687 他の人は生クリームって言わないんだっけ
僕たち、ホットプレートが何で売ってないのかが解ってよかったよかったってなってたでしょ。
だからなんか全部終わったね、みたいな気持ちでいたんだけど、
「ねぇ、アイスのお話しはもういいの?」
「そうよ。大事なことを聞くのを忘れていたわ」
キャリーナ姉ちゃんの一言で、そう言えばまだアイスクリームのことを聞いてないってルルモアさんが思い出したんだ。
「あいすと言うのはどんなお菓子なの? これも卵を使ったお菓子なの?」
「う~ん、卵も使うけど、どっちかって言うと牛のお乳の上に浮いてるところを使うお菓子かなぁ」
僕のお話を聞いて、ルルモアさんはあることに気が付いたんだ。
「それってバターの原料よね。あいすっていうのはバターを使ったお菓子なの?」
「違うよ。生クリームと牛のお乳、それに卵とお砂糖を使ったお菓子なんだ」
「なまくりーむ?」
アイスクリームの材料を聞いたルルモアさんは、
「その名前、どこかで見たか聞いたかした覚えがある気がする……」
あれ? ってお顔をしながら、ちっちゃな声でそんなこと言ったんだよ。
だから僕、お菓子屋さんで聞いたんじゃないの? って聞いたんだ。
「お菓子屋さんって、アマンダさんのお店のことよね。でもあそこであいすとかなまくりーむっていうお菓子、売ってないわよ」
「うん。お店じゃ出せないって言ってた」
それを聞いたルルモアさんはびっくり。
「待って。それじゃあアマンダさん、もしかしてなまくりーむとあいすの作り方を知ってるの!?」
「知ってるよ。だって、前に教えてあげたもん」
「とっきょってのを取っとくって言ってたよね」
「うん。その時にプリンの作り方も教えてあげて、みんなで食べたんだよね」
僕とキャリーナ姉ちゃんが二人で、ねーってやってたら、
「ああ、そうか。特許だ」
ルルモアさんが左の手のひらに右のげんこつをポンって振り下ろしてそう言ったんだよ。
「特許?」
「ええ。前に商業ギルドの人と話をしていた時に、ルディーン君の名前で新しい特許の申請があったと聞かされたことがあるのよ。たしかその時に見た関係書類に書いてあったんだと思う」
ルルモアさんは新しい魔道具の申請と一緒に、それで作るお菓子のレシピも載ってたからめずらしいなぁって思ったんだって。
「その時、原料の中に聞いたことのない食材が入っているなぁって思ったのをおぼえてるのよ。その時に見たなまくりーむって言葉が、なんとなく印象に残っていたんじゃないかな」
「そっか。そう言えば生クリームって僕がそう呼んでるだけで、売ってるお店の人は牛のお乳に浮いてるのをすくった物って言ってたっけ」
アマンダさん、他のお店で先に売られると困るって言ってたもん。
だから特許に書くお菓子の原料を、お店の人が言ってるやつじゃなくってわざわざ生クリームって書いたんだろうなぁ。
「思い出してスッキリしたところで話を戻すけど、そのお菓子は魔道具を使って作るのよね? それはどんなものなの?」
「あのね、筒の中に入れた材料を羽根の付いた棒でかき混ぜながら、氷の魔石で凍らせて作るんだよ」
僕はそう言うと、アイスクリームを作る魔道具がどんなものなのかを教えてあげたんだよ。
そしたらそれを聞いたルルモアさんは、ちょっと不思議なお顔になったんだ。
「えっとそれって前にロルフ様がルディーン君の名前で特許申請した、入っているものを凍らせるかき混ぜ棒とは違うものなの?」
「あっ、そう言えばロルフさんが特許取るって言ってたっけ。これはかき混ぜる棒の方じゃなくって、材料を入れる筒の方がつべたくなるんだよ。だってそうじゃないと、せっかく作ったアイスが食べきる前に溶けちゃうもん」
「ルディーン。羽根が付いているのにも意味があるってことを教えないとダメじゃないの」
「羽根の意味ですか?」
お母さんのお話を聞いて、ルルモアさんはそう言えばそこが普通のかき混ぜ棒との最大の違いですねって。
「ただ、棒に羽根をつけるって言われてもピンとこないんですけど」
「たしかに、羽根が付いているとだけ言われてもどんなものか想像できないわね。ルディーン、見本って作れる」
「うん。簡単だよ」
お母さんに言われた僕は、宝石の形を作る見本に使った鋼の玉にクリエイト魔法を発動。
アイスクリームを作る魔道具の、羽根の付いた棒を作ってルルモアさんに見せてあげたんだ。
「はい。これをくるくるしながら中のものを冷やすと空気が入りながら凍るから、できたアイスがおいしくなるんだねってアマンダさんが言ってたよ」
「えっ? あいすってアマンダさんが考えたお菓子なの? ……ってそんな訳ないか。魔道具を使わないと作れないんだから」
「ええ。ルディーンが作り方を教えると、アマンダさんが少し考えておいしくなるのはそれが理由だろうと言っていました」
それを聞いて、なるほどって感心するルルモアさん。
「さすがね。製法を聞いて覚えるだけじゃなく、味が良くなる理由まで考えて作るからイーノックカウで一番の菓子職人と言われているんでしょうね」
うんうんうなずきながらそう言ってたんだけど、そのうちちょっとしょんぼりし始めちゃったんだ。
「どうしたの? ルルモアさん」
「いや、アマンダさんが味の理由を考えるほどおいしいお菓子なんでしょ。でも魔道具が無いから作ってみることもできないもの。それが残念で」
プリンは作り方を聞いたから、ルルモアさんでも何とか作れるんじゃないかって思ってるんだって。
でもアイスクリームはかき混ぜながら凍らせる魔道具がないと絶対作れないもん。
それがすっごく残念なんだよって教えてくれたんだ。
だから僕、かわいそうだからルルモアさんにもアイスクリームを作る魔道具を作ってあげようかなぁって思ったんだよ。
でもね、そこで思い出したんだ。
「魔道具は人にあげちゃダメなんだっけ」
魔道具は高いから、誰かにあげると他の人がずるいって思うんだって。
だからお父さんが、簡単にあげるって言っちゃダメだよって前に言ってたんだ。
それを思い出した僕はルルモアさんと一緒になってしょんぼりしてたんだけど、
「あら、完全なものじゃなければいいのなら、食べることはできると思いますよ」
お母さんがそう言ったもんだから、僕とルルモアさんはびっくりしたんだ。
それを見て、何で僕まで驚いてるの? って笑うお母さん。
「あら、ルディーンは忘れてしまったのかしら? アマンダさんが冷凍庫だけで作るアイスを思いついたじゃない」
「あっ、そうだった!」
そう言えばちょっとシャリシャリするけど、ちゃんとアイスクリームの味がするものを凍らせるだけで作っちゃったんだっけ。
「その製法は他に知られると先に売り出されるかもしれないから人に話してはダメと言われているけど、アマンダさんに頼めば作ったものを食べさせてもらえるんじゃないかしら?」
「そうなんですね。今度頼んでみます」
ルルモアさんはアマンダさんと仲良しだもん。
頼めばきっと作ってくれるよって言いながら、さっきまでしょんぼりしてたのがウソなくらいニコニコ笑顔になっちゃったんだ。




