698 何でメイドさんの格好をしてるの?
冒険者ギルドを出た僕たちは、特にやることが無いからそのままお家に帰ったんだ。
そしたらね、お部屋に入るとお父さんが僕にニコラさんたちを呼んで来てって言うんだよ。
「ニコラさんたちを呼ぶの?」
「ああ。それと来る時に、いつも使っている武器も持って来るように言ってくれ」
よく解んないけど、きっとゴブリンの村をやっつけに行くお話をするんだろうなぁ。
そう思った僕は、ニコラさんたちがどこにいるのか聞くためにストールさんがお仕事してるとこに行ったんだよ。
「ただいまぁ! ってあれ? ストールさんのお部屋なのに、ニコラさんたちがいる」
そしたらそこに、なんでか知らないけどメイドさんの格好をしたニコラさんたちがいたんだよね。
「あら、ルディーン君。おかえりなさい」
「ただいま、ストールさん」
お帰りなさいをしてくれたからそのお返事したんだけど、それよりすっごく気になったことがあったから僕はちらちらそっちを見てたんだよ。
そしたらそれに気が付いたストールさんが教えてくれたんだ。
「ああ、ニコラたちの服装が気になったのね」
「うん。何でメイドさんの格好をしてるの?」
「それはメイドの仕事も身につけてもらおうと考えたからですよ」
それを聞いた僕は、なんでそんなことするんだろうって頭をこてんって倒したんだ。
そしたらストールさんが笑いながら、その理由も教えてくれたんだよね。
「この子たちは冒険者だけど、その頃の稼ぎだけじゃこの家での生活費も賄えないそうなのよ」
ニコラさんたちって、おケガを治したお金を払わないとダメだから僕のとこにいるでしょ。
でも一日で帰ってこれるくらい森の浅いとこじゃ、高く売れる素材が取れる魔物なんていないんだよね。
じゃあ奥の方へ行けばいいんじゃないかってお話になるんだけど、規則でそんなに長い間僕か僕んちから離れちゃダメってのもあるそうなんだ。
それに森の奥に行けば行くほど、住んでる魔物も強くなってくもん。
逆にやっつけられちゃったらもっとダメだから、どっちみち奥には行けないんだって。
「そこで考えたのですけれど、この子たちはルディーン君の使用人と言う立場でもあるでしょ。だからせめて、メイドのまねごとができる程度には仕事を覚えて貰おうかと思ったのです」
「へぇ、そうなんだ」
「ストールさんから話を聞いたら、ここで働いているメイド見習いたちのお給金の方が以前の私たちの収入よりかなりよかったのよ……」
ロルフさんちってお金持ちだから、ここにお勉強に来てるメイドさんたちもランクの低い冒険者さんたちよりいっぱいお金がもらえてるんだって。
だからストールさんはニコラさんたちにもメイドさんのお仕事を覚えて貰って、そのお手伝いをする代わりにお金をもらえるようにしようって考えたそうなんだよ。
「ただ、読み書き計算ができないのが少し問題でして」
ニコラさんたちが大人なのに文字が読めないって聞いて、僕はびっくりしたんだ。
「ニコラさんたち、冒険者ギルドに貼ってある依頼とか、読めなかったの?」
「えっと、ルディーン君は読めるの?」
不思議そうなお顔で聞いてくるニコラさん。
だから僕、ちゃんと読めるよって教えてあげたんだ。
「うん。僕ね、魔道具だってグランリルの図書館でご本を読んで作れるようになったんだよ」
そう話したら、ニコラさんたちだけじゃなくってストールさんもびっくりしたお顔になっちゃったんだよね。
「魔道具はかなりの知識が無いと作れないと聞いております。カールフェルトさんが専門の教師をつけて下さったわけではないのですか?」
「うん。だってうちの村で魔道具作れるの、僕だけだもん。教えてくれる人なんていないよ」
魔法だったら司祭様が神官のを使えるけど、魔道具を作ってる人はいないんだよね。
だから僕、ご本を読んで一生懸命お勉強したんだよって教えてあげたんだ。
「記号が描いてあるから、それを並べればいいだけだもん。簡単だったよ」
「普通はその記号一つ一つの意味を理解するだけでも大変なのですが」
「いやいや、それ以前にこんな小さいのにそんな難しい本が読めるなんて」
ストールさんとニコラさんは、魔道具が作れるのは普通じゃないって言うんだもん。
今度はそれを聞いた僕がびっくりしたんだ。
そうかなぁ? ご本を見ながらだったら誰でもできると思うんだけど。
僕がそんなことを考えてたらね、アマリアさんがこう言ったんだよ。
「魔道具って計算もできないと作れないって聞いたことがあるんだけど、もしかしてグランリルの子って読み書きや計算が全員出来るの?」
「ううん。お兄ちゃんやお姉ちゃんたち、計算はあんまりできないって言ってた。読むのはできるみたいだけど」
グランリルの村ってお金を使わないでしょ。
だから計算をする必要が無いんだよね。
そのせいなのか、お父さんもあんまり得意じゃないみたい。
「お母さんは両方できるみたいなんだけどなぁ」
「なるほど。ルディーン君はシーラさんに似たのですね」
ストールさんがそう言うとニコラさんたちはなんとなく納得したってお顔に。
「シーラさん、イーノックカウで育ったって言ってたからグランリルの人とはちょっと違うのかも?」
「それに弓だって解りやすく教えてくれるもの。そっか、ルディーン君はシーラさんの血を濃くひいてるのか」
それを聞きながら、お母さんもご本とかは読めないんだけどなぁって思ったんだよ。
でもそれを教えたら後でお母さんにコラーって怒られそうだから、僕はお口に手を当ててナイショにしたんだ。
「ところでルディーン君。わたくしに何か用事があったのではないですか?」
お話しが終わったところで、ストールさんがそう聞いてきたんだよね。
だから僕、お父さんに言われたことを思い出したんだ。
「そうだった! あのね、ニコラさんたちがどこにいるか、ストールさんに聞きに来たんだよ」
「えっ、私たち?」
自分のことを指さしながら、僕を見るニコラさんたち。
だからうん、そうだよってお返事したんだ。
「あのね、ゴブリンの村を見つけたから冒険者ギルドがやっつけに行くんだって」
「そう言えばゴブリンの集落を探していると言っていましたね」
「もしかして私たちも、その討伐に参加することになったんですか?」
「うん。ギルドマスターのお爺さんがそう言ってた」
僕がそう教えてあげるとね、ニコラさんたちはやる気満々のお顔に。
「前は草むらに隠れていたのを見逃して後れを取ったからね」
「今度は絶対負けないんだから!」
僕んちに来ることになったのは、ゴブリンにやられて足が取れちゃったからでしょ。
だからニコラさんたちは、いつか仕返ししたいと思ってたんだって。
そのチャンスが来たからって、みんなすっごく盛り上がってるんだよ。
「でね、お話しすることがあるから自分の使ってる剣を持って来てってお父さんが言ってたよ」
「剣、ですか?」
「ずっとこの館にいるから、手入れをちゃんとしているかとかを見るのかなぁ?」
油はちゃんと塗ってあるから大丈夫だとは思うけどって言いながら、ちょっと不安そうなアマリアさん。
「私、ちょっと見てくる」
「私も!」
そう言ってかけ出すと、ユリアナさんもその後を追って走ってっちゃたんだ。
「ストールさん。ご指導中に申し訳ありませんが、私も自分の武器を取りに戻ります」
でもニコラさんだけは違ったみたい。
ちゃんとストールさんに行ってきますって言ったんだよね。
「ええ。冒険者があなたたちの本来の姿なのですから、カールフェルトさんのお話をちゃんと聞いて指導していただくのですよ」
「はい」
ニコラさんはそう言ってペコっておじぎをすると、ユリアナさんたちとおんなじようにお部屋の方へ走ってっちゃったんだ。




