719 クリームお姉さんがなんだかお姉さんじゃないみたいなんだよ
「フランセン様。こちらがルディーン君に依頼してクリエイト魔法で作ってもらったぬいぐるみの目です。これを見て頂ければ、石工では作れないということがお分かりいただけると思います」
クリームお姉さんはロルフさんのところに行くと、そう言って僕が作ったぬいぐるみのお目めを渡したんだよ。
「ふむ。これがそうなのじゃな」
そしたらロルフさんは、そのお目めを手に持ってじっと見始めたんだ。
でね、ちょっとの間ぬいぐるみのお目めをじっと見てたと思ったら、何かに気が付いたみたいになるほどのぉって言ってクリームお姉さんのお顔を見たんだよ。
「確かに、これを石工に作れと言うのはちと酷じゃろうな」
「解って頂けましたか?」
「うむ。二色の石を使った特殊なものは当然として、こちらの単純に作られておるように見える方もかなりの技量がなければ作れぬのであろうな」
僕が作ったぬいぐるみのお目め、白目があるやつは魔法じゃないと作れないってすぐに解るけど、ロルフさんは石の形を変えただけの方も作るのが大変だろうねって言うんだよ。
だから僕、裁縫ギルドで見せてもらったちょっとごつごつしたお目めのことを言ってるんだろうなぁって思ったんだ。
だって僕が作ったのはつるつるだもん。
でもそうじゃなかったんだよね。
「表面が研磨されておるのもそうじゃが、何より技術を要するのはここであろう?」
「はい。背面に開いた糸を通す穴。石工に依頼したところ、これを開ける際にいくつもの石を無駄にしたとその職人からは聞いております」
ぬいぐるみに石のお目めをつけようと思ったら、糸を通すためのちっちゃなトンネルみたいな穴を空けないとダメでしょ。
ロルフさんはそれを見て、普通の職人さんじゃ作るのは無理なんじゃないかなぁって思ったみたい。
「このように小さな石では、ただの穴でも割らないように開けるのは至難の業じゃろう。ところがこれは一部分を細く残して曲線状に穴を貫通させておる。このようなことは硬い石ではできぬじゃろうから、石選びからして苦労したであろうな」
「はい。幸いイーノックカウの近くでは比較的細工がしやすい石が取れる場所があるそうでして、お蔭でルディーン君に頼まずともぬいぐるみの目を作ることができております」
僕は魔法で作ったから、お外に落ちてるきれいな石でぬいぐるみのお目めを作ったでしょ。
でもそういうのだと、硬くて穴があけにくいから糸を通すトンネルは作れないんだって。
だからクリームお姉さんは、ちょっとお高めの石を使ってもいいから何とかできないかなぁって職人さんに頼んだそうなんだよ。
そしたら神殿の彫刻とかに使う石があったから、それでぬいぐるみのお目めを作ってもらってたんだよってロルフさんに教えてあげたんだ。
「神殿の細工に使われておる石とな? それはまた張り込んだのぉ。それにこの表面。職人が手でこれほどきれいに磨くとなると、こちらもそれ相応の腕を持つ職人がいるのではないかな?」
「はい。宝石を磨く職人に依頼して作ってもらっております。ただこちらは石以上に値がかかるので、特別な依頼品のみにほどこしておりますが」
「特殊な石を使い、宝石職人に磨かせるか。なるほど、それではクリエイト魔法を使えるものを求めるのも無理はない。実物をこの目で見、話を聞いてやっと腑に落ちたわ」
そう言って笑うロルフさん。
だったらバーリマンさんが帰ってきたら石の形を変えるクリエイト魔法が使える人を知らないか、わしが聞いてあげるよって約束してくれたんだ。
それからちょっとの間、僕たちは錬金術ギルドでバーリマンさんたちが帰ってくるのを待ってたんだよ。
でもその間、ずーっとクリームお姉さんがカチンコチンだったんだもん。
だからお母さんがこんなこと言いだしたんだ。
「クリームさん。このまま待つだけと言うのもなんだし、一度露店にでも行かない?」
それを聞いたクリームお姉さんは、ギギギギって言いそうな感じでお顔をお母さんの方に向けたんだよ。
「でも、フランセン様をおひとり残して、私たちだけが出かけると言うのは……」
さっきバーリマンさんにお願いしてあげるねって言ってくれたからなのか、クリームお姉さんはロルフさんを残してお出かけできないよって言うんだ。
でもね、そのロルフさんが行って来てもいいよって。
「よい、よい。わしはいつもここで一人、本を読んでおるのじゃからな。それに」
ロルフさんはそう言うと、クリームお姉さんのお顔を見たんだよ。
「緊張しておるのか、レーヴィ坊の顔色がちと悪い。ここらで一度間を取るのもよかろう」
「クリームお姉さん、カチンコチンだもんね」
ちっちゃい頃から知ってるからなのか、クリームお姉さんはロルフさんの前だとずっと緊張したお顔をしてるんだよ。
さっきはぬいぐるみのお目めのお話しをしてたからよかったけど、それが終わってからはどうしたらいいのか解んなくってずっと固まってるんだもん。
このままほっといたら石になっちゃいそうだから、一度お外に行くのは僕も賛成なんだ。
「それにクリームお姉さんのところに行ったのは、おいしいお店がどこにあるか聞くためだったもん。だから一緒にお外、行こっ」
僕がそう言ってクリームお姉さんのおててを引っ張ると、やっと動く気になったみたい。
ロルフさんに向かって、ほんとに行ってもいい? って聞いたんだよね。
「本当によろしいのですか?」
「うむ。先ほどの話からすると、ルディーン君たちはお腹が減っておるようじゃからな。待たせるのも悪いから、何か食べて来るがよい」
「ありがとうございます」
ロルフさんがいいよって言ってくれたから、クリームお姉さんはほっとしたみたい。
それに僕もちょっとお腹減っちゃったから、お外に行くのがうれしいんだよね。
「クリームお姉さん。おいしい露店がどこにあるか知ってる?」
「う~ん。流石に露店で食べるなんてことないから知らないわ」
そう言えばクリームお姉さん、お貴族様だもん。
お外でなんかご飯食べないよね。
「僕たちとおんなじだね。それじゃあ、みんなで美味しいお店を探そうよ」
「ええ、そうね」
ロルフさんとお話してる時はカチンコチンだったけど、お外に行くって決まってちょっとほっとしたみたい。
まだなんか変な感じだけど、やっとにっこり笑ってくれたんだよ。
「やったぁ! やっと笑ってくれた!」
「あら。私、そんな怖い顔をしてたかしら?」
「ううん。こわくなかったけど、カチンコチンだったよ」
僕がそう教えてあげると、それを聞いたクリームお姉さんは苦笑い。
自分でもそうだろうなぁって思ってるみたいだね。
「ロルフさん。それじゃあみんなでご飯食べてくるね」
「うむ。気を付けて行ってくるのじゃぞ」
そんなクリームお姉さんのおててを引っ張りながら、僕はロルフさんに元気よく行ってきますのごあいさつをしたんだ。