758 いきなりおっきな音と悲鳴が聞こえたらびっくりするよね
「火が出ると魔道リキッドをいっぱい使うのかぁ」
だったら魔道コンロを作っちゃダメだよね。
そう思った時、僕はここでも頭の隅になんか引っかかったんだ。
「あれ? お母さん。僕んちホットプレートやオーブンとか使ってるけど、あれはいいの?」
「ええ。あれは火が出ないでしょ。だからクーラーや冷蔵庫と同じで、特に魔道リキッドを多く使う訳じゃないもの」
「そっかぁ。火の魔石を活性化させたり魔力を使ったりして鉄板をあっつくしてるだけだもんね」
さっきお母さんが火が出るようにすると魔道リキッドがいっぱいいるって言ってたけど、あれは火の魔力が出てるだけでしょ。
それだったら魔道リキッドはあんまり使わないみたいだから、グランリルのお家で使ってても村長さんに怒られないんだって。
「あっ、そうだ! それじゃあ火が出ない魔道コンロを作ればいいんじゃないか!」
僕がそう言うと、キャリーナ姉ちゃんがバカだなぁって笑ったんだよ。
「火が出なかったらコンロじゃないじゃないの」
「火が出なくってもあっつくすることができるもん。だったらコンロみたいになるじゃないか!」
前の世界には火の出ないコンロがあったんだよね。
どんな風にできてるのかは解んないからおんなじのは作れないけど、入れたものをあっつくするだけだったら雲のお菓子を作る魔道具の時に作ったことがあるもん。
だから僕、きっと火の出ない魔道コンロも作れると思うんだよね。
そのことを教えてあげると、キャリーナ姉ちゃんはそっかあって納得してくれたみたい。
「それじゃあほんとに魔道コンロ、作れるの?」
「えっと、どうだろう?」
そうはいってみたけど、作れるのかはよく考えてみないと解んないんだ。
だって前の世界にあった火の出ないコンロ、それがどうやってできてたのかなんて僕知らないもん。
「火の魔石をいっぱい並べて付けたらいいんじゃないの? 熱くなるんでしょ」
「そうだけど、いっぱい付けたら魔道リキッドがいっぱいいるんじゃないかなぁ?」
ちっちゃい魔石でも、いっぱい活性化させようとしたらそれだけ魔力がいるでしょ。
魔力がいるってことは、魔道リキッドがいっぱいいるってことだもん。
そんなの作ったら、きっと村長さんにコラーって怒られちゃうと思うんだよね。
「そっかぁ。ルディーンでも難しいんだね」
「うん。変なの作ってお母さんが村長さんに怒られたら困っちゃうからね」
うちにあるオーブンや冷蔵庫だって、ちょこっとの魔石で作れたでしょ。
だからう~んと考えれば、きっといい考えが浮かぶと思うんだ。
「でも今日はポップコーンを作る日だから、また今度考えてみるよ」
「うん。がんばって作ってね」
キャリーナ姉ちゃんと魔道コンロを作るねって約束すると、僕たちはまたポップコーンを作るお手伝いに戻ったんだ。
「それじゃあ、フライパンを火にかけるわよ」
「は~い」
魔道コンロのお話をする前に、もう作る準備自体はできてたでしょ。
ってことで、お母さんはさっそくバターととうもろこしの種がいっぱい入ったフライパンを火にかけたんだ。
そしたらさ、だんだん溶けたバターのいいにおいがしてきたんだよね。
「キャリーナ姉ちゃん。いいにおいだね」
「うん! できるのが楽しみだね」
二人でいつものように、ねーってしてたらね、
ポン!
フライパンの中からとうもろこしの種が弾ける音が聞こえたんだ。
「あっ、始まった!」
最初の一個が弾けると、そこからはすごかったんだよ。
ポンポンポン、カン、ポンポン、カンカンカン、ポンポン!
中の種がすっごい勢いで弾け始めて、その音と中で弾けたポップコーンが鉄の蓋にあたる音とでうるさいくらい。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんはきゃあーって言いながら、大笑いしてたんだよ。
でもそこで、台所のドアがバンッて大きな音を立てて開いたんだよね。
「この音は何じゃ! ルディーン君は無事か!?」
そう言って入って来たのは、錬金術ギルドの受付にいたはずのロルフさん。
「あれ? ロルフさん、どうしたの?」
「どうしたのって、すごい音がした後、君とお嬢ちゃんの悲鳴が聞こえたから、慌てて飛んできたのじゃ」
あっ、そっか。ロルフさん、ポップコーンのできる音を聞くのは初めてだっけ。
それに僕とキャリーナ姉ちゃんがふざけてきゃあーって言ったもんだから、びっくりしちゃったんだね。
「じゃが、その様子からすると特に問題は無いようじゃな」
「うん。さっきお菓子を作るって言ったでしょ。ポップコーンて言うんだけど、できる時にすっごい音がするから僕とキャリーナ姉ちゃんはふざけてきゃあーって言っちゃったの。ごめんなさい」
「ごめんなさい」
僕とキャリーナ姉ちゃんがごめんなさいすると、ロルフさんはいいよいいよって笑って許してくれたんだ。
「しかし、本当にすごい音がするのじゃな。これで本当に菓子ができておるのかのぉ?」
「うん。とってもおいしいんだよ。もうすぐできるから、ロルフさんも一緒に食べようよ」
カウンターの番もしなきゃダメだけど、錬金術ギルドってあんまりお客さん来ないもん。
それにもし来ても、誰もいなかったら奥に声をかけてくれるでしょ。
ロルフさんが音と僕たちのふざけた声を聞いて飛んできたの見て解る通り錬金術ギルドのお店からそんなに離れてないから、ドアを開けとけばきっと大丈夫だよね。
「ふむ、そうじゃな。せっかく来たのじゃから、ご相伴に預かるとしよう」
ロルフさんはそう言うと、近くにあった椅子に寄っこいしょって座ったんだ。
でね、それからちょっとしたらフライパンの中のポンポンって音がしなくなったから、お母さんはふたを開けて中にお塩をパラパラ。
そのまま何回か振ると、用意しておいたおっきな木のボウルの中にできあがったポップコーンをざーって入れたんだ。
「ほう。これがポップコーンとやらか」
「うん。最初のはね、お塩だけの味なんだよ」
僕はそう言いながらポップコーンの入ったボウルをロルフさんの前に入って置いてあげたんだ。
そしたらありがとうって言ってから一つ摘まんでパクリ。
「ふむ。変わった食感の菓子じゃな。かなり軽いが、しかしバターを使っておるからか味はしっかりとしておる」
そのあと3つくらい続けてお口に放り込んだ後、ロルフさんは僕たちも食べなさいって言ったんだよ。
「わーい! いただきまぁす」
僕とキャリーナ姉ちゃん、それにレーア姉ちゃんはさっそくポップコーンを取ってパクリ。
「ルディーン。蜂蜜みたいに甘くないけど、やっぱりこっちの方がさっきのお店のよりおいしいよ」
「うん。バターの方がおいしいって、僕もそう思う」
そう言いながらみんなでもぐもぐ。
ロルフさんはそんな僕たちを見てニコニコしながら、お母さんに聞いたんだよ。
「先ほどルディーン君が最初は塩味を言っておったが、これには味のバリエーションがあるのかな?」
「ええ、さっき露店街で食べたものは蜂蜜を水で溶いたものがかかっていましたし、先日作ったものは砂糖を火にかけて焦がしたものをかけて食べたりしたんですよ」
「あとね、モーガンさんが焦げたお砂糖にバターとミルクを混ぜてキャラメル味を作ってくれたんだよ。あれもすっごくおいしかった!」
モーガンさんていうのは、バーリマンさんちの料理長さん。
前に錬金術ギルドでポップコーンを作った時は、モーガンさんが手伝ってくれたからとってもおいしかったんだよね。
「モーガンがおったということは、ギルマスはもうこの菓子を味わっておるのじゃな?」
「うん。そのことをクリームお姉さんに教えてあげたら食べたいって言ったんだよ。だから僕たち、ポップコーンの材料を買って帰ってきたんだ」
そう教えてあげると、ロルフさんはニコニコしながらそうかそうかって。
「なるほど。そのおかげでわしは、この菓子を食べることができたという訳じゃな。それでは後で、レーヴィ坊にお礼を言わねばなるまいのぉ」
ロルフさんはそう言うと、僕たちの前にあるボウルの中からポップコーンを一個摘まんでそのままお口の中にポーンって放り込んだんだ。




