711 こんなにいっぱいでゴブリンの村をやっつけに行くんだね
ゴブリンをやっつけに行く日、僕はお父さんたちと一緒に冒険者ギルドに来たんだよ。
「わぁ! お母さん、冒険者さんがいっぱいいるよ」
「みんな、ゴブリン集落の攻略に参加する冒険者でしょうね」
冒険者ギルドはいつも人がいっぱいいるけど、今日はとってもすごいんだ。
だってギルドの中に入り切れずに、お外にまで冒険者さんたちがいるんだもん。
僕たちはお父さんを先頭にして、その中をどんどん進んでったんだ。
でね、冒険者ギルドの中に入るとルルモアさんが僕たちを見つけて近づいてきてくれたんだよ。
「お疲れ様です、カールフェルトさん」
「一応聞くが、ここにいるのは全員今日の攻略戦に参加する冒険者たちだな?」
「はい。調査したところ、どうやらかなりの規模の集落のようなので」
ゴブリンの村をやっつけに行く日を決めるまでに、冒険者ギルドから何回か調べに行ったんだって。
そしたら村の中にはゴブリンが思った以上にいっぱいいるみたいで、洞窟の中はとっても広いんじゃないかなって考えたみたい。
だから最初は強い人たちだけで行くつもりだったけど、お手伝いの人をいっぱい集めたんだよってルルモアさんが教えてくれたんだ。
「だが、洞窟内の戦いであることを考えると下手な連中を送り込むのは危険じゃないのか?」
「はい、ですから最初に入口辺りで騒ぎを起こし、中から出てきたゴブリンを掃討するという作戦を立案しました」
弱い冒険者さんたちは、その時の為に集めたんだって。
だから洞窟の中に入るのはその後で、そこからは強い冒険者さんたちだけでやるそうなんだよ。
「そのことでギルドマスターがカールフェルトさんにお話があるそうです」
「俺に話?」
お父さんはただ着いてくだけのつもりだったから、これを聞いてびっくり。
でもギルドマスターのお爺さんが待ってるって言うもんだから、みんなで向かったんだ。
コンコンコン
「ギルマス、カールフェルトさんをお連れしました」
「おお、入ってくれ」
ドアを開けるといつものおっきな机に羊皮紙がいっぱい積まれてて、ギルドマスターのお爺さんがその中の一枚を読んでたんだ。
だから僕たちはお仕事の邪魔をしないようにそーっと入っていって、お部屋の中にある応接セットの椅子に座ったんだよ。
でね、そのままちょっとの間待ってたら、お仕事が終わったのかギルドマスターのお爺さんがやっとこっちを見たんだ。
「待たせてすまなかったな」
「それで、俺に話ってなんだ?」
何で呼ばれたのか解んなかったからなのか、お父さんはいきなり聞いたんだよ。
そしたらギルドマスターのお爺さんから、こんな答えが返ってきたんだ。
「ゴブリンを呼び寄せて数をある程度減らしてから集落に入ると言う話はルルモアから聞いたな? できたらその最中に何人か連れて、中に突入してはもらえないかと思ってな」
お外で騒ぎを起こせば中からゴブリンはいっぱい出てくるだろうけど、奥の方にいるのは多分そのままでしょ。
だからお父さんが強い冒険者さんを連れて中に入って、なるべくいっぱい外に出しちゃって欲しいんだよってギルドマスターのお爺さんは言うんだ。
「いや、流石にそれはできないかな」
「なぜだ? お前ならゴブリンの気配を読めるし、中に入っても危険はないだろが」
「だって今日の俺の役目は、ニコラちゃんの護衛だからな。この子も腕は上げたが、流石にそんな所に飛び込めるほどの実力はないだろ」
お父さんが中に入っちゃうと、ニコラさんを守る人がいなくなっちゃうもん。
だからダメだよって言うと、ギルドマスターのお爺さんはしょんぼりしちゃったんだ。
「冒険者たちの安全を考えると、この方法が一番だと思うのだが」
洞窟の中で戦うより、お外の方が冒険者さんたちも戦いやすいでしょ。
だから一匹でも多くのゴブリンを洞窟の中から出したかったみたいなんだ。
「ん? ニコラちゃんの護衛?」
そこでギルドマスターのお爺さんは、何かに気が付いたみたい。
「ルディーン君が預かったのは3人だったはずだが、他のふたりは参加しないのか?」
「いや、見ての通り連れてきてはいるだろ。だが、洞窟内に入るのはまだ危険と考えて外での掃討戦にだけ参加させようと思っているんだ」
そう言ってユリアナさんとアマリアさんを見るお父さん。
二人は買ってもらった剣も持ってるんだけど、それとは別に弓も持ってるんだよ。
それを見たギルドマスターのお爺さんは、なるほどなって。
「近接戦はまだまだだから、弓での援護という訳だな」
「ああ、そうだ。シーラが言うには、二人とも弓の腕は結構上がっているという話だからな」
それを聞くと、弓でけん制をしてもらえると低ランクの奴らでも戦いやすくなるだろうから助かるよって笑うギルドマスターのお爺さん。
でもね、すぐにあれ? ってお顔をしたんだよ。
「その二人の護衛はいいのか? ああ、シーラさんが付くのか」
「私は参加しないわよ。だってルディーンたちを置いて行くわけにはいかないもの」
お母さんがそう言うと、ギルドマスターのお爺さんはそこで初めてお兄ちゃんたちも一緒にいることに気が付いたんだ。
「もしかして、その二人も参加してくれるのか! それならばどちらかが……」
「ダメですよ。僕たちはユリアナさんたちを守るために参加するだけだから」
「ああ。アマリアさんを危険にさらすわけにはいかないからな。離れるなんてとんでもない」
ギルドマスターのお爺さんはお兄ちゃんたちのどっちかがお父さんの代わりに洞窟に入ってよって言おうとしたんだけど、その前にダメって言われちゃったでしょ。
だからまたしょんぼりしちゃったんだけど、そこで僕を見つけたんだ。
「そうだ、ルディーン君がその二人を守れば……」
「ルディーンはダメです」
ギルドマスターのお爺さんは、僕が代わりにユリアナさんたちを守ればお兄ちゃんたちが洞窟に入れるじゃないかって思ったみたい。
でも、それを全部言う前にお母さんにダメって言われちゃった。
「シーラさん、そこをなんとか」
「ルディーンはダメです」
「えっと……」
「ダメです」
なんかゴゴゴゴゴゴって音が聞こえそうなくらい怖い笑顔でダメって言うお母さん。
それを見たギルドマスターのお爺さんは、しょんぼりを通り越してどんよりしちゃったんだ。




