70 起きたらベッドの上だった
「あれ? お家だ」
次に目が覚めた時、目に映ったのは見慣れたいつも僕が寝ている部屋の天井だった。
ただ、聞こえる音はいつもとまったく違っていて、
「お父さんだけならともかく、お母さんまでいて何やってるのよ!」
「ルディーンはまだ小さいのよ! お母さんも私たちと一緒に怒ってたのに、なんで一緒になって!」
「ルディーン、一日たってもまだ起きないんだよ。ぐすっ、もしもう起きなかったらどうしよう……」
お嫁さんになって家を出てったヒルダ姉ちゃんと2人のお姉ちゃんが物凄く怒ってる声が、僕が寝てる部屋まで聞こえてきたんだ。
そして、
「おかあさん。ルディーンにいちゃのとこ、いっちゃだめ? スティナ、ルディーンにいちゃとあそびたい」
スティナちゃんの寂しそうな声が僕の耳にまで届いたんだ。
こうしちゃ居られない。
僕はスティナちゃんのお兄ちゃんなんだから、あんな声を出させちゃダメなんだ。そう言う思いから、なんとかベッドから立ち上がろうとしたんだけど、
どてっ。
体にはまったく力が入らなくて、起き上がろうとした僕はそのままベットから落ちちゃったんだ。
「っ!? 今の音って」
「まさかルディーンがベッドから?」
「大変!」
その音が話をしているリビングにまで聞こえちゃったのかな? 怒りの声をあげていたお姉ちゃんたち3人が急に慌てたような声をあげたんだよね。
そして、
「ルディーン、大丈夫!?」
部屋に飛び込んでくるお姉ちゃんたち……より先に飛び込んでくるスティナちゃん。
「ルディーンにいちゃ、おきた? ならいっしょにあそぼ」
にっこり笑いながら、遊びに誘われちゃったんだ。
「ルディーンはまだ寝て無くちゃいけないんだから、今日は我慢しようね」
「うん……」
スティナちゃんの誘いになんとか答えようと思ったんだけど、遊ぶどころか立ち上がる事も出来なかった僕を見たヒルダ姉ちゃんの手によってストップがかかった。
と言う訳で僕はベッドに戻され、スティナちゃんはヒルダ姉ちゃんに説得されて帰って行ったんだ。
そして僕が目を覚ましたって事で、お姉ちゃんたち3人によるお父さんとお母さんへの説教も終了。
お父さんとお姉ちゃんたちはあんまり大人数が居てもだめだろうからって言って出て行き、お母さんだけが僕の看病の為に部屋に残ったんだ。
「お母さん、僕どうしちゃったの?」
頭がふわふわしてベッドの上で起き上がる事もできそうに無かった僕は、寝たままでお母さんにそう聞いたんだ。だって何が起こったのかまったく解んないんだもん。
僕の中ではついさっきまで森にいたはずだし、何よりまだブラウンボアと戦ってる最中だったはずなのに。
なんとなくやっつけたような気もしないでもないけど、それなら僕がこんな所に寝かされてるのはおかしいよね?
そう言えば魔物は最初に攻撃してきた人を攻撃するって言ってたから、もしかするとやっつけたように見えたブラウンボアが、あの後すぐに起き上がってきて僕を跳ね飛ばしたのかも? でもそれにしてはどこも痛くないんだよなぁ。
そんな僕の疑問をよそに、お母さんは僕が今寝かされている理由を話してくれたんだ。
「それはねぇ、ルディーン。多分森に入り始めた子供がよくなる症状と同じものだと思うわ。これは狩りを始めたばかりの子がよくなる病気のようなものだから心配する必要はないのよ。でも普通なら一日もすればよくなるんだけど、ルディーンは一日以上眠ってたのにまだ直らないからみんな少し心配してね。だからお父さんとお母さん、お姉ちゃんたちに怒られちゃったのよ。ルディーンはまだ小さいのに、もっと大きな子達と同じような事をさせたからじゃないかってね」
へっ? それって早くレベルアップしすぎたせいで体の強化に頭が付いていかなかった時に起こるやつだよね? イーノックカウの森で僕もなった。
って事は、もしかして。
僕はお母さんにばれないよう、こっそりステータスを開いてみたんだ。
そしたら。
ルディーン
ジョブ :賢者《10/30》
サブジョブ:レンジャー《1/30》
「ええっ!?」
「どうしたの、ルディーン!?」
自分のレベルを見て僕がびっくりしていきなり叫んだもんだから、お母さんは大慌て。それはそうだよね、今まで体の具合が悪くって寝てた子供が急にこんな声あげたんだもん。
でも、僕はそれ所じゃなかったんだ。
お父さんたちに森に連れて行ってもらえるまでの僕は、確か3レベルだったはず。なのになんで急にレベルが7も上がってるの?
「大丈夫? どこか痛いの?」
ドラゴン&マジック・オンラインでは低レベルのキャラクターが一度に多くの経験値を入手すると10レベルを上限に一気にレベルが上がるなんて事があったけど、いくら高レベルのブラウンボアを倒したって言っても今回はお父さんたちとパーティーを組んでたからそんな物凄い経験値が入ったとは思えないんだよね。
ならなんで?
確かにゲームでは始めたばかりの人が友達と早く一緒に遊べるようにと、高レベルの人と組んで強い魔物を倒してももらえる経験値が減らない仕様だったよ。
でも今回は別に50とか60レベルのキャラに混じって狩りをしたわけじゃなく20レベル以下のパーティーに入って狩りをしたんだから、2レベルとか3レベルならともかく7レベルも一気に上がるなんて考えられないんだよね。
「ルディーン、返事をして。誰か、来て! ルディーンが、ルディーンが!」
ん? 待って。そう言えば自分のレベルより高い魔物を狩った場合は、もらえる経験値がプラスされたはず! いやでも、それは狩った魔物よりパーティーのレベルが低い場合だからなぁ。
お父さんたちでもブラウンボアはソロで倒せないみたいだからパーティーの誰よりもレベルが高い魔物なのかもしれないけど、でも回復役が居ないパーティーでの狩りなんだからゲームの時ほど強敵を倒してるってわけじゃないだろうし……。
そう考えると一匹倒したからって3レベルが10レベルまで一気に上がるほどの経験値がもらえるとはとても思えないんだよね。
ゆさゆさ。
と、そこまで考えた所で僕の体が急に物凄い勢いで揺さぶられたんだ。
「ルディーン! ルディーン!」
何事!? そう思った僕は慌てて周りを見渡すと、お母さんがなぜか泣きそうな顔をして僕の名前を叫んでたんだよね。
「ちょっと、お母さん。どうしたの? まだ頭ふらふらするんだから、そんなにゆすったら……」
ああ、頭がまたぐわんぐわんって。
ベッドに寝たままなのに、考えてた事が一気に頭から零れ落ちそうなくらい頭がふわふわする。おまけに目も周ってきて、僕はまたきゅ~って目を回しちゃったんだ。
でも今度は森の中みたいに気を失ったわけじゃないから、5分ほどでなんとか回復。
と言う訳でお母さんに、
「何で急に僕を揺すったの? 頭、まだふらふらするんだから揺すっちゃダメじゃないか!」
って言ったら、お母さんはごめんなさいって謝ってからこう言ったんだ。
「だってルディーンがいきなり黙り込んじゃって、お母さんがいくら呼んでも何の反応もしてくれなくなっちゃったんですもの。今度は目を開けたまま気を失ってるんじゃないかって思ってびっくりしたのよ」
「そうなの?」
「ええ。ルディーンの名前をお母さんがいくら叫んでもこっちを見てくれないし、お父さんもヒルダたちも今家にいないから、パニックになってしまったのよ。でもよかったわ、気が付いてくれて」
僕、考え事に集中しちゃったせいでお母さんに呼ばれても気付かなかったのか。
それじゃあびっくりしちゃっても仕方ないね。
「ごめんなさい。どうしてこうなっちゃったんだろうって考えてたら、お母さんの声、聞こえなくなってたみたい」
「いいのよ、ルディーンが無事なら」
話を聞くとどうも僕が悪いみたいだから謝ると、お母さんは涙を拭きながら笑って許してくれた。
泣くほど心配させちゃったんだね。お母さん、本当にごめんなさい。
それもこれも1人で考え込んじゃったからなんだろうなぁって思った僕は、ブラウンボアをやっつけた時の事をお母さんに聞く事にしたんだ。
そしたら何故僕のレベルがこんな急に上がったのかが解るかもしれないからってね。
「ブラウンボア? ああ、ルディーンはあの後すぐに気を失っちゃったからその時の事が気になるのね」
そう言ってうんうんと頷いたお母さんは、あの時何があったのか教えてくれたんだ。
とは言ってもお母さんもはっきりとは解んないらしい。
だからこれはあくまでクラウスさんとお父さんがやっつけたブラウンボアを調べて出した結論みたいなんだけど、どうやら一度目のマジックミサイルでブラウンボアの頭の骨に結構大きなひびが入ってたみたいなんだ。
そんな脆くなってた所に二度目のマジックミサイルをカウンターで受けたもんだから、頭の骨が更に脆くなっていたみたい。
で、とどめに突進のスピードと自分の体重が乗ったまま大木にぶつかった事で、頭蓋骨が砕けて死んじゃったんじゃないかな? ってのがお父さんたちの考えみたい。
なるほど、あのブラウンボアは弱ってる所に自分の力で更にダメージを受けて頭が潰れて死んじゃったってわけか。
ん? って事は僕の魔法でしかダメージを与えてないんだよね? ならもしかして、そのせいで一人で倒したって事になったとか?
ブラウンボアはお父さんたちが作戦を立てた上でパーティーで挑む魔物だから20レベル近い魔物のはずだよね。それを3レベルの僕が倒したって事は……。
何で僕がベッドの上から動けないくらい一気にレベルが上がっちゃったのかが、この話を聞いてたった今、解った気がしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
解っている方も居ると思いますが、ブラウンボアと戦う前に1レベル上がっていたのでルディーン君がブラウンボア戦で上がったレベルは7では無く6です。まぁ微々たる違いですが。
ブックマークが目標の100を超えました! 次の目標は日間ファンタジーの100位以内です。
流石に100ポイント近くは難しいかもしれませんが、もし応援していただけるのでしたら、下にある評価を入れて頂けると本当にありがたいです。




