703 刃物屋さんには変な形のナイフも売ってるんだよ
私信ですが、前回通りすがりの猫耳りす尻尾様から頂いた感想を間違って消してしまいました。
その経緯と返信に関して活動報告に書かせてもらったので時間がある時にでも見てやってください。
誠に申し訳ありませんでした。
キャリーナ姉ちゃんとどんなとこなのかなぁってお話ししながら歩いてたら、あっと言う間にお店の前に到着。
「僕、一番!」
そう言ってお店の扉を開けると、中にはいろんな棚がいっぱい並んでてすっごくびっくりしたんだ。
「お母さん。ここ、刃物屋さんじゃなくって棚屋さんだよ」
だから振り向いてそう言うと、ディック兄ちゃんたちに笑われてしまった。
「何言ってるんだルディーン。よく見てみろ、棚の中に刃物が並んでいるだろ」
「棚の中?」
そう言われてもう一度お店の中を見てみると、棚の中にはナイフやお料理に使う道具がいっぱい並んでたんだ。
「ほんとだ。棚屋さんじゃなかった」
「でも、確かに棚を売っていると間違えるほど多くの棚が並んでるな」
お父さんがそんなこと言うくらい、このお店の中には棚がいっぱい並んでるんだよ。
「でも何でこんなに棚ばっかりなんだろう? 買いに来た人が見にくいって思わないのかなぁ?」
普通のお店は壁のところにだけ棚があって、あとはテーブルに品物を並べてるでしょ。
でもここは図書館みたいに棚をいっぱい並べてるんだもん。
だから僕、なんでこんな風にしてるんだろうって頭をこてんって倒したんだ。
そしたらさ、それを見たお母さんが笑いながら教えてくれたんだよ。
「あら、こういう陳列にしないと危なくて安心して品物を見ることができないじゃないの」
「そっか! ポンって置いといて、落っこちてきたら危ないもんね」
そう言われてもう一度棚を見てみると、置いてあるナイフは柄のところを木の枠に差し込むようにして並べてあったんだ。
これなら誰かが棚にドンって当たっても、並んでる刃物がドドドって落ちてきて危ないなんてことにはならないよね。
「でも、ほんとにいろんなのが並んでるなぁ」
なんで棚に並べてあるのかが解ると、今度は売ってるナイフのことが気になりだしたんだよ。
だから棚の間をてくてく歩きながら見て行ったんだけど、そしたら一番奥まで行ったところで棚以外の並べ方をしてるものを見つけたんだ。
「わぁ、こっちは剣とかヤリとかがいっぱい売ってる」
そう、奥にあったのは棚に並ばないような大きな刃物たち。
壁にはおっきな剣が何本も飾ってあるし、ふちっこに置いてある樽には槍や棒の先っぽに剣みたいなものが付いてるのが何本も入ってるんだよ。
それにね、グランリルの村だけじゃなくってイーノックカウの冒険者ギルドでも見たことない形の武器までそこには置いてあったんだ。
パッと目に入ったものだけでも長細いのだったりおっきいのに薄かったり、中にはうねうね曲がってる剣まであってびっくり。
どうやって使うのかぜんぜん解らないような変な剣なんて見たことなかったから、僕は大興奮だ。
「お母さん、見てみて。変な剣があるよ!」
そう言って振り向いたんだけど、そこには誰もいなかったんだもん。
もう! お母さんたら、勝手にいなくなっちゃったらダメじゃないか!
僕はぷんぷんしながらさっき見てた並んでる棚のところに戻ったんだよ。
そしたらお母さんがキャリーナ姉ちゃんと一緒に、お料理に使う道具が並んでるところでお話してたのを見つけたんだ。
「お母さん。これくらいちっちゃなのだったら、私もお手伝いできるよ」
「これは果物の皮をむくためのナイフかしら? 確かに小さくてキャリーナでも扱えそうだけど、刃が薄すぎて普通の料理には使い辛いんじゃないかしら?」
僕んちにあるお料理用のナイフとかって、お母さんが使うから大人用でしょ。
キャリーナ姉ちゃんは僕よりはおっきいけど、まだおててとか小さいからあんまり使わせてもらえないんだよね。
だからここで、お姉ちゃんでも使えるナイフを探してるみたいなんだ。
「そっか、だったら僕も探そっと」
キャリーナ姉ちゃんでもおっきくて使えないって言ってるのに、僕が使えるはずないでしょ。
だからお母さんたちのお話を聞いて、僕もおうちで使えるナイフが欲しいなぁって思ったんだよね。
「なんかいいの、無いかなぁ」
そう思いながらお料理用の棚の周りをうろうろ。
そしたらさ、すっごくかっこいいのを見つけちゃったんだよね。
「お母さん、お母さん。すごいのがあるよ。これがあれば僕もキャリーナ姉ちゃんもおっきなお肉を簡単に切れちゃうんじゃないかな?」
「そんなのがあるの? ルディーン、どこ?」
「これだよ。ほら、ちょっとおっきいけど持つとこが二つもついてるから僕やお姉ちゃんでもきっと大丈夫だよ」
僕が見つけたのはね、切るとこが半月型になってて、その両端に持つとこが付いてる変わったナイフなんだ。
お肉を切るためのナイフくらいのおっきな刃が付いてるけど、両手でなら僕でも持てそうだもん。
それに刃が丸くなってるから、ギコギコしながら切ることができるでしょ。
多分これ、僕みたいなちっちゃな子がお手伝いするためのナイフなんじゃないかな?
そう思って見せたんだけど、お母さんにこれはダメねって言われちゃった。
「え~、なんで? これなら僕でもいろんなのが斬れると思うよ」
「でも、ルディーン。これで本当にお肉が切れると思う?」
そう言われて、僕は半月型の包丁を見たんだよ。
確かお肉って、刃をすーって引いて切るんだよね。
「あっ、これじゃすーってできない」
「でしょ。これは多分、お野菜を切るための道具なんじゃないかしら?」
お肉と違ってお野菜はすーって引かなくっても切れるでしょ。
それに皮がとっても硬いお野菜もあるもん。
お母さんはね、そういう時に便利なナイフなんじゃないかなって言うんだよ。
「あとはそうね、野菜を細かく刻みたい時なんかは動かすだけで切れるから疲れなさそうね」
「そっか! お店だといっぱい切らないとダメだから、こういうのがあるのかも」
お家じゃ家族の分だけしか切らないけど、お店だと山ほど作んないとダメだもん。
そっか、これはそういう時に使うナイフなんだね。
「ちぇっ、僕でもお料理に使えるナイフだと思ったのに」
「それだったらいいのがあるよ」
僕がしょんぼりしてるとね、キャリーナ姉ちゃんがそう言っておててを引っ張ったんだ。
「ほらこれ、これならルディーンでも使えるよ」
「ほんとだ。すっごくちっちゃいナイフがある」
お姉ちゃんがさっきお母さんに言ってたのはこれかな?
刃が薄いからおっきなお肉や硬いお野菜は切れないだろうけど、これだったら僕でも使えそう。
「そうねぇ。ルディーンはお菓子をよく作るし、果物の皮をむくナイフを持っていたら便利かも?」
お母さんはそう言うと、そのちっちゃなナイフを棚から取り出したんだよ。
でね、手に持ってじっと見たり刃のところをつんつんしたりしてるうちにちょっとびっくりしたお顔になったんだ。
「これ、薄いのに意外としっかりしてるわ。かなりいい鋼を使って作られてるみたい」
「そうなの?」
「ええ、これならホーンラビットの解体くらいできそうよ」
これを聞いた僕とお姉ちゃんはびっくり。
だってホーンラビットって動物じゃなくて魔物だもん。
皮も硬いから、ちゃんとちょっと厚めの解体用ナイフを使わないとダメなんだよ。
なのにこのナイフはすっごく薄いのに、ホーンラビットの皮も切れそうなんだって。
「ディックたちの言っていた通り、この店はかなりいいものを扱っているようね」
そう言うと、だまって周りにあるお料理用の道具が並んでる棚をぐるっと見渡たすお母さん。
「グランリルの鍛冶屋、武器や解体ナイフはいいものを打つんだけど、料理用のものはいまいちなのよね」
そう言いながら近くにあったものから順番に、じっくりとお料理用の道具を見始めたんだ。
そしたらさ、僕たちが来ないもんだから探しに来たのか、お父さんがこっちに来たんだよ。
「おい、何をやってるんだ? ニコラちゃんたちの剣を……」
「なに?」
まだお話してる途中なのにお母さんがすっごい笑顔でそう聞き返したんだもんだから、それを聞いた瞬間、お父さんはぴきって固まっちゃったんだ。
「ハンス、今は料理ナイフを選んでいる所なの。だから後にしてね」
「はひっ!」
びしっ! ってしてるのに変なお返事をしたお父さん。
それを見たお母さんはにっこりすると、また棚に並んでるナイフを見始めちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
買い物中の女性の邪魔をしてはいけません。それが本人にとって大切だと思っていたり、コレクションするほど好きなものだったりした時は特にです。
店の端にある椅子にでも座って、買い物が終わるのをただただ待つのが吉でしょうw
あと、本編で出て来た変わり包丁はイタリア料理に使われるメッザルーナです。
食戟のソーマでイサミ・アルディーニ君が使っていたあれですね。
ユニークな形だし野菜を刻んだりする時には便利でしょうけど、結構大きいから実際に家にあったら邪魔だろうなぁ。
さて、今週なのですが出張があるので続きを書くことができません。
その上、作業の進捗によっては延長したり疲れて土日は寝て過ごすなんてことにもなりそうだったりします。
ですので金曜日の更新はお休み、もしかしたら来週の月曜日も休むことになるかもしれません。
もし月曜日の更新も休むようでしたら活動報告に書くので、更新が無いようならそちらをご覧ください。




