694 僕やキャリーナ姉ちゃんが気付かないことも、お父さんには解っちゃうんだよ
久しぶりに宣伝。
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」ですが、当初から出したいと思っていたちびっ子たちをやっと出すことができました。
あちらでも転生0同様、子供たちとのわちゃわちゃが始まるのでどうぞよろしくお願いします。
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宝石の形を変えて遊んだ次の日、僕たちはまた森に来たんだよ。
でもちょっと違ってるのは、目的がゴブリンの村を探すためだけじゃないってこと。
「エリィライスの自生している場所を探す。アマショウやブドウがなっている場所を調べる。湧水が出ている所があれば、そこで水を汲んでくる。やることが増えたなぁ」
お父さんの言う通り、やることがいっぱいになっちゃったんだよね。
でもそのおかげで、僕の探知魔法のある弱点が解ったんだ。
「ねぇルディーン。ブドウがなってる場所が解るんでしょ。だったらさ、私あの皮が薄くて甘いのがいい」
「ダメだよ。僕、ブドウがある場所は解るけど、それがどんなブドウかまでは解んないもん」
お姉ちゃんに探してって言われて、ちょっと困っちゃう僕。
だってそこに行って見ればそれが違うブドウだって解るけど、探知魔法を使った時はそこにブドウがあるよってことしか解んないもん。
だからあのおいしいブドウを探してって言われても、どこにそのブドウがなってるかまでは解んないんだ。
「そうなのかぁ」
おいしいのがどこにあるのかまでは解んないって聞いてしょんぼりするキャリーナ姉ちゃん。
でもね、そんなお姉ちゃんにお母さんは大丈夫よって。
「そうがっかりしないの。この森は一か所に色々なブドウがなっている傾向にあるから、いっぱいなっている所をルディーンに探してもらえばいいじゃない」
「そっか。昨日も同じところにいろんなのがあったもんね。ルディーン、ブドウがいっぱいなってるところを探してよ」
「うん、いいよ」
そんなお話をしながら、僕たちはブドウを食べたり、湧水の出てるところを探したりしながら森の奥の方へ歩いて行ったんだ。
「ブドウやアマショウの実はあるけど、エリィライスが生えてるとこはぜんぜん見つかんないね」
「そうね。こっちには沼地や流れの緩い川が無いから、もしかしたら生えていないのかもしれないわ」
でももう一個の探し物のエリィライスは全然見つからなくって、僕はちょっとしょんぼり。
だってごはん、おいしいもん。
いっぱい採って帰ろうと思ったんだけどなぁって思いながら歩いていたんだよ。
そしたらさ、
バッ!
お父さんがいきなり、後ろを歩いてる僕たちに向かって合図をしてきたんだ。
あれって確か、静かにしなさいって時に使うやつだよね?
それに気付いた僕とキャリーナ姉ちゃんは、お口に手を当ててその場でしゃがんだんだ。
何がいるんだろう? もしかして、前にいた幻獣みたいなやつ?
イーノックカウの魔物って、みんな弱っちいでしょ。
なのにお父さんがあんな合図をしてきたもんだから、僕は静かに周りを見渡したんだ。
でもなんにも見つかんないもんだから探知魔法を使おうとしたんだけど、
バシュッ!
そしたらお母さんがいつの間にか背負ってたおっきな弓を構えてて、遠くの草むらに向かって打ち込んだんだ。
草むらの中からどさっと倒れてくるゴブリン。
その近くにもゴブリンがいたみたいなんだけど、あっちはまだこっちに気が付いてなかったみたいで隠れてた草むらからお顔を出してギャッギャって騒ぎだしたんだ。
「わっ、ゴブリンがいっぱい」
それを見て慌てる僕とキャリーナ姉ちゃん。
そんな僕たちを置いてきぼりにして、すごい速さで突っ込むお父さん。
「あっ、僕も魔法でやっつけなきゃ」
慌てて体に魔力を循環させようとしたんだけど、その前にお父さんとお母さんがあっという間にみんなやっつけちゃったんだ。
「お父さんとお母さん、すごいや」
「ふふふっ、そう?」
「ゴブリンは隠れて不意を突くのは得意だけど、逆に不意を突かれたら脆い面があるからな。先に見つけてしまえば、あの程度の数ならそれほど苦労はしないよ」
僕とお姉ちゃんがすごいすごいって言ってる間に、お父さんたちはやっつけたゴブリンのチェック。
「全部で6匹か。何かを襲うでもなく隠れていたってことは、もしかして見張りか?」
「ということは、この近くに?」
「ああ。集落がある可能性が高いな」
これを聞いた僕とキャリーナ姉ちゃんはびっくり。
「ゴブリンの村が近くにあるの?」
「どうしよう、どうしたらいい?」
急にそんなこと言われても困っちゃう。
だってさっきまでブドウを食べたりして、ピクニックみたいだったんだもん。
でもね、そんな僕たちにお母さんは慌てなくてもいいよって。
「近くと言っても、すぐそばって訳じゃないわよ。だってここまでにゴブリンとは出会ってないでしょ」
「そうだぞ。こいつらはあくまで、自分たちの集落に近づくものが居ないかを見張っていただけだ。そんな奴らが集落のすぐそばにいるはずないだろう」
すぐそばだったら、敵を見つけても知らせに行く時間がないでしょ。
だからこのゴブリンたちは、村から離れたとこで周りを見張ってたんじゃないかなって言うんだ。
「ここで本来なら慎重に進みながら広範囲を探る必要があるんだが、こっちには切り札があるからな」
そう言って僕を見るお父さん。
僕はそれが何のことを言ってるのか解んなくってぽかんとしたんだけど、
「おいおい。ギルマスがなぜ俺たちの反対を押し切ってまでお前を連れて行けと言ったのか、もう忘れてしまったのか?」
「あっ、そっか。探知魔法で探すんだね」
探知魔法だったら遠くにいるゴブリンも見つけられるでしょ。
探し回るのと違って気付かれる心配ないから、安全にゴブリンの村を見つけることができるんだ。
「解ったようだな。それじゃあ、まずはあっちの方角を調べてもらえるか?」
そう言って指さすお父さん。
でもね、僕はそれを見てあれ? って思ったんだよ。
「お父さん。ゴブリンたちは僕たちが歩いてる先にいたでしょ。そっちの方を探すんじゃないの?」
お父さんが指さしたのって、僕たちが向かってた方とはかなり違ってたんだよね。
だから何で? って聞いてみたんだけど、そしたらゴブリンが見張ってた方向が今指さしている反対側だからだよって教えてくれたんだ。
「普通は守りたいものに背を向けて前方を見張るだろ。俺が見つけた時に偶然違う方向を見張っていた可能性があるから絶対とは言えないけど、あっちに集落がある可能性は高いと俺は考えているんだ」
「そっか。じゃあ、あっち側を調べてみるね」
僕はそう言うと、魔法の使い方を変えないとって強く意識したんだ。
なんてかって言うとね、それは探知魔法の範囲を変えるためなんだよ。
今まではエリィライスやブドウがあるところを探さないとと思ってたでしょ。
だから自分を中心にして丸くなるように範囲魔法を使ってたんだよね。
でも今は、方向を搾って使うことで遠くまで調べた方がいいもん。
その為に僕は使い始めた時みたいに、前の方に向かってだけ探知魔法を飛ばしたんだ。
「あっ! お父さん、遠くの方にゴブリンがいっぱいいるよ」
「いっぱい? 具体的にはどれくらいの数がいるんだ?」
「う~ん、僕の魔法って土の中とかにいると解んないことがあるんだ。だから洞穴とかがあったらもっといるかもしれないけど、今解ってるのは15匹くらい」
そのことを教えてあげると、お父さんはう~んって考え始めちゃったんだよ。
だから僕、お母さんに聞いてみたんだ。
「ゴブリンの村、見つかったのかなぁ?」
「どうかしら。でも、今までで一番多くのゴブリンが密集しているから、もしかしたらそうかもしれないわね」
そっか。じゃあ今度こそ、すっごい魔法でやっつけられるかも。
僕がすっごい魔法を使おうと思うと、なんでかいっつも逃げられちゃうんだもん。
だから今度こそいっぱいやっつけるんだって、お母さんのお話を聞いた僕は両手を胸の前でぎゅっと握りながらふんすと気合を入れたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君は実のところ探知魔法を少し勘違いしています。
と言うのも二つの探知魔法は全くの別物で、全方位型探知魔法はサブジョブにレンジャーが付いたことにより使えるようになったスキルです。
それに対して今回ゴブリン捜索に使ったのは初期にルディーン君が編み出した、前方に向かって魔力を飛ばしてその反射を感じることで使えるようになった特殊技能だったりするんですよね。
ですがジョブの探知スキルが使えることで初期の探知魔法の性能も劇的に上がり、また得られる情報や確認方法がスキルと統一されてしまっているので本人がそれに気付くことはありませんが。
因みに円形のスキル版は他に使える人がこの世界にいませんが、前方へ飛ばすタイプの探知魔法は魔力操作に長けた人ならば身につけることが可能だったりします。
ただ普通の人はスキル版を持っていないので、ここに何がいるとかどんな薬草が生えているとかはルディーン君と違って視覚的に見ることはできないんですけどね。




