717 そっか! ロルフさんにナイショだよって言われてたんだっけ
少し間が開いたから現在の状況のおさらい
ゴブリン集落の攻略戦に向かうお父さんとお兄ちゃんたち、それにニコラさんたちを見送ったルディーン君。
お母さんがおいしいものを食べようと言ったので、お店を知っていそうな裁縫ギルドのギルドマスターであるクリームお姉さんのところへ来たんだけど何やら困っている様子。
聞いてみるとこの間作り方を教えたぬいぐるみが人気になっているそうで、その目をつくってくれる魔法使いが見つからないと困っていたそうな。
そこでルディーン君は、魔法使いだけじゃなく錬金術師の中にも石の形を変えるクリエイト魔法が使える人がいるんじゃないかと話したのだった。
僕のお話を聞いて、クリームお姉さんは錬金術師さんたちにも石の形を変えるクリエイト魔法を使えるか聞いてみようって思ってくれたみたい。
でもね、そこでキャリーナ姉ちゃんが頭をこてんって倒しながらこう言ったんだよ。
「錬金術師さんの中に石のクリエイト魔法が使える人、いるのかなぁ?」
イーノックカウの魔法使いさんの中にはいなかったってクリームお姉さんが言ってたでしょ。
だから錬金術師さんの中にもいないんじゃないかなぁってキャリーナ姉ちゃんは思ったみたい。
だけど僕、ちょっと自信があるんだよね。
「いると思うよ。だってこないだ僕がバーリマンさんのほ……」
宝石の形をクリエイト魔法で変えた時のことをクリームお姉さんに教えてあげようとしたら、お母さんが急に僕のお口をおててでバッてふさいじゃったんだもん。
だから僕、お母さんの方を見て両手をあげながらコラーって怒ったんだ。
「もう! お母さん、なんでそんなことするの! お口ふさいだらむぐってなっちゃうでしょ!」
「あら、ルディーンこそ、何を言おうとしたの? もしかしてロルフさんとした約束を、もう忘れちゃったのかな?」
あっ、そうだった! クリエイト魔法で宝石の形を変えられるのはナイショだった!
そう思った僕は、慌てて自分のお口を両方のおててでふさいだんだよ。
そしたらその横でキャリーナ姉ちゃんも自分のお口をおててでふさいでたんだもん。
だからうれしくなって一緒だねって言ったら、お姉ちゃんもそうだねって笑ってくれたんだ。
そんな僕たちをクリームお姉さんはニコニコしながら見てたんだよ。
でもすぐにまじめなお顔になって聞いてきたんだ。
「フランセン様との約束がなにかは聞かないけど、ルディーン君はどうやら錬金術師の中に石にクリエイト魔法をかけることができる人がいると確信しているみたいね。どうしてなのかな?」
「あのね。それは前にロルフさんとバーリマンさんが、石のクリエイト魔法が使える人を知ってるみたいなお話をしてたからなんだよ」
ホントは石と違って宝石の形をクリエイト魔法で変えるのはとっても難しいって言ってたんだよ。
でも、ロルフさんたちはクリエイト魔法が使えないはずだもん。
なのにそれを知ってるってことは、クリエイト魔法で石の形を変えられる人からそのお話を聞いたことがあるってことでしょ。
だから僕、ロルフさんとバーリマンさんが知ってる人で魔法使いさんじゃないなら、その人はきっと錬金術師さんだよねって思ったんだ。
「なるほど。それならば錬金術ギルドのギルドマスターに訊ねてみる必要がありそうね。残念ながら私には錬金術師の知り合いがいないから」
クリームお姉さんはお貴族様だけど裁縫のギルドマスターでしょ。
だから錬金術師さんの中に知ってる人はいないんだって。
でもバーリマンさんとはおんなじギルドマスター同士だし、何度もお話したことがあるから聞けばきっと教えてくれるんじゃないかなって言うんだよ。
「じゃあさ、これから聞きに行こうよ!」
「えっ? 私はいいけど、ルディーン君たちは何か用事があってここに来たんじゃないの?」
あっ、そうだった! クリームお姉さんにおいしいお店を知らないか聞きに来たんだっけ。
それを思い出した僕はそのお話をしようとしたんだけど、
「ああ、その話は後でもいいから、クリームさんの用事を先に済ましちゃいましょう」
お母さんがそう言ったもんだから、僕はお母さんのお顔を見て頭をこてんで倒したんだよ。
「お母さん。聞かなくってもいいの?」
「ええ。まだお昼までには時間があるし、せっかくだからバーリマンさんや、もしいたらロルフさんにもおいしいお店がどこにあるか聞けるかもしれないじゃない」
そっか! お母さん、頭いい。
ロルフさんやバーリマンさんはすっごいお金持ちだもん。
だからきっとおいしいお店を知ってるはずだよね。
それにクリームお姉さんも一緒に錬金術ギルドに行くなら、二人が知ってなくてもクリームさんに聞けばいいもん。
そんな訳で僕たちはクリームお姉さんと一緒に錬金術ギルドに行くことになったんだ。
「ルディーン、あそこにもきれいな色の石があるよ」
「ほんとだ! 僕、ひろってくるね」
クリームお姉さんと一緒に、みんなで錬金術ギルドまで行くことになったでしょ。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、その途中の道にきれいな石が落ちてないか探すことにしたんだよね。
だってきれいな石がいっぱいあったら、ぬいぐるみのお目めがいっぱい作れるもん。
でもね、途中でお母さんからあんまりいっぱい拾っちゃダメだよって怒られちゃったんだ。
「えー、なんで? いっぱいあった方がいいんじゃないの?」
「それはそうだろうけど、もうキャリーナもルディーンも、腰のポシェットが石でパンパンじゃないの」
そう言われて腰のポシェットを見てみると、ほんとにパンパンだったんだよね。
それにキャリーナ姉ちゃんのポシェットを見たら、そっちもパンパンだったんだもん。
僕、石を見つけるのが楽しくって全然気づかなかったよ。
「ほんとだ。もうパンパンになってる」
「そうでしょ。だから石ひろいはもうおしまいね」
「はーい!」
僕たちが元気にお返事するとね、クリームお姉さんがあははって楽しそうに笑ったんだ。
「どうしたの、クリームお姉さん?」
「いやね、これまでに拾ってくれた石だけでも、これからしばらくの間に作るぬいぐるみの目を全部作れちゃいそうねと思ったらおかしくって」
そう言えばぬいぐるみのお目めって、一個の石で二つとも作れちゃうんだよね。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんの拾った石を全部お目めにしちゃったらすっごい数ができちゃうもん。
もしかしたら、これをお目めにするだけでもう石のクリエイト魔法を使える人を探さなくってもいいかも?
そう思った僕はクリームお姉さんに聞いてみたんだよ。
「ねぇ、クリームお姉さん。これを僕が全部お目めにしたら、もうクリエイト魔法を使える人を探さなくてもよくなっちゃう?」
「う~ん、それだとしても、できたら見つけたいなぁと思うわよ」
「なんで? こんだけあれば、いっぱいお目め作れるよ」
僕がパンパンになったポシェットをポンって叩きながらそう言うと、クリームお姉さんは笑いながらそれでもよって。
「さっきギルドで、いろいろな形のぬいぐるみの目を作って見せてくれたでしょ」
「うん」
「あの時思っちゃったのよ。この魔法さえあれば、どんなかわいいぬいぐるみを思いついてもそれを作り出すことができるようになるだろうなぁって」
ぬいぐるみってどんな動物でも魔物でもかわいい絵にしちゃえば、裁縫スキルを持ってるクリームお姉さんは形紙にすることができるでしょ。
いつか思いつくであろうかわいいぬいぐるみたちに出会いたいからこそ、クリエイト魔法でいろいろな石のお目めを作れる人が私には絶対必要なのよって笑ったんだ。




