688 僕、ナイショにしてることなんかないのに
「何やら楽しげな雰囲気ね」
僕たちが楽しくお菓子のお話をしてたらね、魔石のお話をするって言って離れてたロルフさんとバーリマンさんがこっちに来たんだ.。
「もう難しいお話しは終わったの?」
「うむ、大体のことは決まったから、あとは事務方に、それを仕事にしておる者に任せることにしたのじゃよ」
へぇ、魔石を宝石の代わりにアクセサリーにするお仕事をしてる人がいるんだ。
僕がそんなことを考えてたら、バーリマンさんがニコニコしながら聞いてきたんだよ。
「ルディーン君たちは何のお話をしていたのかな?」
「あのね、宝石の形をクラウンコッコの魔石みたいにしたらどうかなぁってお母さんが言ったんだ。でも魔石はデコボコしてるでしょ。だから僕、よく解んないって言ったんだよ。そしたらこのせきひつばんってのを出してくれて……あれ? なんでお菓子の話になったんだっけ?」
僕たちは最初、宝石の形をどうしようかなぁってお話をしてたよね。
なのにさっきまでプリンやアイスクリームのお話をしてたもん。
何でそんなことになったのか解んなかった僕は、頭をこてんって倒したんだ。
そしたらさ、キャリーナ姉ちゃんがなに言ってるのよって笑ったんだよね。
「お母さんもグランリルの村でお店をやってるよねってお話になったから、私がプリンとアイスが好きって言ったんじゃない」
「そっか! それでルルモアさんがそれなに? って聞いたんだっけ」
なんでお菓子のお話をしてたのかを思い出せて、僕はスッキリ。
でもロルフさんとバーリマンさんはよく解んなかったみたいで、お母さんに何があったの? って聞いたんだ。
「石筆板から、なぜ店をやっているという話になったのかのぉ?」
「ああ、これは文字などを書いたり消したりするのが簡単にできる板なのよとルディーンに教えたんですよ。すると、そんなものをどこで使うの? と言う話になりまして」
お母さんはこの石筆板がご飯屋さんのメニューを書くのに使われているという話から、キャリーナ姉ちゃんが村の家でお菓子のお店をやっているんだよって言いだしたこと。
そこで出してるお菓子の中でお姉ちゃんがプリンとアイスクリームが一番好きと言いだして、そこからそれがどんなお菓子なのかってお話になったんだよって教えてあげたんだ。
「ほう、あいすくりーむか。あれはとても美味なる菓子であったな」
ルルモアさんはロルフさんがアイスクリームのことを知ってたって聞いて、ちょっとびっくりしたお顔になったんだよ。
「ロルフ様も、そのあいすなるお菓子のことをご存じだったのですか?」
「うむ。前にルディーン君が作ってくれたからのぉ」
「さっきかき混ぜながら凍らせる棒のお話をしてたでしょ。あれをロルフさんに見せた時に作ってあげたんだ」
僕がそう言うとルルモアさんは、ああ、なるほどって。
「そういう経緯で、かき混ぜたものを凍らせる棒の魔道具の特許を取るという話になったのですね」
「うむ。ルディーン君はあれをお菓子作りの道具と考えておるが、他にもいろいろと使い道がありそうじゃからのぉ」
別にかき混ぜなくっても、その魔道具を突っ込んどくだけで入れたものはつべたくなってくでしょ。
冷蔵庫や冷凍庫が無くてもあんな小さいものひとつで物が冷やせるって言うのは、実はとてもすごいことなんだってさ。
「温度を変えるというのは料理や錬金術だけじゃなく、いろいろな用途に使えるからのぉ。それにこの魔道具の優れておるところはそれだけではない。使う魔石を氷から炎に変えるだけで、温める魔道具に早変わりじゃからな。この子は本当にさらっと凄いことを考えおる」
「ルディーン君は我々が想像すらできないものを創り出しておきながら、それを誰にも話さずにいることが度々ありますからね。私も伯爵も、まだいくつか聞いていない魔道具があるのではないかといつも話しているのですよ」
「僕、ナイショにしてることなんてないよ!」
ちゃんとみんな教えてるのにって僕がぷんぷんしていると、ロルフさんは笑いながらそうじゃなって。
「うむ。秘密にしておるわけではない。ただ、それが我々にとって有用であるということに気が付いておらぬだけじゃな」
ロルフさんはね、セリアナの実の油が僕たちのお熱でも溶けるってことを最初に教えてくれなかったでしょって言うんだ。
「あれはとても重要な情報であったが、君はそれに気が付いておらなかったであろう? それと同じじゃよ」
「ルディーン君が普通だと思っていることが、実は大発見だということがあるというのは解ります。魔力が座って目をつむるだけで回復するなんて、聞かされるまでは誰一人想像すらしていませんでしたもの」
ロルフさんのお話に、そうだそうだって賛成するルルモアさん。
僕はその二人を見ながら、そうかなぁって頭をこてんって倒したんだ。




