715 材料が無いと何にも作れないんだよ
ここにいっぱいあるぬいぐるみ、クリームお姉さんが一人で作ってるんだって。
僕、それを聞いてすっごくびっくりしたんだけど、クリームお姉さんは笑いながらそんなに大変じゃないのよって言うんだ。
「パーツは多いけど形自体はもう頭に入っちゃってるから、一日に数個縫えちゃうもの」
「そっか、クリームお姉さん、ずばばばばぁーってぬっちゃえるもんね」
僕はまだすーすーすーだから、抱っこできるくらいのぬいぐるみでも多分一日じゃ作れないと思うんだよ。
でもクリームお姉さんはずばばばばぁーだから、前の世界にあったミシンって機械より早く縫えちゃうんだ。
それならこんなにいっぱいあってもそんなに大変じゃないよね。
そう思いながらうんうんうなずいてたらね、お母さんが不思議そうなお顔で聞いたんだよ。
「あっ、それならさっき言いかけたのは何だったの?」
「さっきも言った通り、縫うのは簡単なのよ。でも材料の方がね。私一人で縫っているから今まで以上に外出できなくなってて、仕入れに困ってるのよ」
材料の布とか中に入れるブルーフロッグの背中のなめし皮が無いと、クリームお姉さんがすっごく早く縫えてもぬいぐるみは作れないでしょ。
布はギルドで作ってるけど、仕立て屋さんとかが買いに来るから全部ぬいぐるみにする訳に行かないもん。
それにブルーフロッグのなめし皮だって、椅子とかを作ってる家具屋さんが欲しがるからいっぱい欲しいって言っても限界があるんだって。
それでもクリームお姉さんはお貴族様だから、自分で冒険者ギルドに頼みに行けばちょっと多めに売ってくれるそうなんだよ。
でも忙しすぎて頼みに行けないから、ちょっと困っちゃってるみたい。
あとね、もっと大変なものがもう一個あるんだよって言うんだ。
「なんか、無いものがあるの?」
「目よ。ぬいぐるみの目を作れる人があまりいないの」
僕が教えてあげたぬいぐるみ、お目めのところが石でできてるでしょ。
ただ目を付けるだけだったらクリームさんが刺繍すればいいんだけど、みんな石の目でできたぬいぐるみを見ちゃってるもん。
そっちの方がいいからって、注文する人は石でできた目にしてねって言ってくんだってさ。
「前来た時に何個かルディーン君に造ってもらったでしょ。最初のうちはそれを使っていたんだけど、あっと言う間になくなってしまって。そこで石工の人にお願いしてるんだけど……」
「そっか。僕は魔法で作ったけど、削って作ろうと思ったらつるつるにならないかも」
「そうなのよ! あの光輝くつるつるの目。あれを作れる人がほとんどいなくって」
宝石を磨く人ならつるつるにできるそうなんだけど、そういう人に頼むとすっごく高いんだって。
だから普通の石屋さんに頼んでるんだけど、どうしてもきれいなつるつるにならないんだよってクリームお姉さんは言うんだ。
「このぬいぐるみ、こんなに大きいのに研磨師さんに頼んだから使っている布よりも目の方が高いのよ。でも、この大きさのものだとどうしても宝石職人に頼むしか無くて」
「おっきいと、つるつるじゃないのがよく解っちゃうもんね」
ちっちゃいぬいぐるみはお目めも小さいから、ちょっとくらいごつごつしてても色がきれいならあんまり気にならないんだよ。
でもね、おっきなぬいぐるみはスティナちゃんくらいの大きさがあるから、その分お目めも大きいもん。
だからつるつるじゃないと、そこだけが目立っちゃうんだ。
それにぬいぐるみって、お目めがきれいじゃないと何となくかわいくないんだよね。
そのことを考えると、やっぱりつるつるの方がいいと思うんだよなぁ。
「クリームお姉さん。僕が作ろうか?」
「近場の注文に関してはそうしてもらえると助かるけど、ルディーン君はイーノックカウに住んでいるわけじゃないでしょ。長い目で見ると、この問題はやはり解決しないといけないと思うのよ」
そっか。僕はグランリルの村の住んでるでしょ。
だからこのぬいぐるみにはこんな色のお目めを付けたいなぁって思っても、すぐに作ってって言えないもん。
それだと困っちゃうから、僕が作るだけじゃダメなんだって。
「じゃあさ、他の魔法使いさんは?」
そんなお話をしてたら、キャリーナ姉ちゃんがそう聞いたんだよ。
「ルディーンも魔法でぬいぐるみの目を作ってるんでしょ? それなら同じように、魔法使いに頼んで作ってもらったらいいと私も思うんだけど」
それを聞いたレーア姉ちゃんもその方がいいよって言ったんだけど、クリームお姉さんがそれはダメなのよって言うんだ。
「当然私もそう考えて、石のクリエイト魔法を使える人を探したのよ。でも、いなかったの」
「ええぇ、石の形を変える魔法、使える人いないの!?」
そう言ってびっくりしながら僕を見るキャリーナ姉ちゃん。
おんなじようにレーア姉ちゃんやクリームお姉さんもこっち見るもんだから、僕、ちょっと困っちゃったんだよ。
そしたらお母さんが聞いてきたんだ。
「ルディーンはいろいろなものの形を魔法で変えているわよね。どうしてできるようになったの?」
「あのね。最初は僕もじょうずにできなかったんだよ。でもいっぱい練習したらできるようになったんだ」
鉄はなんでかすぐにできるようになったけど、石とか木はちょっと練習しないとダメだったんだよね。
でもそのふたつは僕の村にいっぱいあるもん。
だから練習するのは簡単だったから、すぐにクリエイト魔法を使えるようになっちゃったんだ。
そのことを教えてあげたらさ、なんでか知らなけどクリームお姉さんがびっくりしたお顔をしてるんだよ。
「なんでびっくりしてるの?」
「あのね、ルディーン君。クリエイト魔法はあまり多くの魔力を使わないと言われているけど、それでも何度か使うと枯渇するの。だからまだ魔力が発達していない小さな子は、そんなに何度も使うことができないのよ」
そう言えば前にルルモアさんが、魔力が空っぽになると気持ち悪くなる人が多いんだよって言ってたっけ。
クリエイト魔法っていっぱい練習すればだれでも使えるようになるのに、なんでみんな練習をしないんだろうってずっと思ってたんだよ。
でも解っちゃった。僕はMPが空っぽになったってへっちゃらだけど、他のみんなは気持ち悪くなっちゃうから練習しないんだね。
「あっ、でも大人の魔法使いさんは魔力がいっぱいあるんでしょ。なら何で練習しないの?」
「それがねえぇ」
クリームお姉さんはちょっと困ったようなお顔をしながら教えてくれたんだ。
「ある程度魔法が使えるようになるとそれだけでお金が稼げちゃうから、それ以上苦労して新しい魔法を覚えようとする人があまりいないのよ」
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君がぽんぽん使うから簡単そうに見えるクリエイト魔法ですが、普通はかなりの練習をしなければ使えるようになりません。
でもルディーン君の場合は賢者のジョブについているからMPが多く、その上子供ゆえに変な先入観が無いからコツをつかむのも早いのです。
子供や甥っ子相手にゲームをしていたら、最初は負けなかったのにいつの間にか勝てなくなったって経験をしたことがある人はいませんか? ようはあれです。
チートでも何でもなく、子供の成長スピードに大人が追い付こうと考えること自体無理があるんですよねw
さて、前から予告をしていましたが、今週末は用事があるので書く時間が取れません。ですので申し訳ありませんが月曜日の更新は休ませて頂きます。
また、8月は9日から18日の月曜日まで用事があったりお盆でお客さんが家に来てその相手をする必要があるので、これまた書く時間がありません。
という訳で、その期間も申し訳ありませんが転生0更新を休ませていただきます。
魔法信者に顕現させられたようですに関しては、ストックが2本あるので更新しますがw
追伸
話に矛盾が出てく
るので611話のラストと前話の715話の一部を修正しました。




