718 錬金術師さんは魔法がお仕事じゃないからクリエイト魔法を覚える人が多いんだって
クリームお姉さんやキャリーナ姉ちゃんとお話してたら、あっと言う間に錬金術ギルドに着いちゃったんだよ。
だから僕、ギルドの赤いドアを開いて元気にご挨拶したんだ。
チリンチリン
「こんにちわぁ!」
そしたらいつものカウンターにロルフさんが座ってて、僕に気が付くとにっこりしてくれたんだけど、
「ん? おお、ルディーン君ではないか。よく来たの……うおっ!」
なんでか最後にすっごくびっくりしたお声を出したんだよ。
だからどうかしたのかなって頭をこてんって倒したんだけど、ロルフさんはそんな僕じゃなくってその後ろを見てるみたいなんだよね。
「ロルフさん。僕の後ろになんかあるの?」
そう言って後ろを見ると、そこにはおっきなクリームお姉さんが。
ああ、そうか。すっごくおっきい知らない人が入って来たからびっくりしちゃったんだね。
それに気が付いた僕は、クリームお姉さんのことをロルフさんに教えてあげなくっちゃって思ったんだ。
「ロルフさん。この人はクリームお姉さんって言って、すっごくお裁縫が上手なお兄さんだけどお姉さんな人なんだよ」
「くっ、クリームとな? ふむ。これはまた面妖な……いや、個性的な姿をしておる者と知りおうたのじゃな」
せっかく教えてあげたのに、ロルフさんはまだクリームお姉さんを変な人って思ってるみたい。
かわいいものが好きで、お裁縫がすばばばばぁーなすごい人なんだけどなぁ。
僕がそう思ってたらね、クリームお姉さんが僕の前に出てぺこって頭を下げながらこう言ったんだよね。
「フランセン様、ご無沙汰しております。オレナン男爵家が四男、レーヴィ・スム・クリストフ・オレナンでございます」
「んっ? ……おお、オレナン家のレーヴィ坊か。言われてみれば、確かに面影があるのぉ。最後にあったのは、息子が開いたパーティーじゃったか。いやはや、しばらく見ぬ間に様変わりしたものじゃな」
「恐れ入ります」
ロルフさん、クリームお姉さんを見てびっくりしてたけど、前に会ったことがあるみたい。
でもまだ小さいころだったから、すっごくおっきくなってて気が付かなかったんだって。
そっか。クリームお姉さん、普通の男の人よりすっごくおっきくなってるもん。
それにお兄さんからお姉さんになってるから、ロルフさんが解らなくっても仕方ないよね。
「ロルフさん。バーリマンさんは?」
「ギルマスか? ちと用があるからとペソラ嬢を伴って出かけておるが、それほどかからぬと言っておったから待っておれば直に帰ってくるじゃろうて」
そっか、バーリマンさんはお出かけしてるんだね。
じゃあ、ロルフさんでもいいか。
そう思った僕は、クリームお姉さんのお顔を見上げながら言ったんだよ。
「クリームお姉さん、バーリマンさんいないんだって。でもロルフさんはいるから聞いてみたら?」
「えっ、フランセン様に!?」
ロルフさんはお金持ちだし、錬金術ギルドにいっつもいるでしょ。
だから聞いてみたら知ってるんじゃないかなって思ったんだけど、クリームお姉さんは恥ずかしいのかな? もじもじしててなんか言いだせないみたい。
もう! 大人なのにしかたないなぁ!
そう思った僕は、代わりに聞いてあげることにしたんだ。
「ねぇ、ロルフさん。石の形を変えるクリエイト魔法を使える錬金術師さんっているの?」
「おるぞ。錬金術師は魔法使いと違って多くの魔法を覚える必要が無いからのぉ。趣味が高じて木材や金属、それに石などの形を変えるクリエイト魔法を習得する者が多いのじゃよ」
錬金術師さんのお仕事は錬金術でしょ。
だから魔法使いさんたちみたいにお仕事で使う魔法を覚えないから、その分趣味で使う魔法を覚えるんだって。
「そっか。じゃあさ、ロルフさんの知り合いにもいるの?」
「わしか? ふむ。直接知るものは他の街にじゃが、パッと思いつくだけで数人はおるな」
ロルフさんが知ってる中にクリエイト魔法が使える人はいっぱい居るみたいなんだけど、みんなイーノックカウに住んでる人じゃないみたい。
だからそれを聞いたクリームお姉さんはしょんぼりしちゃったんだ。
だって他の街に居たんじゃ、呼ぶのにお金がいっぱいかかっちゃうもんね。
でも、それはロルフさんの知り合いが他の街に居るってだけだよね?
「じゃあ、バーリマンさんは? バーリマンさんはイーノックカウに住んでる石のクリエイト魔法を使える人、知らないかな?」
「ギルマスならば知っておると思うぞ。なにせこの錬金術ギルドのギルマスじゃからのぉ。知ってる錬金術師の数は、わしとは比べ物にならぬからな」
やっぱり! さっきロルフさんが錬金術師さんの中にはいろんなクリエイト魔法を使える人がいっぱいいるって言ってたもん。
だからきっとギルドマスターのバーリマンさんなら、知ってる人がいるんじゃないかなぁって思ってたんだよね。
「クリームお姉さん。イーノックカウに居るって。よかったね!」
「ええ。ありがとう、ルディーン君」
クリームお姉さんはにっこり笑うと、おっきなおててで僕の頭をなでてくれたんだよ。
そしたらそれを見てたロルフさんが聞いてきたんだ。
「ふむ。その様子からするとレーヴィ坊。いや、今はクリームじゃったか。そなたが石を加工できる者を探しておるようじゃが、魔法でなければ加工できぬようなものが必要なのかな?」
「はい。実は先日ルディーン君からぬいぐるみと言う布の人形の作り方を教えて頂いて」
クリームお姉さんはロルフさんに、ぬいぐるみの目を作るのにはクリエイト魔法を使える人がいるんだよって教えてあげたんだ。
でもね、ロルフさんは不思議そうなお顔でこう言ったんだよ。
「石の加工なぞ、わざわざ魔法に頼らずとも石工に頼めばよかろう。かかる値もそちらの方が安かろうに」
「確かに石をただ目の形にするだけならば石工でも作れるのですが、ルディーン君が作ってくれたものは少々特殊でして」
クリームお姉さんはそう言うと、ロルフさんにちょっと待っててねって言ってから僕をお部屋の隅っこに連れてったんだ。
「ルディーン君。申し訳ないんだけど、さっき拾った石で普通のぬいぐるみの目と白目の中に違う色の瞳があるぬいぐるみの目を作ってもらえないかしら? 言葉で伝えるよりも、実物を見て頂いた方がフランセン様にもよく解って頂けると思うのよ」
「うん、いいよ!」
こんなんだよって口で言うより、これだよって見せてあげた方が解りやすいもんね。
そう思った僕はポシェットからさっき拾った石を何個か出して、それをクリエイト魔法でぬいぐるみのお目めに作り替えたんだ。
「はい。これでいい?」
「わぁ! ありがとう、ルディーン君。これならばきっと、フランセン様も納得して下さると思うわ」
クリームお姉さんは両方の手のひらを右のほっぺたの横で合わせながら、お顔をちょびっとだけ倒してニッコリ。
僕の作ったぬいぐるみのお目めを大事そうに持つと、それを持ってロルフさんのところへ行っちゃったんだ。




