679 魔法ならどんな形にしても小さくならないんだよ
魔法のカギを作ってあげるお約束をしたから、キャリーナ姉ちゃんは大満足。
だから今度は、宝石箱の中が気になったみたいなんだよ。
「宝石がいっぱい入ってるのかなぁ?」
「違うよ。さっきバーリマンさんが、宝石の原石を持って来てもらうって言ってたじゃないか」
僕とキャリーナ姉ちゃんはそんなお話をしながら、バーリマンさんの前に置かれた宝石箱を覗き込んでるんだよ。
バーリマンさんは、そんな僕たちを見ながらニコニコ。
「それじゃあ、開けるわね」
そう言って、宝石箱の蓋をパカッて開けてくれたんだ。
「わぁ、きれい! ルディーン、やっぱり宝石が入ってたじゃない」
「ほんとだ! 原石だけじゃないや」
そしたら中には原石だけじゃなくって、きれいな宝石もいっぱい入ってたもんだから僕はすっごくびっくりしたんだ。
「バーリマンさん。さっき原石を持ってきてもらうって言ってなかった?」
「それはそうなんだけど、私が行かないとこの宝石箱を開けられないでしょ。だから原石だけじゃなく、箱ごと持って来てもらったのよ」
そっか、この宝石箱には魔法のカギがかかってたもんね。
原石だけを持って来てって言っても無理だから、宝石も一緒に持ってきたのか。
僕がそんなこと考えながらうんうんってうなずいてたらね、キャリーナ姉ちゃんが僕の袖をクイクイって引っ張ったんだよ。
「ねぇ、ルディーン。あの宝石、とってもきれいだね。私も、あんなのが欲しい」
キャリーナ姉ちゃんがそう言って指さしたとこを見ると、サイコロをちょっと細長くして8個ある尖った角を削り取ったような形のピンク色のきれいな石があったんだ。
「ほんとだ。でも、なんであんな形してるんだろう?」
「なんで? とってもきれいだよ」
キャリーナ姉ちゃんは僕がなんでそんなことを言ったのか解んなかったみたい。
頭をこてんって倒しながら、あれじゃダメなの? って聞いてきたんだ。
だから僕、クリエイト魔法でさっき見本にした鋼の玉の形を頭の中に浮かんでるのに変えて見せてあげたんだよ。
「ほら。こんな風に角っこだけじゃなくって尖った線のとこもみんな平ぺったくすれば面がいっぱいできるでしょ。面がいっぱいあった方がキラキラするって、さっきバーリマンさんが言ってたもん。だったらこの方が絶対いいよ」
「ほんとだ。これの形ならきっと、もっとキラキラになるよね」
僕とキャリーナ姉ちゃんはそう言って、鋼の玉で作った宝石を見ながら笑ってたんだよ。
そしたらさ、そんな僕たちにバーリマンさんがなんでこんな形にしているのかを教えてくれたんだ。
「単純に飾り立てるアクセサリーを作るのなら、その方がきれいでしょうね。でも私の持っている宝石はタリスマンの土台にするものでしょ。少しでも大きい方が多くの魔力を内包できるから、削る場所も最低限にしているのよ」
尖った角って、何かに当たると簡単にかけちゃうんだって。
だからそこはちょこっとだけ削ってるあるけど、宝石を小さくしたくないから他のところはそのままにしてあるんだってさ。
「じゃあ、ルディーンに魔法でやってもらえばいいよ」
そのお話を聞いてたらね、キャリーナ姉ちゃんが急にそんなこと言ったもんだからびっくりしちゃった。
「僕?」
「ルディーンは魔法で形を変えられるでしょ。それなら削るんじゃないから、小さくならないもん」
「そっか、お姉ちゃん頭いい」
クリエイト魔法は、形は変わるけど大きさ自体はそのまんまでしょ。
キャリーナ姉ちゃんの言う通り、魔法で形を変えればバーリマンさんが言ってた心配はしなくってもいいんだよね。
それに気が付いたキャリーナ姉ちゃんにすごいすごいて言ってたらね、バーリマンさんが恐る恐るって感じで聞いてきたんだよ。
「えっと、もしかしてこの宝石の形を変えてくれるのかな?」
「うん、いいよ。この形でいいんだよね?」
僕が鋼の玉を見せると、それでいいよって言いながら宝石箱からその宝石を出して僕の手のひらに乗せてくれたんだ。
でもね、ここでやっちゃダメって言いだす人が出て来たんだよ。
「これ、ギルマスよ。先ほど申したばかりではないか」
それはロルフさん。
僕が魔法で宝石の形を変えられるのはナイショだよって言ったばかりじゃないかって怒ってるんだ。
でもそれを聞いたバーリマンさんは、これはいいじゃないのって。
「伯爵。それは他の職人がまだ誰も試したことのないカットのことではないですか。今ルディーン君がやってくれようとしているのはありふれた形のカットですもの。問題はないと思いますけど?」
「むむっ、それはそうなのじゃが」
バーリマンさんに言われて、ロルフさんもそうなのかなぁってちょっと思ったみたい。
よくある形ならまぁいいかって、クリエイト魔法を使うのを許してくれたんだ。
「じゃあ、やるね」
そんな訳で僕は体に魔力を循環させて、手のひらの上の宝石にクリエイト魔法を使ったんだよ。
そしたらぐにゃーってなって、形がちょっとずつ変わっていったんだ。
「平ぺったい所は、なるべくおっきい方がいいよね」
元の宝石は角をちょびっとだけ削ってあったけど、あれはかけたりしないようにするためだもん。
きれいにしようと思ったら、もっと平らなとこがおっきい方がいいよね。
それに他のところだって線みたいに細くするよりちょっと大きめの方がきれいになるんじゃないかな。
そんなことを考えながら魔法を使ってたら、見本の鋼の玉のとはちょっと違った形になっちゃったんだよね。
「あれ? 横と角っこの面が、おんなじくらいの太さになっちゃった」
上と下はおっきい面のまんまなんだけど、横っ側が同じ幅の3枚の板を斜め、まっすぐ、斜めに張り合わせたみたいになっちゃったんだ。
それにね、尖ってるとこは三角形になってその間の角も同じ幅の面になったから。見本のよりかなり平ぺったい見た目になっちゃったんだよね。
「う~ん、何か思ってたのと違う」
「でもルディーン。これ、すっごくきれいだよ」
「ほんとだ、中がキラキラしてる」
面がいっぱいになったからなのか、光に当てると中がキラキラなんだよね。
だから僕、うれしくなってロルフさんとバーリマンさんに見せてあげたんだよ。
「まぁ、すごく良くなったわね」
そしたらバーリマンさんはとっても素敵な形になったわねって喜んでくれたんだけど、
「確かに、ありふれたカットに似てはおる。じゃが、これほど原石を多く削ってしまう贅沢なカットをするものなど、いかな大貴族であろうともほとんどおらぬぞ」
ロルフさんはお顔に手のひらを当てながら、ムムムって唸ってたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
一つの面が大きいということは、それだけ多くの部分を削るということです。
それすなわち、原石から取れる宝石がより小さくなるという訳で。
本編でバーリマンさんが言っている通り、宝石は大きい方がより多くの魔力を内包できます。
なのでこんな大胆なカット、この世界ではほとんど見ることができないからロルフさんは頭を抱えてしまったという訳です。
さて、いよいよ今週の金曜日、2月14日に3巻が発売になります。
今回は短編の特別書き下ろしこそありませんが、本編はかなりの書下ろしや改変、加筆修正を行っています。
それに評判がいいとのことでしたので、エピソードを前後させてスティナちゃんのお話を中心にしました。
スティナちゃん成分マシマシの3巻、手に取ってもらえらた幸いです。
今気が付いたけど3巻の表紙、座っているのだとしてもキャリーナ姉ちゃんよりルディーン君の方が大きく見える。4歳も差があるのに。




