756 よかった。バーリマンさん帰って来てた!
ちょっと開いたから、物語のおさらい。
ぬいぐるみのおめめを作るために石のクリエイト魔法が使える錬金術師さんがいないか聞こうと思ったら、ギルドマスターのバーリマンさんがお留守だったんだ。
だからお腹がすいてた僕たちは、待ってる間に何か食べたいねって屋台街に行ったんだよ。
でね、そこでポップコーンを見つけて食べたんだけど、僕が作ったのとは使ってるものが違っててちょっとだけおいしくなかったんだよね。
一緒に来てた裁縫ギルドのクリームお姉さんにそのことを教えてあげると、それも食べてみたいって言いだしたもんだから材料を買って錬金術ギルドで作ることにしたんだ。
カランカラン
「ただいまぁ! バーリマンさん、帰ってきた?」
錬金術ギルドの赤いドアを開けると、僕は元気よくそう言ったんだよ。
そしたらいつものカウンターに座ってるロルフさんの横に、このギルドで受付のお仕事をしてるペソラさんがいたんだ。
「いらっしゃい、ルディーン君。ギルドマスターなら私と一緒に帰って来て、今奥に荷物を置きに行ってるわよ」
「やったぁ! クリームお姉さん、バーリマンさん帰って来てるって」
「あら、ほんと? よかったわぁ」
すっごくおっきいからなのか、おっきな入口なのになんでかちょっと頭を下げながら入ってくるクリームお姉さん。
そしたらそれを見たペソラさんが、びっくりしたような声を出したんだよ。
「わっ!」
「ああ、ごめんなさい。驚かせてしまったみたいね。私は裁縫ギルドのギルドマスターでクリームって言うの。よろしくね。ここのギルドマスターに用事があるのはルディーン君ではなく、この私なのよ」
クリームお姉さんは右のほっぺたに手のひらを当てながらそう言うとにっこり。
そしたらそれを見たペソラさんは、失礼しましたって言いながら頭をぺこってさげたんだよ。
「変な声を出してしまって、こちらこそ申し訳ありませんでした。すぐにギルドマスターを呼んでくるので、しばらくお待ちください」
「おねがいねぇ~」
手をひらひらさせながら、ペソラさんを見送るクリームお姉さん。
でもすぐにまじめなお顔になってロルフさんにこう言ったんだよ。
「フランセン様、お待たせして申し訳ありませんでした」
「いやいや、構わぬよ。それよりルディーン君たち、露店街は楽しかったかな?」
「うん! 新しいお菓子がいっぱいあったよ」
「でも、ルディーンが作ったのの材料を変えたのばっかりで、あんまりおいしくないのが多かったんだよ」
僕とキャリーナ姉ちゃんはお顔を見合いながら二人で、ねーってしたんだよ。
「ふむ。何やらかわいいしぐさをしておるのぉ」
「これ、この頃この二人の間で流行っているみたいなんですよ」
そんなことを話しながら、ロルフさんとお母さんは僕たちを見ながらニコニコしてたんだよね。
ガチャ
そしたらカウンター奥の扉が開いて、バーリマンさんとペソラさんが出てきたんだ。
「いらっしゃい、オレナン卿。私がギルドを留守にしていたことで、少しお待たせしたようですね」
「いえいえ、こちらが前触れもなく伺ったのが悪いのですから。あと、今回は裁縫ギルドのギルドマスターとして来ているので、どうぞギルドでの通称であるクリームとお呼びください」
「ふふふっ、解りましたわ」
ニコニコしながらご挨拶をするバーリマンさんとクリームお姉さん。
「それで、今日はどのような用件で?」
「実は石にかけるクリエイト魔法を使える方をどなたか紹介して頂けないかと思いまして」
クリームお姉さんは裁縫ギルドでぬいぐるみというものを作っていること、それの目に使う石の加工を頼める人を探してるんだよって教えてあげたんだよ。
「魔法使いを探したのですが、どうやらこの街にはいないようでして。困っている時にギルドを訊ねて来たルディーン君から、錬金術師の中にいるのではないかと教えられたのです」
「なるほど。確かに魔法を生業にしている者たちは、わざわざ石の加工に魔法を使おうなどと考えないでしょうからね」
石って鉄とかより安いから、それを使って作られてるものもやっぱり安いんだよね。
だから他のお仕事でいっぱいお金がもらえる魔法使いさんたちは、がんばって石のクリエイト魔法を覚えようなんて思わないんだってさ。
「その点錬金術師は変わり者が多いですからね。趣味で石や木材の加工を魔法で行う者もいるのですよ」
「では、この街にも?」
「はい。何人か心当たりがありますわ」
これを聞いて、クリームお姉さんは大喜び。
「その方を紹介しては頂けないでしょうか?」
「いいですけど、どのような作業をするのか具体的にお聞きしても? それによってどなたを紹介するか判断せねばなりませんから」
「そうですね。それに条件面も予め伝えておいた方が話もスムーズに進むでしょうから、そちらの話もいたしましょう」
ここからはちょっと難しいお話しになっちゃうでしょ。
だから錬金術ギルドのカウンターじゃなくって、奥のお部屋でお話をすることになったみたい。
「伯爵、ペソラはこの件でお使いを頼む必要があるかもしれないので同席させます。申し訳ありませんが、引き続きここをお願いしてもよろしいですか?」
「うむ。構わんよ」
店番をロルフさんに頼んで、バーリマンさんは奥のお部屋に行っちゃうみたい。
だからその前に、僕はお願いすることにしたんだ。
「バーリマンさん。ここのお料理するお部屋、使ってもいい?」
「ええ、いいけど。お腹がすいているの?」
「ううん、違うよ。お菓子を作る材料を買って来たから、バーリマンさんとクリームお姉さんがお話ししてる間に作っちゃおうって思ったんだ」
さっき屋台や露店でポップコーンの材料を買って来たでしょ。
僕はそれをクリームお姉さんと一緒に作ろうって思ってたけど、バーリマンさんから石のクリエイト魔法を使える人を教えてもらわないとダメだもん。
だからお母さんやお姉ちゃんたちと作って、できあがったものを食べてもらおうって思ったんだ。
「そうなの? それなら厨房にある調味料を含めて、すべて自由に使ってもいいわよ」
「ありがとう! ロルフさんにも作ったのを後で食べさせてあげるからね」
「ほっほっほっ。それは楽しみじゃのう」
ウィンクしながらオッケーしてくれるバーリマンさんと、長いお髭をなでながら笑うロルフさん。
それに私の分も忘れないでねって笑うクリームお姉さんに見送られながら、僕とお母さん、それにお姉ちゃんたちは錬金術ギルドの台所に向かったんだ。