693 治癒の魔力を込めても使えないの?
「太陽を思い浮かべておったじゃと。すると神とは何の関係もなく、光が原因だと言うことなのか?」
僕、ロルフさんにお日様のことを考えながらクリエイト魔法を使ったんだよって教えてあげたでしょ。
そしたらびっくりしたお顔の後、
「わしの予想は的外れじゃったか」
そう言ってしょんぼりしちゃったんだ。
でもね、そこでキャリーナ姉ちゃんがこんなこと言ったんだよ。
「ルディーン、大神殿の金色のお部屋ってみんなでお参りしたとこだよね。あのお部屋、お日様みたいにキラキラだったよね」
「うん。僕もそう思った」
お日様の光ってちょっと黄色いでしょ。
黄色い宝石の影を見てお日様を思い出したけど、金ぴかのお部屋の光もおんなじだもん。
だからキャリーナ姉ちゃんと二人で、どっちもキラキラだよねって笑ってたんだ。
「なるほど、金の輝きと太陽の光は同じか」
そしたらロルフさんはまた考えこんじゃったんだよ。
「伯爵、どうかなさいましたか?」
「うむ。もし神の光と太陽の光を同じものと捉えていたとしたら、それをどうやって確かめたらよいかと考えておったのじゃ」
バーリマンさんに聞かれてそう答えたロルフさんは、まったく思いつかないって首を振ったんだよ。
そしたらね、またキャリーナ姉ちゃんが言ったんだ。
「神様の光なの? じゃあさ、神様みたいになれーってルディーンが魔法を使ったらもっと強くなるのかなぁ?」
「いや、治癒の魔力は神の恩恵と言われておるが、神そのものが発すると言われる光とは別物なのじゃよ」
治癒の魔力って神様から貰うもんじゃなくって、自分のでしょ。
だから神様みたいになれって思っても、普通は治癒の魔力はこもらないんだって。
「じゃあ、なんで神様の光のお話をしてたの?」
「それはな、治癒の魔法は主に神官が使うものだからじゃよ」
僕は賢者だけど、おケガを治す魔法って神官さんや司祭様が使うものでしょ。
だから大神殿のキラキラなお部屋の光に似てる黄色い宝石を見て、神様の光を思い出したんじゃないかなぁってロルフさんは思ったんだって。
「神の力を籠めようと思ったのではなく、信仰を心に抱いた状態で魔法を使ったのではないかと考えたのじゃ」
それを聞いたキャリーナ姉ちゃんはこう言ったんだよ。
「だったらさ、神様のお顔を見ながら魔法をかけたらもっと強くなるのかなぁ?」
「ほう。なぜそう思ったのじゃ?」
「だって、大神殿のお庭にあったおっきな神様の像を見てすごいなぁって思ったもん。あのお顔を見ながらだったら、キラキラを見るよりもっと神様だぁって思うんじゃないかな」
神様の光を思い出すより、そのお顔を見た方がきっとすごいよって言うキャリーナ姉ちゃん。
それを聞いたロルフさんは、言われてみればそうじゃなって。
「しかし、流石に大神殿の像の前で、ルディーン君にクリエイト魔法を使ってもらう訳にもいかぬからのぉ」
「人目が多すぎますものね」
宝石の形をクリエイト魔法で変えられるのはナイショにしないとダメでしょ。
だから試してみたいけどさすがにそれは無理だよねってお話になりそうだったんだよ。
でもね、そこで思い出したんだ。
「そうだ! 金貨にビシュナ様のお顔が描いてある!」
金貨はね、ビシュナ様がそうしなさいって言ったからどこの国のもおんなじ大きさでビシュナ様のお顔が書いてあるんだよ。
だから大神殿の像の前に行かなくっても、それを見ながらやればいいんじゃないかな?
「おお、そう言えばそうじゃったな」
ロルフさんはそう言うと、ルルモアさんに言ったんだよ。
「冒険者ギルドなら、金貨の一枚くらいはあるじゃろう。持って来てはもらえぬか?」
「解りました」
そう言ってお部屋を出て行くルルモアさん。
でね、ちょっとしたら革の袋を持って帰ってきたんだ。
「なるべく状態の良い物がいいだろうと思い、金貨を保管している袋ごと持ってきました」
「うむ。それではより状態の良い物を探すとするかな」
ロルフさんはそう言うと、ルルモアさんとバーリマンさんに手伝ってもらって金貨を一枚ずつ見始めたんだよ。
でね、いっぱいあった金貨の中からビシュナ様のお顔が一番きれいな一枚を選んだんだ。
「それではルディーン君。金貨を見ながら、この宝石にクリエイト魔法を使ってもらえるかな」
そう言って金貨と一緒に渡してきたのは色のついてない透明な原石。
だから黄色じゃなくていいの? って聞いたら、これはビシュナ様のお顔を見ながら魔法を使うという実験だからだよって。
「ただでさえ金貨を使っておるのじゃ。宝石まで黄色かったら、やはりどれが原因かが解らぬではないか」
「それに金貨もあまり光らない方がいいから、なるべく窓から離れてやった方がいいでしょうね」
「うん、解った」
バーリマンさんの言う通り僕はお部屋の隅っこの方へ行って、あんまりキラキラしないようにしながらビシュナ様のお顔をじっと見たんだよ。
でね、そのお顔を思い浮かべながら透明な宝石にクリエイト魔法をかけたんだ。
「わっ! ロルフさん、ほんとに光が強くなったよ」
できあがったサイコロ型の透明な宝石には、さっきのよりももっと強い光が入ってたんだ。
それを見せてあげると、ロルフさんは凄いねって。
「やはり神とルディーン君の魔法とは因果関係があったと、これで証明されたな」
そう言ってうんうん頷いてるロルフさん。
僕も、ちゃんと解って良かったねって思ってたんだけど、
「あのぉ」
そこでルルモアさんが申し訳なさそうに聞いてきたんだ。
「さっきから思ってはいたのですが、あまりに皆さまが真剣そうだったので言いだせなかったのですが」
「ん、なんじゃ?」
「はい。治癒の魔力が宝石に込められるのは解りました。ですがその魔力、使い道がないのでは?」
ルルモアさんはね、宝石の中に魔力が入ってても意味がないんじゃないかなって言うんだよ。
「魔石と違って、宝石は魔法陣を刻むことでしか内包する魔力を使うことができませんよね。でも武器や防具の強化に使うのとは違い、治癒魔法は飛ばす方向を調節できないから魔道具が作れないと聞いたことがあるのですが」
「そっか。キュアとかって、おケガをした場所にかける魔法だもんね」
僕もおケガを治す時は、その傷に向かって治れーってかけるもん。
魔法が変な方に飛んでっちゃうなら、そんな魔道具は使えないよね。
だからルルモアさんは、治癒の魔法がいっぱい入ってもしょうがないんじゃないかって言うんだよ。
「うむ。治癒魔法に使うことはできぬじゃろうな」
「それでは、いくら強い魔力を内包したとしてもあまり意味がないのでは?」
「それがな、そうでもないのじゃよ」
ロルフさんはね、治癒の魔力はおケガを治す魔法にしか使わない訳じゃないんだよって教えてくれたんだ。
「ヒーリングと言う魔法があってな。これは効果範囲にいる者の疲れを取る魔法なのじゃが、ただそれだけのために神官の魔力を使わせるのは忍びないということであまり使われることは無いのじゃ」
このヒーリングって魔法、わざわざ神官さんを呼ばないとダメだから貴族様やお金持ちが開くおっきなパーティーの時くらいしか使わないんだって。
だから知ってる人はあんまりいないんだけど、ロルフさんやバーリマンさんはそういうとこに行くことがよくあるから神官さんにかけてもらったことがあるそうなんだ。
「劇的な効果はないのじゃが、日ごろの疲れがとれるからパーティーではなかなかの人気なのじゃぞ」
「ただこの魔法、魔道具にするのは難しいの。なにせ治癒の魔石など、この世に存在しませんから」
魔石の属性を変えるのだって、治癒魔法が使える人じゃないとダメだもん。
でも神官さんに頼もうと思っても、属性変換なんてやったことない人ばっかりだからできないんだって。
「それにな、宝石に魔法を込めるのは主に魔法使いの役目じゃから、治癒の魔力を込められる者はかなり珍しい。たとえ込められる者を見つけられたとしても、使えるのはただ体の疲れを取るだけの魔法じゃ。費用対効果を考えたら普通はやってみようとすら考えぬ。しかしこの宝石があれば話は別じゃ」
「さすがに広めることはできませんけど、私と伯爵が懇意にしていることは広く知られていますもの。私たちが治癒の魔力を込められる神殿関係者と懇意になって作ってもらったと言えば、その出所を疑うものはおりませんわ」
ただロルフさんたちはヒーリングの魔法は使えないから、魔法陣を刻むのは僕がやらないとダメなんだって。
「さすがにこれだけの多くの宝石を加工してもらったし、その上魔法陣まで刻んでもらうのだから当然報酬はお支払いするわよ」
「え~。いいよ、そんなの」
「ダメよ。それにもらってもらわないと、この四角い宝石をきれいな形にして欲しいと頼みにくくなってしまうもの」
そう言ってサイコロ型の宝石を見せて来るバーリマンさん。
「わしもルディーン君がヒーリングの魔法陣を刻んだ宝石をギルマスから買い取るのじゃ。なのにルディーン君が報酬を受け取らないとなると、ちと困ったことになる。もらっておきなさい」
それにロルフさんまでこんなこと言いだしたもんだから、僕はバーリマンさんからお金をもらうことになっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
またルディーン君の預金額が大きく増えることに。
まぁ、これは一度限りの収入なので騒ぐほどのことではありませんが。
あとヒーリングの呪文ですが、ロルフさんたちはジョブが神官系ではないので使えませんが比較的低レベルでも使える魔法です。
ただ効果は唱える人の治癒魔力依存なのでレベルが大司教よりも高く、その上治癒魔力上昇のパッシブスキルを持っているルディーン君が刻んだ魔法ですから当然貴族のパーティーで行われるものよりはるかに効果が高く、二・三日寝ていないヘロヘロ状態であってもすぐに回復するレベル。
それを後で知ったロルフさんたちが、これは絶対に外に出せないと驚くのはまた別のお話ですw
さて、長かった寄り道もこれで終わり。次回からはやっとゴブリン集落の探索完結編に入ります。
一応オチは決まっているけど、流石に寄り道が長すぎたから確認のために過去の話を読み直さないといけないなぁ。




