくか」
マロシュさんっていうのはハーフリングって言う種族の小っちゃいおじさんで、切り株薬局の店主さん。
前にジャンプの魔法でロルフさんちに行ったら今日はそこに行ってるって言われたから、ストールさんに連れてってもらったんだよ。
でね、そこでマロシュさんから、にんにくと生姜がこの世界にもあるんだよって教えてもらったんだ。
「あれはお肉とかのお料理にも使うんだけど、お菓子に入れてもおいしいんだ。あっ! でも今から買いになんていけないからダメかぁ」
「いや、そんなことはない。にんにくならば、この錬金術ギルドにもあるはずじゃ」
これを聞いた僕はびっくりしたんだ。
だってここにはおっきな台所があるけど、それはバーリマンさんとこの料理長さんがたまに来てお昼を作るためでしょ。
だから僕、まだお料理に使えるって解ったばっかりのにんにくがあるなんて思ってなかったんだもん。
「なんで、ここにあるの?」
「ルディーン君。君は忘れておるようじゃが、にんにくは本来薬の材料であろう。それが錬金術ギルドにあっても、何の不思議もあるまい」
そっか! 錬金術師さんのお仕事はマジックポーションなんかのお薬を作ることだもん。
薬局に売ってるにんにくがあっても変じゃないよね。
「少々待っておれ。倉庫にあるはずじゃから、持って来るでな」
教えてあげたにんにくのポップコーンが食べてみたいのか、ロルフさんはそう言うとすぐに台所を出てっちゃったんだよ。
そしたらそれを見たお母さんが、ほっぺたにおててを当てながらこんなこと言ったんだ。
「いいのかしら? ギルドマスターはここにあるものなら使ってもいいと言っていただけでしょ。それに薬の材料というのなら、調味料ですらないし」
「あっ! 黙って使っちゃったら、バーリマンさんに怒られちゃうかも」
でも、ロルフさんはもうにんにくを取りに行っちゃったでしょ。
「お母さん。ロルフさんが帰ってきたら、ほんとに使っちゃってもいいのか聞いてから作ろうよ」
「ええ、その方がいいと私も思うわ」
とりあえず心配するのは後回し。
ロルフさんが帰って来て作ってもいいよってことになった時のことを考えて、僕とお母さんはにんにくのポップコーンを作る準備だけはして置くことにしたんだ。




