705 お父さんたち、どこにいるんだろう?
お母さんに選んで来てって言われたけど、ニコラさんたちはお料理なんてしたことないでしょ。
だからどんなナイフを選んだらいいのか解んなくって困っちゃったんだ。
「ルディーン君。私にはどんなのがいいと思う?」
「そんなの、僕にも解んないよ」
棚に並んでるナイフを見てたニコラさんがそう聞いてきたんだけど、僕、お家にあるちっちゃなナイフで果物を切ってるだけだから自分のを選んだこと無いもん。
だからどんなのがいいかなぁって聞かれても困っちゃうんだ。
「あっ、そうだ! キャリーナ姉ちゃんやアマリアさんに聞いたらいいと思うよ」
キャリーナ姉ちゃんはさっき、僕に合うナイフを教えてくれたでしょ。
それにアマリアさんはお家でお料理をしてたって言ってたもん。
だったらみんなにあったナイフの選び方を知ってるんじゃないかな?
「キャリーナちゃんやアマリアに?」
「うん。だって、いっつも使ってる人の方が良く知ってるはずだもん」
僕がそう言うと、ニコラさんはそう言えばそうねぇって。
それならキャリーナ姉ちゃんより、いっつも一緒にいるアマリアさんの方が聞きやすいからって探しに行っちゃったんだ。
「僕は何しようかなぁ」
僕がお料理や解体に使うナイフは、さっきキャリーナ姉ちゃんが選んでくれたでしょ。
だからもう探す必要がないもん。
ってことで、ちょっと考えた後、ニコラさんたちの剣を選んでるお父さんたちのとこに行くことにしたんだ。
いっぱいカッコいい剣が売ってたし、その中からお父さんがどんなのを選んでるのかを見たいからね。
「どこにいるのかなぁ」
さっき見に行った時、店の奥の方に剣がいっぱい売ってたでしょ。
そこにいるのかなぁって思った僕は、とことこ歩いて向かったんだよ。
でも、なんでか武器がいっぱい並んでるとこにはお父さんもお兄ちゃんたちもいなかったんだ。
だから何でだろうって思って頭をこてんって倒したんだけど、その理由はすぐに解ったんだ。
「そっか、ここっておっきな剣ばっかり売ってるとこだからだ」
壁にかかってる剣はみんなすっごく立派でカッコいいんだよ。
でもさ、そういうのはお父さんみたいな男の人が振り回す剣だもん。
今日はニコラさんたちが使う軽い剣を探しに来たんだから、こんなとこにいるはずないよね。
「僕だったらあのうねうねしてる、かっこいい剣を買ってもらうんだけどなぁ」
何でそんな形してるのか解んないけどちょっぴりかっこいいなぁって思う壁にかかった剣を見ながら、僕はお父さんたちを探しにお店の中を歩きだしたんだ。
でもね、この刃物屋さんってすっごく広いもんだからお父さんたちが全然見つからないんだよね。
「こっちは槍の先っぽが売ってるとこか。もう! いろんなのが売ってるから探すのが大変じゃないか!」
刃物屋さんって言うだけあって、変なのもいっぱい売ってるんだよ。
だから見るだけならすっごく楽しいんだろうけど、今はお父さんたちを探してるから棚がいっぱいあってすっごくジャマ。
「僕がお父さんよりすっごくおっきかったら、棚の上から周りが見えたのになぁ」
そんなことを考えながら棚の迷路をうろうろ。
そしたらさ、なんか変なものが並んでるところに出ちゃったんだ。
「なんだろう、これ?」
そこにはね、周りが刃になってるおっきな丸い輪っかとか短剣くらいの大きさなんだけど刃の代わりにゆがんでずんぐりした風車みたいなのがついてるのとか、とにかく変なのがいっぱい並んでたんだよね。
だから僕、お父さんたちを探すのを忘れてそこの棚に並んでるのを見て行ったんだ。
そしたらさ、前の世界で見たことがあるのを見つけてそこに並んでるのが何なのかが解ったんだ。
「これって、先っぽがちっちゃな剣みたいになってるけどダーツって遊びの矢だよね。ってことはここにあるのってみんな、投げる武器なのか」
そう思いながら見てくと、柄がぐにゃってまがってるちっちゃな斧とか、板から削り出しただけのナイフみたいなのもあってちょっと面白い。
「このとげとげがいっぱい付いてるのなんて、どうやって投げるんだろう? おててに刺さらないのかなぁ?」
そんな風に夢中になってみてたらね、
「おっ、ルディーン。こんなところで何してるんだ?」
「あっ、ディック兄ちゃん!」
さっき一生懸命探しても見つからなかったディック兄ちゃんが居たんだ。
「僕、お父さんやお兄ちゃんたちを探してたんだよ。どこにいたの?」
「あれ? お母さんからアマリアさんたちの料理ナイフを選ぶから、先に剣を見繕っていてくれと言われたってお父さんが言ってたけど? 聞いてないのか?」
お父さんやお兄ちゃんたちは、お母さんに言われた通りニコラさんたちの剣を探してたみたい。
だから軽い剣が売ってるとこにいたんだよって教えてくれたんだけど、僕、そこを見つけられなかったんだよね。
それを教えてあげるとディック兄ちゃんは、なるほどなって。
「ルディーン。お前この辺りだけを探していただろ?」
「そうだよ、だって武器はここに売ってるんだもん」
そう言ってさっきまで見てた投げる武器を指さすと、ディック兄ちゃんは探すところが間違ってるって言うんだよ。
「あのな、金持ちが飾るための武器が売ってるところを探したって実用的なものが見つかるはずないだろ。俺たちが居たのは、実際に使う剣が売っている場所だ」
「ええっ、ここのって使わない武器なの!?」
僕はそう言うと、ディック兄ちゃんの手を引いて壁に武器がいっぱい掛けてあるところに連れてったんだ。
「あれも? あのくねくねしたカッコいいのも使わない剣なの?」
「あんな形のを仕舞うさや、どうやって作るんだよ。刃がついた剣をむき身で持ち歩いたら危ないだろうが。狩りにはとても使えないぞ」
「そっかぁ」
そう言ってもういっぺん壁にかかってる武器を見てみると、ディック兄ちゃんの言う通り飾りの剣ぽいなぁって思えてきたんだ。
だって薄かったり細かったりして魔物を切ったら折れちゃいそうなのだったり、剣の刀身の横っかわにわざわざ溝を掘ったり字を彫ったりしてるのがいっぱい並んでるんだもん。
ああいう飾りがついてるのはカッコいいけど、実際に使ったらそこに魔物の血とかが入ってお手入れが大変そう。
「僕、イーノックカウの冒険者さんたちは、あんなカッコいい武器を使ってるんだねって思ってた」
「いやいや、武器として使うのなら飾りのない普通のものが一番だろ」
僕を見て、あきれたようなお顔でそういうディック兄ちゃん。
そうだよなぁ。あのくねくねの剣もカッコいいけど、どうやって斬ったらいいのか解んないもん。
森で狩りをするんだったら、お父さんがくれた剣が一番だって僕も思う。
「解っただろ。この辺りにあるのか実用品ではなく飾り。武器があるのはあっちだ」
「そこにお父さんとテオドル兄ちゃんがいるんだね」
「ああ、いるぞ」
それを聞いた僕は、すぐにそっちに向かって駆け出したんだ。
だってここに売ってる普通の武器、早く見たかったんだもん!




