716 魔法だと変わった形のも作れるんだよ
魔法って使えるようになるまですっごくお金がかかるんだって。
でもその分使えるようになっちゃうと、今度はすっごくお金が稼げるようになるみたい。
だからわざわざ新しい魔法を覚えようって考える人はあんまりいないんだってさ。
「そっか。ルディーンに教えてもらったときも、呪文を覚えるのが大変だったもんね」
「そうなのよ。クリエイト魔法は呪文を覚える大変さは無いんだけど、実際に加工するものを使って何度も何度も練習をしないといけないの。でも、苦労して使えるようになっても石なんて加工する人はあまりいないでしょ」
キャリーナ姉ちゃんも魔法が使えるようになるまですっごく頑張ってたもん。
クリエイト魔法もおんなじくらい使えるようになるのが大変だったら、クリームお姉さんの言う通りあんまり使わないものの練習なんてしないよね。
「それじゃあ、石のクリエイト魔法を使えるようにお勉強してって頼んでも、魔法使いさんはやってくれないね」
「そうなのよ」
そう言ってしょんぼりしちゃうクリームお姉さん。
だから僕、いっぱい石のお目めを作ってあげるって言ったんだよ。
「ありがとう、ルディーン君。それじゃあ、今ある材料の分だけでいいから頼めるかしら?」
「うん、いいよ!」
僕は元気よくお返事すると、クリームお姉さんから材料の石を貰ったんだ。
でね、裁縫ギルドに並んでるおっきなぬいぐるみについてるお目めの大きさや形を見てったんだよ。
そしたらさ、そのうちにすっごくいいことを思いついちゃったんだ。
「クリームお姉さん。おっきなぬいぐるみのお目め、二つの色で作っちゃダメ?」
「えっ、二つの色ってどういうこと?」
クリームお姉さんは言われたことがよく解んなかったみたいで、ぽかんてお顔になっちゃったんだ。
でもね、僕もどうお話ししたらいいのか解んないんだよね。
だから頭をこてんって倒して、う~んって考えたんだよ。
そしたらそれを見たお母さんがこう言ったんだ。
「ねぇ、ルディーン。説明するのが難しいのなら、実際に作って見せてあげたらどうかしら?」
「そっか。お母さん、頭いい!」
作ったものを見せてあげたらクリームお姉さんもすぐにそれがどんなのか解ってくれるでしょ。
だから僕、青い石とちっちゃめの白い石を手に持ってクリエイト魔法を使ったんだよね。
そしたらそのふたつがくっついて、青いお目めの中に白いおっきめの丸とちっちゃめの丸が入ってるのが一組できあがったんだ。
「ほら、白い丸が入るとお目めが光ってるみたいできれいでしょ」
「あら、ほんと。クリエイト魔法って、こんなことまでできたのね」
それを見たクリームお姉さんはびっくりしたお顔をしながら、この目をつけたらかわいいでしょうねって。
それにね、キャリーナ姉ちゃんやレーア姉ちゃんもこっちの方が絶対いいよって言うんだ。
「ルディーン。この間作ってくれた私のぬいぐるみも、この目にして」
「うん、いいよ」
キャリーナ姉ちゃんとそんなお話してたらね、クリームお姉さんがちっちゃな声でこう言ったんだよ。
「やっぱりぬいぐるみの目を作れる魔法使い、何とか見つけたいわね」
「でも、いなかったんでしょ?」
僕はキャリーナ姉ちゃんとお話してたから聞こえなかったけど、レーア姉ちゃんはちゃんと聞いてたみたい。
だからそう言ったんだけど、クリームお姉さんは僕の作った二色のお目めを見ながらやっぱりあきらめられないって言うんだよね。
「表面がつるっとした目なら宝石を磨く職人でも作れるわよ。でも、こんな風に目の中に星を入れるなんて魔法でしかできないもの」
「私もそう思う! それに魔法だったら形も変えられるもん。ねぇ、ルディーン。笑ってる目とか怒ってる目も作れるんでしょ?」
「うん、作れるよ」
僕はそう言うと、ふにゃってしてるお目めと吊り上がってるお目めを一組ずつ作って見せてあげたんだよ。
そしたらクリームお姉さんは大興奮。
「目に表情をつけるなんて思いつかなかったわ。でも確かにこれに合わせて顔の造形を変えれば、個性のあるぬいぐるみが作れるわね」
「うん。それにこんなお目めにしたら……」
僕はそう言いながらおっきな白い石とそれよりちょびっとだけ小っちゃい赤い石を手に持ってクリエイト魔法を発動。
そしたら白目のある赤いお目めの石ができちゃったんだ。
それもね、そのふたつはどっちもおんなじ方に赤いお目めが寄ってるから、二個並べると。
「ほら、こんな風に横を見てるみたいなのもできるんだよ。すごいでしょ」
「ほんと、これをつけたらきっとすっごくかわいい子になると思うわ」
クリームお姉さんはそう言いながら、近くにあったおっきなぬいぐるみの目のとこに当ててみたんだよ。
そしたらキャリーナ姉ちゃんとレーア姉ちゃんも、本当にかわいいねって大喜びしたんだ。
「うん。やっぱり石の加工ができる魔法使いがなんとしても欲しいわね。でも、イーノックカウの魔法使いにはあらかた問い合わせたからなぁ」
どうしても石のクリエイト魔法が使える魔法使いさんをあきらめきれないクリームお姉さん。
「こうなったらいっそ、他の街にも問い合わせて、魔法使いをこの街に呼ぼうかしら」
こんなこと言いだしちゃったもんだから、僕たちはすっごくびっくりしたんだ。
「クリームさん。いくらなんでも、他の街から魔法使いをイーノックカウに呼ぶだなんて。そんなことしたら、どれくらいお金がかかるか解りませんよ」
「そうだけど、やっぱりこの目を見てしまうとあきらめきれなくって」
おっきなおててに僕が作ったぬいぐるみのお目めをのっけながらそう言うクリームお姉さん。
でもお母さんは、やっぱりそれはやめておいた方がいいよって言うんだ。
「今はクリームさんしかぬいぐるみを作っていないからいいですけど、いずれは他の街でも作られるようになるんですよね? でも一度呼んだ魔法使いは、そう簡単に解雇できないんじゃないですか?」
「言われてみれば、確かにその通りよね」
お母さんのお話を聞いて、クリームお姉さんも魔法使いさんを他の街から呼ぶのはやめたみたい。
でも、それじゃあこれは諦めるしかないのかって、筋肉モリモリのおっきな体がちっちゃく見えちゃうくらいしょんぼりしちゃったんだ。
僕ね、それを見てすっごくかわいそうって思ったんだよ。
だから何とかならないかなぁって一生懸命考えたんだ。
そしたらすっごくいいことを思いついちゃったんだ。
「あっ、そうだ! バーリマンさんに聞いてみたらいいよ」
「バーリマンさん? と言うと、錬金術ギルドのギルドマスターをしている?」
そんなこと言われるなんて思ってなかったのか、びっくりを通り越して不思議そうなお顔をしてるクリームお姉さん。
だからなのか、お母さんが代わりに聞いてきたんだよ。
「何でそう思ったの?」
「だって、クリームお姉さんは魔法使いさんを探したんでしょ。だから錬金術師さんには聞いてないんじゃないかなぁって思ったんだ」
僕はエッヘンって胸を張りながら、すっごくいい考えでしょって言ったんだよ。
でもそれを聞いたお母さんもクリームお姉さんも、よく解んないってお顔で頭をこてんって倒してるんだもん。
もう! 二人とも大人なのに、なんで解んないかな!
「魔法が使える人じゃなきゃ、錬金術は使えないの! クリームお姉さん、魔法使いさんには聞いたけど、錬金術師さんには聞いてないんでしょ!」
「ああ、そうか! それは思いつかなかったわ。ありがとう、ルディーン君」
クリーム姉さんは胸の前でかわいくおててをポンって叩くと、にっこりしながら僕にお礼を言ったんだよ。




