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722 また僕のお菓子に似たのを見つけたんだよ

 一つ見つけられたからなのか、次の新しいお菓子のお店はすぐに見つかったんだよ。


 それも、さっきと違って今度のお店にはあんまり人が並んでなかったのに。


 なのになんで見つけられたのかって言うとね、お店の人がおっきな声でこんなこと言ってたからなんだ。


「最近商業ギルドで公開されたばかりの新しい菓子だよ。話のタネにでも買っていかないか」


「キャリーナ姉ちゃん。新しいお菓子だって」


「うん。行ってみよっ!」


 それを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんは、おててをつないでそのお店に行ってみたんだよ。


 でもね、そこで売ってるのもを見てキャリーナ姉ちゃんががっかりしたんだ。


「ルディーン、ここもダメみたい」


「何故そう思うの?」


 キャリーナ姉ちゃんは僕に言ったのに、答えたのはなんでかクリームお姉さんだったんだよ。


 でも僕たちの後ろからいきなり聞いてきたもんだからお姉ちゃん、すっごくびっくりしちゃったんだよね。


 だから、代わりに僕がお返事することにしたんだ。


「あのね、キャリーナ姉ちゃんはあれに似たのを僕んちでよく食べてるからなんだよ」


「へぇ、そうなの」


 クリームお姉さんはそういうと、僕たちの頭の上から新しいお菓子が売ってるっていう屋台を見たんだよね。


「あら、あれって今話題の高級菓子屋さんで売ってるのと似てるじゃない」


「おにぃ……お姉さん、お目が高い。今、イーノックカウで話題のお菓子ですよ。おひとつどうですか?」


 屋台のおじさん、最初にお兄さんって言いそうになったけど、クリームお姉さんが怖いお顔になったからあわてて言い直したんだ。


 だからなのか、クリームお姉さんはそれなら一つもらうわって。


「毎度あり」


 焼き立てほかほかのそのお菓子を持って、クリームお姉さんは僕たちと一緒にちょっと離れたとこにいたお母さんのところへ。


 そこでさっきのお店の方を見て、小さな声でこっちを気にしている様子はないみたいねって言ったんだよ。


 でね、買ったばっかりのお菓子を僕たちの方に見せながら聞いてきたんだ。


「ねぇ、キャリーナちゃん。なぜこのお菓子を一目見ただけで、すぐにダメって思ったの?」


「だってちゃんとした小麦粉を使ってないし、卵も使ってないもん」


「それにこれ、ちゃんとふくらんでないもんね」


 僕とキャリーナ姉ちゃんは、二人してこんなのダメだよねって言ったんだよ。


 そしたらクリームお姉さんは、ちょっと困ったような笑顔に。


「材料が違うのは仕方がないかな。これは銅貨二枚で売っているような安いお菓子だからね」


「銅貨二枚だとダメなの?」


「ええ、そうよ。だって卵は一個、銅貨5枚はするもの」


 これを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんはびっくり。


 だって卵の値段なんて知らなかったもん。


「それにこれ、香りからするとお砂糖を使ってるでしょ。そのことを考えると、小麦の芯だけを挽いた白い小麦粉を使うのもこの値段では難しいでしょうね」


「そっか、安いからいろんなのが入って無いんだね」


 クリームお姉さんのお話を聞いて、僕は胸の前で腕を組みながらうんうんってうなずいたんだよ。


 そしたらさ、それを見たクリーム姉さんが今度は僕に聞いてきたんだ。


「ルディーン君もさっき、ちょっと気になることを言っていたわよね」


「気になること?」


「ええ。これを見て、ふくらんでないからダメって言ったじゃない」


 あっ、そういえばそんなこと言ったっけ。


 そう思ってなんでそう言ったのかを教えてあげようとしたんだけどね、今度はキャリーナ姉ちゃんがさっきのお返しって感じで僕の前にお返事したんだ。


「ルディーンが作ったパンケーキはね、もっとふっくらしてとっても柔らかいのよ」


「へぇ、キャリーナちゃんの家ではこれをパンケーキって呼んでるのね」


 クリームお姉さんが買ったお菓子、キャリーナ姉ちゃんの言う通りパンケーキっぽいものなんだよね。


 じゃあ何で今までそう言わなかったかって言うと、だって僕が作ってるのと全然違うものだったから。


 でもキャリーナ姉ちゃんがパンケーキって言うんだよって教えてあげたもんだから、クリームお姉さんは手に持ったお菓子をじっと見た後、パクって食べたんだよ。


「あら、ほんと。似てると思ったけど、前に食べたスポンジって言うお菓子とはかなり違うのね」


 これを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんはすっごくびっくりしたんだ。


 だってスポンジケーキとパンケーキは全然違うものだもん。


「違うよ。スポンジケーキは卵で膨らむけど、これはベーキングパウダーもどきで膨らむんだもん」


「へっ? べーきん……なに?」


「名前を聞いても解らないと思うわよ。お皿を洗ったりする時に使う粉があるでしょ。ルディーンが言ってるのは、あれのことなの」


 せっかく教えてあげたのに、クリームお姉さんは何のことか解んなかったみたい。


 だからお母さんが代わりにベーキングパウダーもどきのことを教えてあげたんだ。


「まぁ、あの粉で小麦粉がふくらむの?」


「ええ。私も初めて聞いた時は驚いたけど、本当にふかふかのパンみたいになるのよね」


 お母さんがそういうとね、それを聞いたクリームお姉さんは手に持ったお菓子をじっと見たんだよ。


 だからほんとにこれがベーキングパウダーもどきで膨らんだのかなぁ? って思ってると僕は思ったんだ。


 でもね、それはちょっと違ったみたい。


「ふかふかなパンていうけど、これ、そこまで柔らかくないわよ。どちらかと言うと、歯に少し引っかかる感じがするし」


「う~ん。多分、アマンダさんが最初に作った時とおんなじなんじゃないかなぁ」


 僕がそう言うと、クリームお姉さんはこっちを見て頭をこてんって倒したんだ。


 だからなのか、お母さんが笑いながら教えてあげたんだよね。


「ルディーンが言うには小麦粉はよく混ぜると粘り気が出るから、これを作る時は粉を良く振って、それを水にササっと混ぜるくらいがいいそうよ。アマンダさんはそれを知らなかったから、パンを作る時と同じくらいしっかりと練って失敗したらしいわ」


「えっ、それでちゃんと溶けるの?」


「ちょっと置いといたら、全部溶けちゃうから大丈夫だよ」


 クリームお姉さん、アマンダさんとおんなじこと言ってる。


 そう思って僕がくすくす笑ってると、レーア姉ちゃんがこう言ったんだよ。


「ルディーンのお菓子って一見簡単に作れそうに思えるものが多いけど、小さなコツを知っているか知らないかでかなり違ったものができちゃうみたいなの」


「コツねぇ」


「うん。さっきのお店でも、ルディーンが凍らす時にかき混ぜないといけないって言ってたでしょ。あれもそのコツの一つで、混ぜながら凍らせることでとっても滑らかになるんだから」


 このお話を聞いて、お母さんもうんうん頷いてるんだよ。


「前に村に生えている草の汁で作るわらびもちってお菓子を教えてもらったんだけど、あれも大変ではあるけどちゃんと粘りが出るまではしっかりと練らないとぼそぼそになっちゃうのよね。それを知らずに作り方だけを聞いたら、きっとあまりおいしく無いものができあがると思うわ」


「なるほど。裁縫もそうだけど、いい物を作るのにはちゃんとした手順を踏むのと、しっかりと手間をかけることが大事なのね」


 クリームお姉さんは手に持ったパンケーキっぽいお菓子をパクって食べてから、


「ねぇ、ルディーン君。これと比べてみたいから、今度私にもそのパンケーキってのを食べさせてね」


 そう言って僕に向かってパチンって音がするようなすっごいウインクをしたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 前にあとがきで書いたことがあるけど、パンケーキってホットケーキミックスを使ってもうまく作れないくらいコツを知らないと失敗するお菓子なんですよね。


 この屋台のおじさんはコツなんて当然知らないし、小麦粉ではなく全粒粉を使い卵まで省いているのですから多少できが悪くても仕方がありません。


 それにベーキングパウダーの使い方もよく解ってないでしょうしね。


 それでは大声で人を呼ばないと売れないのも仕方がないかと。


 さて、来週なのですがまた泊り出張があります。その準備などで次話を書く時間が取れないので申し訳ありませんが金曜日はお休みさせて頂き、次回更新は来週の月曜日になります。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
ルディーンが本物を適正価格で販売したら、周りはどうなるのでしょうね。 更にそいつらの前で、見本販売として“同価格”で販売したら、ひどい営業妨害かもね。
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