721 いっぱい人が並んでるお店を見つけたんだけど……
びっくりしすぎて動かなくなっちゃったクリームお姉さん。
でも、そのままだとお菓子を買いに行けないでしょ。
だから僕、クリームお姉さんのおててを引っ張んたんだ。
「いつまでも固まってないで、お菓子買いに行こうよ」
「えっ? ええ、そうね。行きましょうか」
クリームお姉さんはまだなんか変だったけど、とにかく僕たちは露店や屋台を見て回ることにしたんだ。
「新しいのがあるって言ってたけど、このあいだお菓子を買った時とあんまり変わんないね」
でもね、ちょっと見て回っただけじゃあんまり珍しいお菓子は見つからなかったんだよね。
だからクリームお姉さんにそう言ったんだけど、もしかしたらこの辺りじゃないのかもしれないよって。
「新しいものが売っているって言っても、それほど多いわけじゃないと思うもの。もう少し探せば、変わったものも出て来るわよ」
「そっか。みんなが新しいの、売ってるわけじゃないもんね」
僕たちは珍しいお菓子が無いかなぁって、そのまま露店街をうろうろしたんだよ。
そしたらさ、キャリーナ姉ちゃんがなんか見つけたみたいであれを見てって前の方を指さしたんだ。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「あそこ、人がいっぱいいるよ。あれが新しいお菓子を売ってるとこじゃない?」
そう言われて見てみると、ほんとに人がいっぱいいたんだよね。
だから僕たちは、その屋台に向かったんだ。
「何が売ってるんだろう?」
人がいっぱい並んでるけど、何が売ってるのかは横から見れば解るでしょ。
だから僕、そ~っと覗いてみたんだ。
そしたらさ、お店のおばさんが丸くへこんだちっちゃな銅の穴になんか白いのをジャーって入れてたんだよね。
だから僕、前の世界にあったたこ焼きってのに似てるようなものを作ってるのかな? って思ったんだよ。
でもね、白いのを入れても全然ジューって言わないんだもん。
「あれ? 焼いてるんじゃないのかな?」
そう言って頭をこてんって倒したら、お店に並んでたお姉さんが笑いながら教えてくれたんだ。
「あれは焼く魔道具じゃなくて、入れた液体を凍らせる魔道具らしいわよ。ここはね、つい最近商業ギルドに登録された牛の乳にお砂糖を混ぜて凍らせた『あいすくりむ』って言うお菓子の屋台なの」
それを聞いて僕はすっごくびっくりしたんだよ。
だって屋台のおばさん、穴に牛乳を入れただけでかき回さないんだもん。
あれじゃあ、ただ牛乳が凍るだけじゃないか!
僕はそう思ってもんくを言おうとしたんだけど、そこで誰かにお口をふさがれちゃったんだ。
誰だろうって思って後ろを見ると、そこに居たのはお母さん。
「もう! なんでお口をおててでふさいじゃうの!」
「ルディーンが余計なことを言わないようによ」
お母さんはそう言うと、僕のおててを引っ張ってちょっと離れたとこに連れてっちゃったんだ。
「ほら見てごらん。みんな楽しみってお顔をして屋台に並んでるでしょ?」
「うん」
「お母さんもあれはアイスクリームじゃないと思うわよ。でもあそこでルディーンが、こんなのアイスクリームじゃないって言ったらどうなると思う?」
そう言われて僕、う~んって考えたんだよ。
こんなの違うよって言ったら、お店のおばさんが怒っちゃうよね。
そしたら並んでるお客さんたち、あのお菓子を買えるのが遅くなっちゃう。
「みんな買えなくって怒っちゃうかも」
「ええ、そうでしょ。みんなはあれが食べたくて並んでいるんだから、ここではあれがアイスクリームなのよ」
そっか、みんなアイスクリームを食べたことないからあれがほんとは違うもんだよって言っても解んないよね。
それにあんなにいっぱい人が並んでるなら、みんなおいしいって思ってるってことでしょ。
だったらお母さんの言う通り、あれでいいのかも?
僕がそんなこと思ってたらね、クリームお姉さんがなんか変なお顔をして聞いてきたんだよ。
「えっと、シーラちゃん。あれが本物じゃないって、どういうことなの?」
「ああ、それはルディーンが作ってくれたものとかなり違うからですよ。本物は牛の乳と砂糖だけじゃなくて、なまくりーむっていうものも混ぜないといけないし、凍らせる時はかき混ぜないといけないんですよ」
「そうしないとカチカチになっちゃっておいしくないもんね。あと、卵も入れないとダメなんだよ」
僕とお母さんが教えてあげると、クリームお姉さんがなんか変なお顔になっちゃったんだよ。
だから何で? って聞いたんだけど、そしたらそれには答えてくれずになんでって聞き返されちゃったんだ。
「シーラちゃん。あれはつい最近商業ギルドから売り出された、あいすくりむ製造機って言う魔道具なのよ。それをなぜルディーン君が持っているのよ」
「アイスクリーム製造機?」
それを聞いたお母さんは、不思議そうなお顔で僕を見たんだ。
「ルディーンが作ったのって、あんな形じゃないわよね」
「うん。おっきな入れもんの中に回る羽根を入れるやつだよ」
でもあれ、銅の板をまぁるくへこましただけだったもん。
形がぜんぜん違うから、僕、なんでかなぁって頭をこてんって倒したんだ。
そしたらさ、クリームお姉さんが僕が作ったのはどんな魔道具なのかを聞いてきたんだよ。
だから入れもんを氷の魔石ですっごくつべたくして、そこに材料を入れたら羽根が回る魔道具を入れてかき混ぜながら作るんだよって教えてあげたんだ。
「なるほど、あれはルディーン君の作った魔道具から回転する羽根の魔道具を省いたものなのね」
クリームお姉さんはそう言いながらちょっと考えると、また聞いてきたんだ。
「その魔道具って、フランセン様かアマンダって言うお菓子職人のどちらかに教えたことある?」
「うん。どっちも知ってるよ。アマンダさんには泡だて器に氷の魔石をくっつけたのを作ってあげたけど、その前に魔道具のことも教えてあげたもん」
「なるほど、なぞは解けたわ」
僕のお話を聞くと、クリームお姉さんがいつものニッコリじゃなくってカッコよくニカッて笑いながらそう言ったもんだから僕はびっくりしたんだよ。
「何が解ったの?」
「多分だけど、フランセン様かアマンダって言うお菓子職人のどちらかがその魔道具を商業ギルドに登録したのよ。でも羽根が回る魔道具はかき混ぜながら作れば要らないからって、商品化する時に省かれたんでしょうね」
形が筒じゃなくってちっちゃな丸い凹みになったのは、それくらいのものを凍らせるだけならすっごくちっちゃい氷の魔石でもできるからじゃないいかなってクリームお姉さんは言うんだ。
「商業ギルドからすると、小さな氷の魔石で冷やせる筒の代わりになるものと考えてあの形にしたんでしょうね。あれくらいの大きさなら入れた物もすぐ凍るもの」
「じゃあさ、なんでかき回さないの? それに生クリームとか卵も入れてないみたいだよ」
「かき回さないのは、あの店主が説明をよく聞いてなかったか、その手間を省いたかのどちらかね。材料に関しては安くするためじゃない? それと、なまくりーむってのが何か知らないのか」
クリームお姉さんも、生クリームが何か知らないみたい。
そう言えばアマリアさんやロルフさんも知らなかったっけ。
だったらそれを入れるんだよって教えてもらっても困っちゃうよね。
「これは予想だけど、フランセン様が絡んでいるのなら正式なあいすくりむ製造機の特許はルディーン君の作ったものが提出されているんじゃないかな? 大きさや形を変えたり、要らないものを省いて魔道具を売り出すっていうのは商業ギルドではよくある話だし」
特許料ってのは売り出した魔道具の値段で決まるから、それでも問題ないってことになってるみたいよってクリームお姉さんは教えてくれたんだ。
そしたらそれを聞いたお母さんが、それはありそうな話ねって。
「錬金術ギルドのギルドマスターからルディーンの作ったものはみんな登録しているって前に聞いたことがあるから、多分それが正解だと思うわ」
ロルフさんやバーリマンさん、僕が何か作るとすぐに特許取らなきゃって言うもんね。
それにアマンダさんだって、卵の泡立て方みたいな簡単なことでも登録しなきゃダメって言ってたでしょ。
お母さんの言う通り、誰かが特許ってのを取ってくれたんだろうなぁ。
「でもあれが新しいお菓子だったら、並んでまで食べたくないかも」
そんなこと思ってたら、レーア姉ちゃんがそう言ったんだよね。
「うん。それに凍らせただけの牛のお乳じゃ、あんまりおいしそうじゃないもん」
それにキャリーナ姉ちゃんも並びたくないって言ったもんだから、僕たちは別のお菓子を探すためにまた歩き出したんだ。




