706 こんなおっきな剣、誰が使うんだろう?
ディック兄ちゃんに言われた方に走ってったらね、僕がよく知ってる刃が真っすぐな剣がいっぱい並んでるとこに出たんだ。
「ディック兄ちゃん、すっごくいっぱい剣が並んでるよ」
僕は大喜びでディック兄ちゃんの方に振り向いたんだけど、そしたらお兄ちゃん、まだずっと遠くにいるんだもん。
もう! 一緒にすごいね~って言おうと思ったのに!
でも遠くにいるんだからしょうがない。
僕はまっすぐな刃の剣が並んでる方を見たんだ。
「ここにあるのは、大人の人が両手で持つ剣なのかなぁ」
近くにある棚に並んでる剣、みんなすっごく長いんだよ。
みんな僕の背よりも長いし、中には刃の部分だけで僕よりもっともっと長いのがあるくらいだもん。
それにね、中には刃の幅も広くってとっても重そうな剣まであるんだよ。
だから僕、こんなの、どんな人が使うのかなぁって思いながら見てたんだ。
「おっ、ルディーンは両手剣に興味があるのか?」
「あっ、ディック兄ちゃん。やっと追いついたのかぁ」
そしたらディック兄ちゃんが声を掛けて来たんだよね。
だから僕、長くて幅の広い剣を指さしながらどんな人がこんなおっきなのを使うんだろうねって聞いてみたんだ。
そしたら、お兄ちゃんにもよく解んないんだって。
「これだけ大きいと、普通には振れないからな。体を一回転させるようにして遠心力で相手を攻撃したり、肩に担ぐように構えて体を前に倒しながら振り下ろすっていう使い方をするんだろうけど」
「でもでも、そんなことしてたら相手によけられちゃわない?」
「そうなんだよなぁ」
これだけおっきいとすっごく重たいから、当たれば威力はすごいと思うよ。
でも僕だったらそんな攻撃、簡単によけられちゃうもん。
だから僕とディック兄ちゃんは、二人して頭をこてんって倒してたんだけど、
「あれ? ディック、シーラたちを呼びに行ったんじゃないのか?」
そしたらそこにお父さんが来たんだよ。
だから僕、お父さんにも聞いてみたんだ。
「お父さん、このおっきな剣ってどんな人が使うの? もしかしてすっごい力持ちの人がいるのかなぁ?」
「ん? どれだ?」
僕がこれだよって教えてあげると、お父さんは笑いながらこれは解らないだろうなぁって。
「俺たち狩人や冒険者には縁のない剣だからな。解らないのも無理はないよ」
「じゃあ、誰が使う剣なの?」
「重い金属鎧を着た兵士が戦争で使うんだよ」
これの使い方って、ディック兄ちゃんが言ってた通り横に振り回したり肩に担いで振り下ろすようにするんだって。
でも、普通の相手にそんなことしても避けられちゃうでしょ。
だから狙うのは人じゃないことが多いんだってさ。
「どちらも戦争に使うもので、特に幅が広いのは主に馬や大盾を持った兵士を狙うための剣だな。それと、戦争の時は長い槍を持った兵士が並んで攻めてくることが多いんだ。だからこっちにある普通の幅の長剣は振り回して槍を払ったり、長い柄をへし折ったりするのに使うんだぞ」
「そっか、長かったら槍がとどかないとこで振り回しても柄には届くもんね」
普通の剣だと槍が手に当たるくらいまで近づかないと柄まで届かないけど、ここに並んでるのだったらもっと遠くからぶんぶん振り回して槍をガーンってできるもん。
それにね、槍を持ってる人が急に前に出てきて、えやぁってやってきてもいいように、こういうおっきな剣を使う人たちは鉄でできた重くて頑丈な鎧を着てるんだって。
「中には柄を長くしたり普通の剣より細身で振り回しやすいやつもあるが、そういう一部の特殊なもの以外はそのような使い方をすることが多いんだぞ」
「剣にもいろいろあるんだね」
教えてもらってから見てみると、横に出っ張ってるつばが4個もあるやつや柄が刃の半分くらいの長さのやるなんかもあったんだよ。
そっか、ああいう所を持って振り回せば、長い剣でも使うことができるんだね。
僕は胸の前で腕を組むと、うんうん頷いてたんだよ。
そしたら今度はテオドル兄ちゃんが、僕たちに気が付いて寄ってきたんだ。
「何やってるんだよ。お母さんたちを呼びに行ったディック兄ちゃんが遅いからって見に行ったお父さんまでこんなところで」
「あっ、そうだった!」
「いやな、ルディーンにこの剣はどうやって使うのかと聞かれたから」
ディック兄ちゃんとお父さん、ニコラさんたちの剣選びが終わったからってお母さんを呼びに行くためにこっちに来たんだって。
でも途中で僕に会って剣のお話ししてたでしょ。
だから遅いなぁって思ったテオドル兄ちゃんは、何かあったんじゃないかって見に来たんだってさ。
「あのね、ディック兄ちゃんもお父さんも悪くないんだよ。ディック兄ちゃんは僕が飾りの剣のとこでお父さんたちを探してたからここは違うんだよって教えてくれたんだもん」
「それで、お父さんはここにあるツーハンデッドソードの説明をしてたって訳ね」
僕がお父さんたちは悪くないって教えてあげたから、テオドル兄ちゃんはそうだったんだねって頭をなでながら笑ってくれたんだよ。
でもね、
「どちらかと言うとグレートソードだな。ここに並んでいるのは」
お父さんが余計なこと言ったもんだから、テオドル兄ちゃんは怒っちゃたんだ。
「ルディーンがせっかく擁護してくれたっていうのに、お父さんはまるで反省していないみたいだね。それにディック兄さんもルディーンが僕たちと合流できたのに、なぜお母さんたちを呼びに行かずにいつまでもここにいるのかな?」
そういうテオドル兄ちゃんのお顔は、怖い時のお母さんそっくり。
だからお父さんもディック兄ちゃんも震えあがっちゃった。
「お父さんが余計なことを言うから」
「でも、本当のことで……」
二人してちっちゃな声でそんなことを言い合ってたんだけど、そしたら怖かったテオドル兄ちゃんのお顔がなぜか笑顔に。
あっ、違う。あれってお母さんが一番怖い時のお顔だ。
「ディック兄さん。ぐずぐずしないで、お母さんたちを呼びに行く!」
「はい!」
ディック兄ちゃん、テオドル兄ちゃんよりお兄ちゃんなのにびしぃってなってお返事すると、そのままお母さんたちがいるお料理道具のところに走ってっちゃった。
「それじゃあ、ルディーンは僕と一緒にニコラさんたちの剣を選んでいたところに行こうか」
「うん……でもお父さんは?」
僕は怒られてなかったけど、ちょびっとだけテオドル兄ちゃんが怖かったんだよ。
でもお父さんをほったらかしにするのはかわいそうだからそう言ったんだ。
そしたらテオドル兄ちゃんは怖い笑顔のまんまお父さんを見て、
「ルディーンに剣を見せてあげたいから、早く行こうか」
そう言った後、僕の手を引いてそのままおいて歩きだしちゃったんだ。




