702 武器を売ってるけど武器屋さんじゃないんだって
武器屋さんに行くことになった僕たちは、お家を出たんだよ。
でね、そのまま冒険者ギルドがある方に歩き出そうとしたんだけど、そしたらテオドル兄ちゃんに止められちゃったんだ。
「ルディーン、店があるのはそっちじゃないぞ」
「えっ、武器屋さんなんでしょ? 冒険者ギルドの近くにあるんじゃないの?」
武器を使うのは冒険者さんたちだから、僕は武器屋さんもそっちにあると思ってたんだ。
でもテオドル兄ちゃんたちが行こうとしてるお店は、違う方にあるんだって。
「店があるのは商業地区って言っただろ」
「でも、武器を使うのは冒険者さんたちだもん。冒険者ギルドの近くにあるって思うじゃないか」
僕がぷんぷんしながらそう言うと、テオドル兄ちゃんはなるほどなぁって。
「確かに武器だけしか売っていないのなら、商業地区にあるはずないよな」
「ええっ! 武器屋さんなのに武器じゃないのも売ってるの?」
「あ~、今から行く店は正確に言うと武器屋じゃないんだ」
お兄ちゃんたちが言ってた細身の軽い剣が売ってるお店、ほんとは武器屋さんじゃなくって鍛冶屋さんがやってるお店なんだってさ。
「当然武器も並んでいるんだけど、鎌とかナイフ、料理包丁とかも売ってるんだよ」
「なるほど、刃物専門店なのね」
テオドル兄ちゃんのお話を聞いて、お母さんはそれが何のお店なのか解ったみたい。
「刃物屋さん?」
「ええ、そうよ。ナイフや包丁も、ルディーンが使っているような剣と同じ作り方をするものがあるの。冒険者と言っても、イーノックカウには高ランクの人は少ないでしょ。その代わり領主様の方針でいい料理屋さんが多いから、いい鋼を使った調理道具の需要が高いんじゃないかしら」
僕んちで使ってるお料理用のナイフとかも、武器を作ってもらってるグランリルの鍛冶屋さんに作ってもらったんだよってお母さんは教えてくれたんだ。
そっか、よく切れる方がお料理だってしやすいもん。
上手な鍛冶屋さんに作ってもらった方が、絶対いいに決まってるよね。
「それで、その鍛冶屋がやっているっていう店はどのあたりにあるんだ?」
「生活に使うものが売ってる区画だよ、何とかって言う大きな本屋がある辺り」
「ああ、ヒュランデル書店の近くなのか」
ヒュランデル書店? なんか聞いたことある気がする。
そう思って僕が頭をこてんって倒してたらね、お父さんが呆れたお顔で忘れたのかって。
「前に魔道具の本を買いに行った書店だよ。エルフの店主がいた」
「思い出した、ヒュランデルさんのお店だ! 丸いおっきなメガネのエルフさんがやってる本屋さんだよね」
ヒュランデルさんっていうのは、僕が生まれて初めて見たエルフさん。
錬金術を始めたのも、ヒュランデルさんがやった方がいいよって言ってくれたからなんだよね。
ロルフさんやバーリマンさんに会えたのも、その時錬金術を覚えた方がいいって言われたからなんだ。
「メガネのお姉さん、また会いたいなぁ」
「店主もルディーンのことを気にしていたからなぁ。今日はさすがに無理だが、また今度時間がある時にでも顔を出すか」
「うん!」
ヒュランデルさんに会ったらありがとうって言わなくちゃ。
それに錬金術を使えるようになったおかげで魔石の属性変換ができるようになって、いろんな魔道具も作れるようになったんだよって教えてあげるんだ。
僕がそんなこと考えてたらね、テオドル兄ちゃんがそろそろいいかな? って。
「お父さんもルディーンも近くまで行ったことがあるみたいだし、もうそろそろ向かわない?」
「ああ、そうだな」
テオドル兄ちゃんに言われて、初めてずっとお家の前にいたことに気が付いた僕。
お父さんがお返事したのを聞いて、ヒュランデル書店がある方に元気よく歩き出したんだ。
「こっちの方、あんまり来たことないや」
「確かに、村への買い物ではこの辺りに来る必要はないからな」
ヒュランデル書店があるとこって、僕がいっつも行ってる食べ物とかが売ってるところからちょっと離れてんだよね。
それにヒュランデルさんの本屋さんにも一度しか行ってないもん。
だから周りは知らないお店ばっかりで、僕はキョロキョロしながら歩いてたんだよ。
それはキャリーナ姉ちゃんもおんなじで、かわいいお店を見つけてはそのたびに大はしゃぎ。
「お母さん。きれいな服のお店があるよ」
「ええ。でも大人の人が着るものばかりみたいだから、キャリーナにあの店はまだ早いかな」
「そっかぁ」
でも並んでるお店はみんな大人の人が行くようなとこばっかりだったから、キャリーナ姉ちゃんも見に行きたいって言わなかったんだよ。
おかげですいすい進めたもんだから、目的のお店の近くまであっという間に来れちゃったんだ。
「ほら、さっき話したのはあそこの店だよ」
テオドル兄ちゃんが指さしてる方を見ると、石造りのおっきなお店が。
そこにかかってる木の看板を見ると、短剣とお料理用のナイフの絵がおっきく描かれてたんだ。
「なるほど、確かに刃物屋だな。あれじゃあ、俺が知らない訳だ」
お父さん、お料理なんて全然しないもん。
だから包丁とかが売ってるお店があっても寄ろうなんて考えないでしょ。
それじゃあ何度もこの前を通ってるけど、今まで知らなかったのは当たり前だよねって笑ってるんだ。
「俺たちも、普通に街をぶらついてたら気付かなかったと思うよ」
「何度か見に行った武器屋さんにいい店を知らないかなって聞いたら、武器屋ではないけどって刃物ならあそこだろうって紹介されたんだ」
それはお兄ちゃんたちもおんなじだったみたいで、武器屋さんに教えてもらえるまでこのお店のことは知らなかったみたい。
でも入ってみたら結構いいお店だったんだよって教えてくれたんだ。




