683 普通の人は魔石をアクセサリーにしようなんて思わないんだって
度々急な休載を挟んですみません。
その際は毎回活動報告に理由を書いているので、気になる方はそちらをご覧ください。
ルルモアさんが、クラウンコッコの魔石を見たことが無いって言ったでしょ。
だから僕、聞いてみたんだ。
「じゃあ、見てみる?」
「えっ、今持っているの?」
僕が見せてあげよっかっていったら、今持ってることにびっくりしたみたい。
でも、そんなにびっくりすることかなぁ?
「クラウンコッコって、ブラックボアとおんなじくらいの魔物だよね。なら持ってても変じゃないんじゃないの?」
「いや、ブラックボアの魔石を持ち歩くものなど、ほとんどおらぬぞ」
僕はルルモアさんに聞いたんだけど、何でかお返事はロルフさんから帰ってきたんだよね。
だからロルフさんにそうなの? って聞いたんだけど、そしたらそうだよって大きく頷いたんだ。
「うむ。魔石はそれ自体がとても価値のあるものじゃからのぉ。特にブラックボアクラスの魔石となると、このイーノックカウではかなり奥地まで足を運ばねば手に入れることはできぬ」
「そうよ、ルディーン君。だから普通は持ち歩かず、すぐに冒険者ギルドに売ってしまうの」
そっか。グランリルの村と違って、イーノックカウの近くには弱っちい魔物しかいないもん。
だからおっきい魔石はあんまり獲れないから、すぐに売っちゃうんだね。
僕がそう思いながらうんうんうなずいてたらね、ルルモアさんがお母さんに聞いたんだ。
「でも、なぜルディーン君はクラウンコッコの魔石を持っているのですか? グランリルの村でも、狩ることはあまりない魔物ですよね?」
「実は少し前に森の入口辺りに異常発生する事件がありまして。レーアが言うには、この子ったらクラウンコッコを魔法で乱獲したみたいなの」
クラウンコッコはお空を飛べないおっきい鳥の魔物なのに、森の中だと木の枝の間をすっごい速さで飛び回って攻撃してくるんだって。
だからお父さんやお母さんでも狩るのは大変らしいんだけど、僕は魔法でやっつけるでしょ。
気付かれないところから頭を撃てばいいだけだから、僕には簡単に狩れたみたいですよってお母さんが教えてあげたんだ。
「なるほど。ブレードスワローの時と同じようなやり方で狩ったのですか。そう言われると確かに、ルディーン君とはとても相性のいい魔物なんですね」
「ええ。私たちとは逆で、ブラックボアの方がこの子にとってははるかに大変な相手だと思いますよ」
そう言えば僕、ブラックボアは一人で狩ったことなかったっけ。
遠くから魔法を撃てばやっつけられそうだけど、ブラウンボアの時は頭に2発当ててもやっつけられなかったもん。
もし1発目でやっつけられなかったら、やられちゃうかも。
そう思った僕はお母さんたちに教えてあげたんだ。
「あのね、ブラックボアは頭が固いから危ないかもしれないでしょ。だから最初は一人でじゃなくって、お兄ちゃんたちと一緒に狩るんだ」
「そうね。私の弓もハンスが前に出てくれるから安心して撃つことができるもの。ルディーンにはディックやテオドルがいるんだから、一人で無理をする必要はないのよ」
そう言って僕の頭をなでてくれるお母さん。
そんなお母さんに僕は、今度お兄ちゃんたちに頼んでみるねっておっきな声でお返事したんだ。
「ところで、クラウンコッコの魔石を見せてもらえるという話はどうなったのかな?」
僕たちのお話しが終わったと思ったのか、バーリマンさんが聞いてきたんだよ。
でも、あれ? バーリマンさんって錬金術のギルドマスターさんだよね。
なのにクラウンコッコの魔石を見たことないの?
そう思った僕は、聞いてみることにしたんだ。
「バーリマンさんも見たことなかったの?」
「いえ、私はあるわよ。でも、宝石のようなものという視点では見たことが無いの」
そう言えばお母さんやお姉ちゃんたちも、僕がアクセサリーにしてあげたらすっごくきれいねってびっくりしてたっけ。
バーリマンさんもそんな風に見たことが無かったから、今持ってるなら見せて欲しいって思ったんだって。
「そっか。じゃあ、出すね」
僕はそう言うと腰のポーチから魔石の入ってる袋を出して、その中からクラウンコッコの魔石を取り出したんだよ。
「ほら、これだよ」
「ちょっと見せてもらうわね」
バーリマンさんはクラウンコッコの魔石を取るとね、そのまま窓の方に向けて透かすように見たんだ。
「これは驚きね。内包している魔力のせいか、宝石とはまた違った美しさがあるわ」
宝石って透明なのが多いでしょ。
だから面をいっぱい増やして中で光を屈折させることでキラキラになるんだ。
でも魔石は中に魔力が入ってるから、そのせいで中がちょびっとだけ光ってるんだよね。
そんな魔石を光に当てると、普通の宝石とは全然違うキラキラになるんだって。
「私にも見せて頂いてもよろしいですか?」
「ええ」
ルルモアさんはバーリマンさんからクラウンコッコの魔石を受け取ると、おんなじように窓の方に向けたんだ。
そしたらきれいなのは知ってるはずなのに、何でかちょっとびっくりしたお顔をしたんだよ。
「バーリマン様。これって魔力だけじゃなく、魔石の形のせいで光が予想外の反射を起こしていませんか?」
「予想外の反射?」
ルルモアさんに言われて、バーリマンさんはもう一度窓の方に向けてみたんだよ。
そしたら、確かにそうねって。
「魔石は職人がカットする宝石と違って複雑な形をしているから、それが影響しているのでしょうね」
「確かに、中に向かって欠けたような形にするカットは、普通の宝石職人はやりませんから」
何度も言うけど、宝石って大きさで中に込められる魔力量が変わってくるでしょ。
だからカットする時もなるべくちょっとだけで済むようにしてるくらいなんだから、わざわざへこますような削り方なんて誰もしないんだって。
「へぇ、そういう見方もあるんですね」
そんなバーリマンさんたちのお話を聞いて、お母さんは考えたことも無かったわって言うんだ。
「ルディーンがアクセサリーにした時は、単純にきれいねくらいにしか思わなかったから」
「いや、そもそも魔石をアクセサリーにしようなどと、普通はもったいなくて考えもせぬ。その辺りは、流石グランリルの村と言えるじゃろうな」
ちょっとあきれたお顔でそう言うロルフさん。
でもね、そんなロルフさんにバーリマンさんは、これは大発見と言えるんじゃないかって言うんだよ。
「伯爵。魔石が宝石のように使えるということは、宝石を使ったものよりも小さなサイズで魔道具の宝飾品が作れるということですわ」
「言われてみれば、魔石は宝石など比べ物にならぬほどの魔力を内包しておる。それで宝飾品を作れば、確かに今までに無いものが作れるじゃろうな」
それを聞いたロルフさんはすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだけど……。
「バーリマンさん。魔石っておっきいのはあんまりないよ。そんなの、お金持ちが持つかなぁ?」
お金持ちのロルフさんやバーリマンさんが言ってるアクセサリーって、とってもおっきな宝石が付いてるやつだよね?
僕が出したクラウンコッコの魔石だってちっちゃなビー玉くらいの大きさだもん。
そんなのでも、おっきな宝石の代わりにできるのかなぁって思ったんだよ。
でもね、バーリマンさんはそれは違うのよって言うんだ。
「確かに魔石だけで同じクラスの宝飾品を作ろうと思ったら、宝石などとは比べ物にならないほどの値になってしまうでしょうね。でも、そこにこだわる必要はないのよ」
「うむ。魔法陣を刻む魔石は、その魔法が使える程度のものでよいのじゃ」
これを聞いた僕は、頭をこてんって倒したんだよ。
だってちっちゃな魔石じゃ、お金持ちが付けるアクセサリーみたいにきれいなのは作れないもん。
でもね、お母さんはその説明だけで解ったみたい。
「なるほど。さっき私が言ったものと同じですね」
「お母さんがさっき言ってたもの?」
そう言ってお母さんを見ると、なんで解らないかなぁって。
「さっきルディーンに、小さな宝石のかけらを何個か使ってアクセサリーを造って欲しいと言って、ロルフさんに怒られてしまったでしょ」
「あっ、そっか! 魔石はちっちゃくても、周りに宝石をくっつければいいんだね」
「うむ、その通りじゃ」
ちっちゃな宝石がいっぱい付いてると、すっごくキラキラしてきれいだもん。
その中の一個を魔石にしたら、ちっちゃいのでもお金持ちが付けるアクセサリーになるんだって。
「強力な魔道具となると難しいであろうが、アクセサリーにつける程度ならそれほど大きなものは必要としないじゃろうて」
「それに、その程度の魔道具であっても、宝石で作ろうと思うと誰もが気付くくらい大きなものになってしまうの。だから周りに解らないように魔道具が持てるようになるというのはすごいことなのよ」
宝石にも魔法陣は刻めるけど、魔力をためる力があるだけだからおっきな宝石じゃないと魔力を込めてもあんまり効果が続かないんだって。
でも魔石は魔力が固まったものだから、ちっちゃいのでもいっぱい魔力が入ってるんだよ。
それにお金持ちや貴族様は魔物と戦ったりすることが無いから、持つのはすっごい魔道具じゃなくてもいいもん。
だからロルフさんは、ジャイアントラビットくらいの魔石でもかなりいい物が作れるんじゃないかなぁって笑ったんだ。




