690 クラウンコッコの魔石みたいな形も作ってみよう!
みんなできれいだねって言いながら宝石の影を見てたら、キャリーナ姉ちゃんが急にこんなこと言いだしたんだ、
「ねぇ、ルディーン。マッドリザードって魔物の魔石みたいに作ったのがきれいなんだから、クラウンコッコの魔石だったらもっときれいなんじゃないかな?」
マッドリザードの魔石って小さな三角がいっぱい並んでできてるでしょ。
だから反射するとこが多くてきれいなんだけど、クラウンコッコの魔石は平らなとこだけじゃなくへこんだとこまであるもん。
キャリーナ姉ちゃんはその方がきっときれいだから、クラウンコッコみたいなのも作ってよって言うんだよね。
でも僕、クラウンコッコの魔石みたいなのを作れる自信が無いんだ。
「クラウンコッコは違う形がいっぱいくっついてできてるもん。それを見ないで作るなんて僕、できないよ」
「そっかぁ」
キャリーナ姉ちゃんは僕のお話を聞いてちょっとしょんぼり。
でもね、すぐにばってお顔をあげてバーリマンさんを見たんだ。
「そうだ! 三角ばっかりの形をかけたんだから、バーリマンさんならクラウンコッコの魔石の絵もかけちゃうんじゃないかな?」
「そっか。バーリマンさん、絵が上手だもんね」
僕とキャリーナ姉ちゃんは、二人でバーリマンさんにクラウンコッコの魔石みたいな絵を描けない? って聞いてみたんだ。
そしたらちょっと考えて、一度描いてみようかしらって言ってくれたんだよ。
「私もなるべくきれいなカットをしてもらいたいし、挑戦してみるのもいいかも?」
「やったぁ」
描いてくれるって言ったから、僕はクラウンコッコの魔石をはいって渡したんだよ。
そしたらバーリマンさんは、それをいろんな方向から見ながら石筆板にちょこちょこって描いては消し、またちょこちょこって描いては消したりしたんだ。
でね、それを何回か繰り返した後、僕に書いたものを見せてくれたんだよ。
「さすがに頭の中だけで形を考えるのは無理だから、カット全体の一部分を大きく描いてみたの。だからこれをさっきみたいに、鉄の玉で作ってくれないかな?」
「うん。いいよ」
「ありがとう。この斜線を入れてある面はへこんでいる所だから、気を付けてね」
バーリマンさんに言われて石筆板を見てみると、何個かへこんでる面があったんだよね。
だから僕、間違えないようにしなきゃって思いながらその絵をじっと見たんだよ。
「うまくできるかどうか解んないけど、一度作ってみるね」
さっきの三角を集めたやつだって、最初は変になったけどそれをバーリマンさんがきれいな絵にしてくれたからちゃんとしたのになったでしょ。
だからもしかするとまた失敗しちゃうかもしれないけど、とりあえず作ってみることにしたんだ。
「えっと、ここがへこんでるからこうなって……」
僕は頭の中でいろいろ考えながら、でもきっとこんな形のはず! って思いながらクリエイト魔法を発動。
「まぁ! きれいな形になったじゃない」
そしたら思ったよりもうまくできたみたいで、バーリマンさんに褒められちゃった。
「やはり、たとえ一部でも現物が目の前にあると全体像が想像しやすいわね」
「そうなの?」
「ええ。クラウンコッコの魔石と違って、こっちはある程度の大きさがあるでしょ。それをいろいろな角度から見ることで、実際にどんな形にすればいいのかが想像しやすくなるのよ」
バーリマンさんはさっきクラウンコッコの魔石でやったのとおんなじように、僕が作った見本を見ながら石筆板に何度も絵を描いたり消したりしはじめたんだよ。
そうこうしてるうちに、気に入ったのができたみたい。
「さっきと同じように上からと横から、二つの絵を描いてみたんだけど」
そう言って僕に石筆板を、はいって渡したんだ。
「これを作ってみればいいんだね」
「ええ、お願いね」
バーリマンさんにお願いされた僕はがんばらなきゃってふんすと力を入れると、さっきお手本の一部に使った鋼の玉を持って石筆板の絵をじっと見たんだ。
「ここがこうなってるから、きっとこんな形だよね」
でね、こういう形のはずってのが頭に浮かんだからクリエイト魔法を発動!
そしたら四角や三角の面だけじゃなく、二個の細長い三角が並んだようなへこみがいろんな方向からてっぺんに向かってできてる丸っこいレンズ型の見本ができあがったんだ。
「これでいい?」
「ええ。私が想像した通りの形だわ」
それを見せてあげるとバーリマンさんは大喜び。
見本を見ながらさっき選んだ3つの原石のうち、残ってる二個を見比べ始めたんだよ。
「この形から想像するに中の光が複雑に反射するだろうから、使う原石はあまり濃い色じゃない方がいいわよね」
そんなこと言いながら原石と鋼の見本を見比べてたんだけど、何とか決めることができたみたい。
「きっと、こっちの方がいいものができると思うわ」
バーリマンさんは薄い黄色の原石を持って、僕の方を見たんだよ。
「ルディーン君。これでお願いできるかな?」
「うん、いいよ」
最初はうまくできなかったけど、何度かやってるうちに慣れてきたのかな?
見本を見ながら黄色い宝石の原石にクリエイト魔法をかけると、なんとなくだけど今までよりもスムーズに形を変えられた気がする。
そう思ってできあがった宝石を見たんだけど、そしたらちょっとだけどなんか変な感じがしたんだ。
だからもう一度よく見てみたんだけど、やっぱり宝石が少し変わっちゃった気がする。
「あれ? 何か思ってたのと違うのができちゃった」
「えっ、どうかしたの?」
僕が変なこと言ったもんだから、バーリマンさんは失敗したのかって思ったみたい。
慌てて僕の手の中の宝石を見たんだけど、そしたらなんか変なお顔になっちゃったんだよ。
「えっと、私にはちゃんと見本通りにできているように思えるんだけど……」
うん。バーリマンさんの言う通り、形はちゃんと見本通りにできたんだよ。
違うのは別のとこなんだ。
「バーリマンさん、ちゃんと見て。形はお手本の通りだけど、宝石がちょっと変わっちゃったんだ」
「宝石が?」
そう言われて、僕の手からひょいって黄色い宝石を持ってくバーリマンさん。
「一体何が……っ!? 伯爵、ちょっと来てください」
「ん? なんじゃ」
それを目の近くまで持ってってじっと見たバーリマンさんはちょっと大慌てでロルフさんを呼んだんだよ。
「これを見てください」
「ふむ。これはまた、かなり変わったカットの宝石を作ったのじゃな」
宝石を渡されたロルフさんは、これがどうかしたの? って聞いたんだよ。
そしたらバーリマンさんは、よく見てくださいって。
「光にかざす必要はありません。そのまま、宝石の中心を覗き込んでもらえばすぐに解ります」
「こうか? ……なんとっ!」
言われた通りにすると、今度はロルフさんまでびっくりしたお顔になっちゃったんだもん。
だから僕、もしかしたらすっごい失敗しちゃったんじゃないかってだんだん心配になってきたんだ。
「ぐすっ。ロルフさん、バーリマンさん。もしかして僕、宝石をダメにしちゃった?」
宝石ってすっごく高いんだよって、前にお母さんが言ってたもん。
そんなのをダメにしちゃったんじゃないかって思った僕は、涙が出そうになっちゃったんだ。
でもね、それを見たバーリマンさんが大慌てでそうじゃないのよって。
「さっきも言った通り、クリエイト魔法は完璧な形で発動しているから泣かなくてもいいのよ」
「うむ。ルディーン君の魔法が素晴らしすぎて、思わぬ効果までついてしまっておるようなのじゃよ」
それを聞いても、僕は何があったのか解んなかったんだ。
だから聞いてみたんだけど、そしたらバーリマンさんがびっくりしないでねって言いながら教えてくれたんだよ。
「この宝石だけど、どうやら治癒の魔法効果が付与されたみたいなのよ」




