66 魔物たちの住む森へ
次の日の朝、僕はいつもよりちょっとだけ早くに目が覚めてしまった。
何せ今日は初めて森に連れて行ってもらえるんだって思うと、居ても立ってもいられなかったんだよね。
でも残念ながら外はまだ暗く、今部屋から抜け出したりしたらみんなを起しちゃうだろうしって思った僕は、もう少しの間ベッドの中で時間をつぶす事に。
「う~ん、もうちょっと明るくなってたらライトのれんしゅうだけでもできたんだけどなぁ」
僕が寝てる部屋にはお兄ちゃんたち二人も寝てるから、こんな暗い中でライトの魔法を使ったらきっと起こしちゃうもん、だから今は唯々時間が経つのを待つしかなかったんだ。
そうしてベッドの中で過ごす事30分。空もかなり明るくなってきて鳥も鳴きだしたと言う事で、そろそろいいかな? って思った僕はもぞもぞとベッドから抜け出して静かに部屋の外へ。
まだ誰も居ないリビングを抜けると、そのまま扉を開けて外に出たんだ。
お外は雲一つ無いとまでは言わないけど青空が広がるいい天気で、絶好の探索日和。
そんな空を見て、僕はホッとしたんだ。だって小雨程度なら降ってたとしても、多分お父さんは森に行くのをやめるなんて言い出さないと思うけど、初めて行くのならやっぱり晴れた日のほうがいいもんね。
そんな天気に気分を良くした僕は、日課である魔法の練習を始める。
最初の頃は魔力消費3のライトだけでもMPが空になるまでにはそれ程かからなかったけど、今はそれだけだとかなり時間がかかっちゃうから庭にある適当な石にプロテクションとマジックプロテクションをかけて、それをディスペルマジックで解除するのを繰り返してるんだ。
そうするとプロテクションとマジックプロテクションの魔力消費はどっちも4でディスペルマジックは5だから全部唱えると一気に13も減るから、これを12回繰り返すと使ったMPは156。
で、それを唱え終わる頃には時間経過でMPが少しだけ回復してるから、最後にライトを2回使って朝の魔法の練習は終了。これを僕はジョブがまだ無かった頃と同様、毎日3回やってるんだ。
と、ここまでやって僕はある事に気が付いた。
「そう言えば今日は森につれてってもらうのに、MPを使いきっちゃダメじゃないか!」
そうだよ、森に行ったらMPを使う事になるんだから、いつもみたいに全部の魔力を使い切っちゃうと森で使う魔力がなくなっちゃう。
それに気が付いた僕はMPを回復させる為に慌ててその場に座り、目を閉じたんだ。
早起きしてて良かった。
多分イーノックカウの時と同じで森へは歩いて行くだろうから、もしいつもの時間に起きてこんな失敗してたら魔力を回復する時間が無かったもんね。
こうして僕はみんなが起きてくるまでの少しの間、ずっとこの姿勢でMPを回復する事になっちゃったんだ。
みんなが起きて来てからは、いつものように家のお手伝い。
僕はキャリーナ姉ちゃんと2人で魔道具をガラガラと押して草刈りをしたり、刈った草を集めて燃やしたりしてから、リビングに家族みんなでそろって朝食だ。
そしてその席で僕は、お父さんから念願の報告を受ける。
「ルディーン、喜べ。クラウスが昨日の夜帰って来たから、今日はやっと念願の森へ連れて行ってやれるぞ」
「ホント? やったぁ!」
牛乳の買い付けをしに行ってたクラウスさんが帰って来たと言う事で、やっと森に連れて行ってくれる事になったそうなんだ。
因みにクラウスさんはお父さんといつもパーティーを組んでいる人で、この2人にお母さんとクラウスさんの奥さんであるエリサさんを含めたこの4人がグランリルの村で一番狩りのうまいパーティーなんだって。
で、クラウスさんはそのパーティーのリーダーでもあるらしいんだよね。
ただお母さんたち女性陣2人は家事のお仕事があるから毎回一緒に狩りに行く訳には行かないらしくってお父さんたちは普段、他の人たちと組んでいる事が多いそうなんだけど、今日は僕の初めての森での狩りと言う事で本来のメンバーがそろうのを待ってたって訳なんだ。
「おう。朝食を取ったら早速準備だ。森に入るんだから、しっかりと準備をしないとな」
「うん!」
いつもの草原と違って森に入るんだからと、僕はイーノックカウで買った防具を身に付けて武器であるショートソードの柄の皮が緩んでたりしないかをしっかりと確かめる。
その間にお父さんとお母さんは手早く装備を整えて、持っていくものをカバンに詰めていった。
「ルディーンが怪我したら困るから、ポーションは余分に持っていった方がいいわよね? あっ、そう言えばあの子は魔法を使えるんだから魔力を回復させるマナポーションも必要だったわ。でも、うちには無いし……。司祭様、持ってないかしら?」
「シーラ、そこまで心配する必要はないだろう。俺たちがいるんだからルディーンが怪我をする心配はそうそう無いだろうし、何よりルディーンにとって初めての森だぞ。魔法の使いすぎで魔力が枯渇するほど森に長居をするはずないんだから」
「そっ、そうね。でも心配だわ、ルディーンはまだ8歳なのに。やっぱりちょっと早くないかしら?」
「だからそれはちゃんと話し合っただろう。それにルディーンはイーノックカウの森で遭遇したジャイアントラットを1人で倒してるんだからな。そこまで心配しなくても大丈夫だ」
「だといいんだけど」
その間になんかお母さんがまた僕が森に行くのは早すぎるって言い出したみたいなんだけど、お父さんが説得してなんとか納得してくれたみたい。
イーノックカウからの帰り道で聞いたんだけど、ジャイアントラットって体が大きいだけあって、一角ウサギとかよりもかなり強いんだって。
そのジャイアントラットを僕は1人で倒せたんだから大丈夫だよって言われて、お母さんもちょっとだけ安心したんじゃないかな。
こうして僕たち3人は全ての準備を整えて、集合場所である村の入り口に向かったんだ。
するとそこにはすでに男女2人組みが、馬車と共に待っていた。
「おお、ルディーン君。ちょっと見ないうちに大きくなったなぁ」
「ルディーン君、今日はよろしくね」
「うん! クラウスさん、エリサさん。今日はおねがいします」
二人が挨拶してきたので、僕は右手をシュタッと上げてご挨拶。
初めての本格的な森での魔物狩りだもん。僕は完全に足手まといできっと迷惑をかけちゃうと思うから、こういう挨拶はちゃんとしておかないとね。
「2人とも、今日は頼む」
「ルディーンは見ての通り、まだこんなに小さいから色々と迷惑をかけると思うけど、よろしくお願いしますね」
続いてお父さんとお母さんがクラウスさんたちにそう言って挨拶をした後、僕たちは馬車に乗り込んだんだ。
「ねぇお母さん、森にはいつも馬車で行くの?」
移動中、僕は気になってお母さんにそう尋ねたんだ。
だって僕は森まで歩いて向かうものとばかり思っていたし、何より馬車では森に入れないもん。
それにここはイーノックカウのように森の前にギルドの天幕なんてあるわけないから、預かってもらえるところも無いはずだしね。
「いいえ、普通は徒歩で行くのよ。馬車で運ばないといけないほど多くの獲物が取れることは殆どないからね」
「じゃあどうして今日は馬車なの?」
聞いてみるとやっぱり普段は馬車では行かないらしい。
では何故今日は馬車なのかと聞いてみたところ、
「それはルディーンが初めて森に入るからよ」
そんな返事が返ってきたんだ。
お母さんが言うには、初めての森に入る子はみんな緊張で必要以上に体に力が入ってしまうから物凄く疲れちゃうんだって。
だから馬車で来ないと帰りは狩った獲物のほかにその子をおぶって帰らないといけなくなるから、そうならないように初めて森に入る子が居る場合は毎回馬車で行くんだってさ。
そして、
「だからね、これはルディーンがまだ小さいからじゃないの。村で決まっている事だから何も心配しなくてもいいのよ」
普段とは違って馬車で森へと行くと聞いた僕が自分がまだ小さいから特別扱いされたんじゃないかって思っているとお母さんは考えたのか、優しい笑顔でそう教えてくれたんだ。
そっか、森は結構村から離れてるもん。確かに帰りはそこまで狩った獲物とかを持って帰らないといけないのに、その上に子供1人をいっしょに村まで運ばないといけないのは大変だろうから、そういう規則ができてても不思議じゃないよなぁ。
あっ、でも。
「でもさぁ、森についたら馬車はどうするの? あずける人なんていないんでしょ?」
「それは着けば解るわよ。ルディーンが心配しなくても、馬車も馬も大丈夫だから安心して」
そんな会話をしながら馬車に揺られる事1時間ほど。
こうして僕たちは魔物たちが住むという森の入り口にたどり着いたんだ。
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