701 普通のお店にも行ってたの?
「そのすっごい武器屋さんには、普通の武器は売ってないの?」
「客層が違うからな。実用的なものは多分扱ってないと思うぞ」
そういうお店はどっちかって言うと飾るために買う人が多いから、普通の武器は誰も買ってくれないんだって。
だから仕入れても仕方がないから、置いてないんじゃないかなぁってお父さんは言うんだよ。
そっか、じゃあお兄ちゃんたちに聞いてもしょうがないよね。
僕がそんなことを思ってたらさ、キャリーナ姉ちゃんが不思議そうなお顔をして言ったんだよ。
「お兄ちゃんたち、毎日武器屋さんに行ってるんでしょ。いっつもおんなじ店に行ってるのかなぁ?」
「そっか、もしかしたら普通のお店にも行ってるのかも!」
ゴブリンの村を探しに僕たちが森に行ってる間も、ずーっと見に行ってたんだもん。
すっごい武器が売ってるお店ばっかりだと飽きちゃうから、それ以外にもお兄ちゃんたちが見に行ったことがある武器屋さんがあるかも。
「お父さん、お兄ちゃんたちに聞いてみようよ」
「確かに、暇つぶし程度の気持ちでふらっと立ち寄ったことがあるかもしれないな」
そんなお話をしてたらね、僕たちがいるお部屋のドアが急にガチャって開いたんだ。
「あれ、みんな帰ってたの? もしかしてゴブリンの集落が見つかったとか?」
「いや、またルディーンが何か見つけたんだろ。今度は何を見つけたんだ?」
入って来たのは、なんとディック兄ちゃんとテオドル兄ちゃん。
ディック兄ちゃんは入ってくるなりそう言うと、僕の頭をぐりぐりしながら何を見つけたのか白状しろって言うんだよ。
「違うよ! ゴブリンの村を見つけたから帰ってきたんだもん」
「おっ、本当に集落を見つけて来たのか」
僕が両手をあげて抗議しながら教えてあげると、ディック兄ちゃんはびっくり。
「ああ、だからアマリアさんたちもいっしょなのか」
同じお部屋の中にニコラさんたちがいるのを見つけてそう言ったんだよ。
「うん。あのね、ニコラさんたちの武器が弱っちいから、ゴブリンやっつけに行くと折れちゃうかもしれないんだって。だからどっかで買わないとねってお話してたんだよ」
「なるほど。僕らの使っているような鋼を鍛えた剣じゃないだろうからなぁ」
そう言ってうんうん頷くテオドル兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんに、ニコラさんがどこかいい武器屋さんを知らないかなって聞いたんだよ。
「テオドルさん。どこかいいお店を知りませんか?」
「実用的な武器かぁ。一応イーノックカウでも何件か見て来たけど……」
さっき、もしかしたら普通のところも見に行ってるかもしれないって言ってたけど、本当に知ってるって言うもんだから僕はびっくりしたんだ。
「お兄ちゃんたち、普通のとこも見に行ってたの?」
「さすがに、そう毎日高級店ばかり行けないよ。数もそんなにないし」
「かと言ってレーアのように普通の店なんか見て回る気が起きないから、実用的な店も見て回ったぞ」
それを聞いたニコラさんは大喜び。
テオドル兄ちゃんの手をぎゅって握って、その武器屋さんを紹介してってお願いしたんだ。
「困っているんです。お願いします」
「俺もシーラも、流石にイーノックカウの武器屋は知らないからな。見て回っていたのならちょうどいい、この子たちに合った武器を売っている店があるのなら教えてくれ」
ニコラさんに続いてお父さんにもそう言われたもんだから、テオドル兄ちゃんはニコラさんに手をギュってされたままディック兄ちゃんの方を見たんだよ。
「ディック兄さん、どこがいいと思う?」
「そうだなぁ」
聞かれたディック兄ちゃんはアマリアさんのことをちらっと見ると、
「俺たちのような腕力はないだろうから、細身の剣を中心に扱ってたあの店がいいんじゃないか?」
軽い剣が売ってるお店何かどうかなぁって言ったんだよ。
「ああ、あの店か。確かに女性が使うにはいい感じの武器が並んでたね」
それを聞いたテオドル兄ちゃんも、それはいい考えかもって言ったんだ。
でもね、それを聞いたニコラさんはちょっと違う意見みたい。
「テオドルさん。私たちは力がない分、剣の重さがある程度無いと威力が出ないと思うんです。どこか他におすすめのところはありませんか?」
「重めの剣かぁ。思いつくところがないわけじゃないけど……お父さんはどっちがいいと思う」
テオドル兄ちゃんはずっとニコラさんに手をギュってされながら、困ったようにお父さんに聞いたんだよ。
そしたら聞かれたお父さんはちょっと考えた後、こう言ったんだ。
「ニコラちゃんの気持ちも解るけど、今回は洞窟の中での戦闘になるんだ。振り回さないと使えない重めの武器よりも、軽くて扱いやすい方が向いていると俺は思うぞ」
「そうなんですか……」
それを聞いたニコラさんは、自分の意見が通らなかったからなのかちょっとしょんぼり。
でもすぐに立ち直って、その通りですねってにっこり。
「狭い場所だと大きく振ることができないから、刺したり斬ったりできるショートソード系の方がいいのかも?」
「いや、慣れない突き技は剣が抜けなくなる心配がある。だから専用武器を使うのでなければ、洞窟でも使わない方がいいぞ」
細くて刺さってもすぐ抜ける剣もあるみたいなんだけど、そういうのは硬いとこにぶつかると折れちゃうことがあるんだって。
ゴブリンの村は狭いとこがいっぱいの洞窟だから、今回は斬ることを目的にした剣を選んだ方がいいよってニコラさんに教えてあげたんだ。
「あとな。必死なのは解るが、そろそろテオドルの手をはなしてやってくれないか? ちょっと困ってるようだし」
「あっ、すみません」
お父さんに言われて気が付いたのか、大慌てで手をはなすニコラさん。
さっきからずーっとテオドル兄ちゃんの手を握ってたもん。
それだけ、武器が買えなかったら困っちゃうって思ってたんだろうなぁ。
「ニコラ。いくら必死でも、ず~っと手を握りながら訴えるのは私もどうかと思うわよ」
「そうよぉ~。いくら必死でも、テオドルさんの手をず~っと握りっぱなしと言うのはねぇ」
それはユリアナさんもアマリアさんもおんなじだったみたいで、ニコラさんにダメだよって注意したんだ。
でもそのせいでニコラさん、さっきまでやってたことが恥ずかしいって思ったのか耳まで真っ赤になってうつむいちゃった。
だから僕、そんなに言わなくってもいいのにって怒ったんだよ。
「ニコラさん、みんなのために武器屋さんのこと聞いてたのに、ひどいじゃないか!」
「いや、そういう意味で言った訳じゃないんだけど」
「ごめんね。ちょっとからかってみただけなのよ。ニコラも、解ってるわよね」
アマリアさんがそう言うと、ニコラさんはうつむいたまんまうんってお返事したんだ。
「ほら、ニコラも許してくれたみたいだから、武器屋のお話しに戻りましょうよ」
「ニコラもあれだけ必死になってくれたんだからね。私たちもちゃんと聞かないと」
アマリアさんとユリアナさんの言う通り、今は武器屋さんのお話しの最中だっけ。
そう思った僕は、お兄ちゃんたちに聞いたんだよ。
「その軽い武器が売ってるお店って遠くにあるの?」
「いや、商業区にあるからそれ程でもないぞ」
「夕食までまだ時間もあるし、それならこれから向かってみるか」
お父さんの一言で、その武器屋さんに向かうことが決定!
「ディック兄ちゃん。そのお店に僕が使えるのとかも売ってるかなぁ?」
「いや、流石にグランリルで使えるような品質の物はないぞ」
お兄ちゃんにそう言われて、僕はちょっぴりがっかり。
でもね。
「武器がいっぱい売ってるお店かぁ。どんなとこなんだろう?」
僕、武器屋さんに行くのは初めてだもん。
だからどんな所なんだろうって、すっごくワクワクしたんだ。




