699 ニコラさんたちの生まれた村もお店は無かったんだって
ストールさんとお話ししながら待ってたらね、ニコラさんたちが自分の剣を持って帰ってきたんだ。
「とりあえず持ってきたけど、防具はいいのかなぁ?」
「お父さんは武器を持って来てねって言ってたからいいと思うよ」
防具もいるなら言うはずだもん。
だから大丈夫だよって言った僕は、ニコラさんたちを連れてお父さんたちがいるお部屋に行ったんだ。
「お父さん、ニコラさんたち連れて来たよ」
「おお、ご苦労さん。って、何でメイドの格好をしているんだ?」
お父さんも僕といっしょで、ニコラさんたちの格好にびっくりしたみたい。
でもお話を聞いたら、そうかそうかって納得してくれたんだ。
「確かに、教育をしてくれると言うのなら受けておいた方がいいな。俺も計算は最低限しかできないけど、それでもまるでできないやつと比べたら天と地の差があるしな」
「やっぱり覚えないとダメなんですよね」
お父さんのお話を聞いてしょんぼりしちゃったのはユリアナさん。
お勉強があんまり好きじゃないみたいで、なるべくしたくないなぁって思ってたんだって。
「数字の読み方と足し算と引き算だけは覚えておいた方がいいわよ。それだけで、買い物時に騙されることがなくなるから」
「解ります! 数の数え方を教えてもらっただけで、買い物がすごくしやすくなったもん」
お母さんに言われてうんうんうなずいているのはアマリアさん。
僕のお家に来るまで、3人のうちでお金の数え方を知ってたのはニコラさんだけだったんだって。
だからユリアナさんと二人だけの時はお買い物ができなくて困ってたんだけど、今はそんなことなくなったんだよって教えてくれたんだ。
「私たちの村じゃ、お金なんて使わなくても生活できてたもんなぁ」
「あっ、それ僕たちの村もいっしょだよ」
「へぇ、意外」
ニコラさんたちの住んでた村って、グランリルとおんなじでお店が無かったんだって。
だから先に村を出てイーノックカウに来たニコラさんは、最初すっごく大変だったみたいなんだ。
でも、ユリアナさんとアマリアさんはイーノックカウに来てすぐにニコラさんとパーティーを組んだでしょ。
おかげで今まで数の数え方や計算を覚えなくってもよかったんだってさ。
「ニコラに甘えてたから、そのしっぺ返しを食らっている所です」
「ユリアナは本当に勉強が嫌いだからなぁ」
そう言って笑うニコラさん。
それに対してアマリアさんは、いろいろ教えてもらえるのが楽しいみたい。
「まだ読み書きも計算もまるでダメだけど、ストールさんや他のメイドさんが教えてくれるもん。いつかは自分で依頼書を読んで、その報酬を3人で分けたらいくらかになるかを計算できるようになりたいなぁって思ってるのよ」
「そっか。アマリアさんは頑張り屋さんなんだね」
僕がそう言うとアマリアさんが聞いてきたんだ。
「そういうルディーン君は、もう全部できるんだよね?」
「うん。でも、まだ外国の文字とかは読めないんだよ」
グランリルの村には外国の文字や言葉の覚え方が書いてあるご本もあるんだよね。
でも使うことが無いから、なかなか覚えられないんだ。
「字の一個一個は何て読むのか解るんだけど、ご本の後ろの方に書いてある外国のお話はまだ全然読めないんだよ」
僕がそう言うとね、みんなポカンってお顔をしてるんだ。
だからお父さんのお袖を引っ張って聞いてみたんだよ。
「どうしたの? なんかあった?」
「ルディーン、お前外国の文字まで読めるのか?」
「だから読めないって言ってるじゃないか! 外国のはとっても難しいんだからね」
僕、さっきちゃんとまだ読めないって言ったよね?
お父さん、大人なのに何で僕のお話をちゃんと聞いてないの!
そう思ってぷんぷんしてたら、お母さんはそんなに怒らないのって。
「ハンスは驚いただけだから許してあげて。お母さんだってルディーンが外国の言葉をお勉強しているなんて知らなかったし」
「そっか。難しいからご本を借りてこないで、図書館に行った時しかお勉強してなかったもんね」
そう思った僕は、お父さんにごめんなさいしたんだよ。
そしたらいいよって許してくれたんだ。
「しかし、うちの子はどれだけ頭がいいんだ?」
「ほんと、誰に似たらこんな子が生まれるのかしら?」
「シーラの先祖に頭がいい人がいたんだろ。少なくとも、俺の生まれたグランリルではありえない」
お母さんはイーノックカウの近くで生まれたから、僕たちの村と違って計算とかが上手な頭のいい人もいるんだって。
だからきっとお母さんのお爺さんや、そのお爺さんとかに頭がい人がいたに違いないってお父さんは笑ったんだ。
「予想外の服装から話がそれてしまったが、伝えた通りそれぞれ自分の武器は持ってきたか?」
「はい」
そう言ってニコラさんたちは、恐る恐るって感じで鞘に入った剣をお父さんの前に出したんだよ。
「ちゃんと油を縫って錆びないようにしてるし、刃の欠けも無いと思います」
「ん? ああ、剣の手入れを見たいわけじゃないんだ」
お父さんはそう言うと、ニコラさんたちの剣を鞘から抜いて一本一本見て行ったんだよ。
「やっぱりか」
「お父さん。何がやっぱりなの?」
「この剣は3本とも、ゴブリンの集落がある洞窟内で使うには心許ないってことだ」
お父さんのお話を聞いてニコラさんたちはびっくり。
「私たちの剣、どこか変なんですか?」
「ゴブリン相手なら、この剣でも戦えましたよ」
そう言えばニコラさん、初めにあった時に僕の魔法を見てびっくりしたゴブリンをえいやあってやっつけてたよね。
ならこの剣、ゴブリンの村をやっつけに行く時にも使えるってことだよね?
そう思った僕は、何でそんなこと言うんだろうって頭をこてんって倒したんだよ。
そしたらさ、お父さんが笑いながら違う違うって。
「ゴブリンに通用しないとは言っていない。洞窟内での戦闘には心許ないって言ってるんだ」
「えっと、どう違うんですか? ゴブリンの集落を攻略しに行く時には使えないって意味ですよね」
ニコラさんの質問に、お父さんは剣をコンコンって叩きながらこう答えたんだよ。
「この剣は鋳物を叩いて剣の形にしただけのものだからだよ」
ニコラさんたちの剣って砂で作った型の中に溶かした鉄を入れて、それを取り出した後にカンカン叩いたりはみ出した所を削り取ったりして剣の形にしただけのものなんだって。
そういう剣は折れやすいから、狭い洞窟での狩りに持ってくのは危ないんだよってお父さんは言うんだ。
「俺たちが使っている鋼の剣と違ってこういうのは不純物を多く含んでるから、洞窟の壁から出ている大きな石とかに当たると強度のムラがあるところで折れてしまうことがあるんだ」
「ゴブリンは人よりも小さな亜人でしょ。だからその集落である洞窟内も当然狭いのよ。そこで戦うことを考えると、ハンスの言う通りこの剣を持って行くのはお勧めできないわね」
ゴブリンの村の洞窟って入口はおっきかったけど、中はゴブリンたちが生活できるくらいの大きさでいいもん。
穴を掘るんだったら小さい方が簡単だから、奥へ行くほど狭くなるのは当たり前なんだって。
「ゴブリンはブラックボアのように硬い皮を持っているわけじゃないから、小さく振るだけでも十分に倒せる。でもつい力が入って壁にぶつけるというのはよくあることなんだ。そして、剣が折れたことで命を落とす冒険者もまた珍しくない」
「ニコラちゃんたちはルディーンが預かってる子ですもの。その安全も、私たちが気にかけてあげないといけないと思っているのよ」
お父さんはニコラさんたちが危ない目に合わないように、ゴブリンの村をやっつけに行く前に武器を確認しておきたかったんだって。
その武器が思ってた通り危ないもんだったから、行く前に気が付いてほんとによかったねって僕は思ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ニコラさんたちはまだそれほど稼げる冒険者ではないので、当然武器も安物です。
そんな安物でも、鉄の剣だと結構なお値段がするんですよね。
設定としては銀貨50枚前後、日本円で5万円くらいかな?
一泊銅貨8枚くらいの部屋で生活していたニコラさんたちからすると、とんでもない大金です。
今回の件では命が危ないという点だけでなく、もし折れてしまったらかなりの損害になるという点でニコラさんたちにとってかなり怖いお話しでした。
さて、今月は休載が多くて申し訳ありませんが今週末も用事があって書く時間が取れそうにありません。ですので月曜日はお休みさせて頂き、次回更新は来週の金曜日になります。




