695 さっき僕に言ったのにお父さんも忘れてたんだって
僕とお母さんがお話ししてる間に、お父さんの考え事が終わったみたい。
「ルディーン、ゴブリンたちがいる詳しい場所は解るか?」
「大体なら解るけど、ここだよってのはもっと近くにいかないと解んない」
僕の探知魔法、丸型の方だったら簡単な地図みたいなのが出てきてここだよってのを教えてくれるんだよ。
でも前に飛ばす方は遠くにいるのも解る代わりに、丸型の範囲より遠くなっちゃうと大体の位置しか解んないんだ。
「そうか」
「数とか、どれくらい強いのがいるのかとかなら解るんだけどね」
僕が弱っちいのしかいなかったよって教えてあげると、またちょっと考えるお父さん。
「なら、俺一人で偵察に出るか」
強いのがいないならその方がいいってお父さんは思ったみたいなんだけど、これを聞いたお母さんはダメだよって言うんだ。
「囲まれたら、いくらハンスでも厄介でしょ」
「だが、大人数で動くと見つかる可能性がある。それを考えると俺一人の方がいいんじゃないか?」
お母さんと一緒に行った方が安全だけど、そしたら僕とキャリーナ姉ちゃんだけがここに残ることになるでしょ。
それはさすがに危ないから、お父さんはやっぱり一人で行くって言うんだ。
「あら、ルディーンとキャリーナを残していくつもりなんてないわよ」
でもお母さんがそう言ったもんだから、お父さんはびっくり。
「おいおい。いくらキャリーナやルディーンが強くなったと言っても、偵察に連れて行くのは危険すぎるだろう」
「ええ。視認できるほど近くまで行くというのなら反対するわよ。でもゴブリン集落の位置がはっきり特定できる所までなら、この子たちを連れて全員で行くべきよ」
お母さんは村にいる時、いつも危ないことはしちゃダメって僕たちに言ってるでしょ。
なのにそんなこと言ったもんだから、お父さんはどうしちゃったの? って聞いたんだ。
そしたらお母さんは、あきれたお顔でこう答えたんだよ。
「ハンス。自分で言っておいてもう忘れたの? ルディーンの魔法があれば、待ち伏せしているゴブリンも含めて周りの情報がすべてわかるのよ」
「あっ!」
お母さんの言う通り、丸型の探知魔法だったら何がどこにいるのか全部解っちゃうでしょ。
それになんかがいたら、それがいる場所の高さまで解っちゃうもん。
だから途中でゴブリンに襲われる心配は無いんだよね。
「確かに、ルディーンを連れて行った方が安全か」
「でも、近くに行ってからの偵察はハンス一人に頼むわよ」
見えるとこまで行くと、流石に僕とキャリーナ姉ちゃんじゃ見つかっちゃうかもしれないでしょ。
だからみんなである程度の近くまで行って、そこからはお父さん一人で見に行こうってお話になったんだ。
そこからは、ちょっと進んでは探知魔法を使うってやり方でゆっくり移動。
その途中で丸型の地図にもゴブリンの村が入るようになったんだけど、それでもまだ遠いってことでそれから更に進んで行って、
「ここならくぼみがあって周りからは見えないから、シーラとキャリーナたちはここで待っていてくれ」
安全に隠れられそうなところを見つけたところで、そこからはお父さん一人でゴブリンの村を見に行くことになったんだ。
「お父さん、大丈夫かなぁ?」
「見つかったりしないよね」
待ってる間、僕とキャリーナ姉ちゃんはとっても心配してたんだよ。
でもお母さんはニコニコしながら大丈夫よって。
「ハンスはいつも、気配に敏感な魔物に気付かれないように近づいて狩りをしているのよ。目で見ないと相手を見つけられないゴブリンに見つかるなんてヘマはしないわよ」
もし木の上に隠れて見張ってるゴブリンとかがいたら解んないけど、そんなのはいないって僕の探知魔法で解ってるでしょ。
だからお父さんが見つかることなんてあるはずないんだって。
それを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんがほっとしてたらね、お父さんが音もさせずに僕たちのいるくぼみに帰ってきたんだ。
「教えてもらった場所に行ったら大きめの洞穴があって、その周りに見張りのゴブリンたちがうろうろしていた。あそこが集落でまず間違いないな」
僕の探知魔法じゃ解んなかったけど、洞窟の入口には簡単な柵みたいなものまで作ってあったみたい。
そこまでして守ってるんだから、結構大きな集落かもしれないってお父さんは言うんだよ。
「それじゃあ、どうやってやっつけるの?」
僕のすっごい魔法だったら、外にいるゴブリンをいっぺんにやっつけられるもん。
だからお父さんがどうやってやっつけるのかを聞いてから、それを教えてあげようと思ってたんだよ。
でもね、
「いや、ゴブリンの集落を見つけるという依頼は達成したんだ。このまま帰るぞ」
お父さんがそう言ったもんだから、僕はすっごくびっくりしたんだ。
「なんで? ゴブリンは弱っちいし、洞窟の中にいるのも中に入っちゃえば探知魔法でどこにいるか全部解っちゃうんだよ。それにお外にいるのだって、僕のすっごい魔法でやっつけられるのに!」
「私だっていつも森で狩りをしてるから、お父さんたちと一緒に狩れるよ」
どこに隠れてるのか解んなかったら危ないかもしれないけど、どこにいるのかが解ってるならやっつけるのは簡単だもん。
それにキャリーナ姉ちゃんも、ここまで来てなんで帰るのか解んないみたい。
だからみんなでやっつけようよって言ったんだけど、お父さんはダメって言うんだ。
「俺たちは冒険者じゃない。狩人だ。狩人は、獲物の素材を利用したり肉を食べたりするために狩りをする。でも、ゴブリンはどうだ? 食べられるか? 素材を利用できるか?」
「できないと思う」
僕、ゴブリンは食べたことないけど、冒険者さんたちは狩っても持って帰ってこないってことはおいしくないんじゃないかな。
それにゴブリンを素材にして何かを作るって聞いたことないもん。
ならゴブリンは、僕たちがいっつも森で狩ってくる魔物たちとは違うんだと思う。
「ゴブリンは危険な亜人だから、森で出会った時は狩らなければいけない。でも、ここは集落だろ? ならばそれを壊滅させるのは狩人である俺たちではなく、依頼を受けてそれを達成することを生業としている冒険者がやるべきなんだ」
僕たち狩人と、冒険者さんたちは似ているようでぜんぜん違うんだって。
これは冒険者さんたちのお仕事だから、簡単そうに見えても冒険者さんがやらないとダメなんだよってお父さんは僕たちに教えてくれたんだ。
「じゃあ、僕たちのお仕事はこれで終わり?」
「ああ。もしかすると俺とシーラはギルマスからの依頼で道案内くらいはするかもしれないが、基本は終わりだな」
そっかぁ。僕、今度こそすっごい魔法が使えると思ったのに。
でも冒険者さんたちのお仕事なら取っちゃダメだよね。
だって僕たちと違って、それでお金をもらってご飯を食べてるんだもん。
「冒険者さんたちのお仕事を取っちゃダメだもんね」
「ああ、そうだ。だからこの場所を地図に記し終わったらイーノックカウに帰るぞ」
こうして僕たちは無事ゴブリンの村を見つけてねって言う依頼を達成して、ルルモアさんが待ってる冒険者ギルドに帰ることになったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ダメなお父さんと読者様からいつも思われているハンスお父さん。
前回と今回はそんなハンスお父さんも、森の中ではカッコいいんだよというコンセプトで書きました。
昼間のパパはちょっと違うっていうやつです。
実際、イーノックカウ周辺ではトップクラスの実力があり、ルディーン君よりレベルが高い数少ないキャラクターですからね。
いつもはダメダメでも、やる時はやるんです。いつもはダメダメでも。
大事なことなので二度言いましたw
さて、今週末と来週末なのですが、用事があるので書く時間が取れません。
なので申し訳ありませんが、28日と5月5日の更新はお休みさせて頂きます。
因みに来週金曜日、5月2日の更新はちゃんとするのでいつも通り楽しんでもらえたら幸いです。




