674 宝石でもちっちゃなかけらなら高く無いんだって
あけましておめでとうございます。
今年も引き続き「転生したけど0レベル」と「魔王信者に顕現させられたようです」をよろしくお願いします。
また「転生したけど0レベル」3巻が2月に発売されますので、そちらもよろしくお願いします。
ホーンラビットの魔石をくっつけたボウリングゲームのピン。
手のひらにのっけたそれを見ながら、ロルフさんはこう言ったんだよ。
「ふむ。少々やりすぎた面はあるが、目立つ物をつけることで特別感を出すというのはよい考えじゃな」
色を塗るより簡単だし、これは他のと違うピンなんだよってすぐに解るから石をくっつけるのはいい考えなんだって。
でもね、さすがにホーンラビットの魔石をつけるのはダメだったみたい。
「このサイズの魔石でも、イーノックカウで手に入れるにはかなり森の奥の方まで分け入らないといけませんから」
ルルモアさんの言う通り、イーノックカウの森って入口の近くには魔物がいないんだよね。
だからもしこれくらいの魔石をつけようと思ったら、強い冒険者さんに取って来てって頼まないとダメなんだって。
そんなルルモアさんのお話を聞いて、ロルフさんはなんかいい考えが浮かんだみたい。
「それならば貴族や金持ち相手には宝石を、それ以外には特定の色の石を細かく砕いて付けるようにすればよいのではないか?」
「ああ、それはいい考えかもしれませんわね伯爵」
宝石を使うって言ってるのにバーリマンさんがそれはいい考えだねって言ったもんだから、僕、びっくりしたんだよ。
だって宝石はどんな大きさのでもみんな、すっごく高いと思ってたんだもん。
でもね、さっき使ったホーンラビットの魔石くらいの大きさのだと、種類にも寄るけどそんなに高く無いものの方が多いんだってさ。
「宝石が高いのは、魔法陣を付与する媒体としてとても優れておるからなのじゃ。しかしこの程度の大きさでは特殊な極一部のものを除き、多くの宝石は魔法の付与ができるほどの許容量を持っておらぬのじゃよ」
「それに形が不ぞろいだったり小さすぎたりすると、宝飾品としての価値もあまりないでしょ。だから意外と安価で買えるのよ」
そういうちっちゃい宝石のほとんどは、おっきな宝石の形をきれいにする時に削ってできたものが多いんだって。
だからきれいなまん丸のとかは無いんだけど、これはボウリングのピンの上につけるでしょ。
それならなるべく丸っぽくなってる方を上にすればいいから、ほんとなら捨てちゃうくらい変な形のでもいいんだってさ。
「ギルマスなら、宝飾品のために形を整える工房に伝手があるのではないか?」
「ええ。いくつか心当たりがありますわ。それに」
バーリマンさんはそう言うと、持ってたきれいな鞄の中からすっごくちっちゃい革袋を取り出したんだ。
「私はタリスマンも作りますでしょ。その見た目を豪華にするために宝石を削って出たものをさらに小さく砕いて色インクに混ぜ、飾り文字にすることがあるのです。これはそのために、宝石の加工職人から譲り受けたものですわ」
その袋の中にはね、ちっちゃな宝石のかけらがいっぱい入ってるんだって。
でもそのまま出しちゃうと、どっか行っちゃうかもしれないでしょ。
だからルルモアさんにちっちゃな陶器のお皿を出してもらって、バーリマンさんはその上に宝石のかけらをサラサラって出したんだ。
「わぁ、ルディーン。キラキラだよ」
「ほんとだね、キャリーナ姉ちゃん」
宝石って初めて見たけど、すっごくちっちゃなかけらしかないのにキラキラで魔石よりピカピカなんだよ。
そっか、だから魔法を使わない人でも宝石を欲しがるんだね。
僕がそんなこと考えてたらさ、キャリーナ姉ちゃんがびっくりすることを言ってきたんだ。
「ねぇ、ルディーンは砂とかちっちゃな石をくっつけておっきなのを作れるんでしょ? 宝石じゃあ、おんなじことできないの?」
「宝石をくっつけるの?」
キラキラでピカピカだからそんなこと考えもしなかったけど、そういえば宝石も石なんだっけ。
それならもしかして、できちゃうのかな?
そう思ったのは僕だけじゃなくって、キャリーナ姉ちゃんのお話を近くで聞いてたバーリマンさんもおんなじだったみたい。
「宝石にクリエイト魔法をかける……そんなこと考えたことも無かったわ。ねぇ、ルディーン君。これを使っていいから試してみてくれないかしら?」
「これ、使っていいの? わかった! やってみるね」
バーリマンさんがいいって言ったもんだから、僕はお皿にのっかってる宝石のかけらを見たんだよ。
そこにはいろんな色のかけらがあったんだけど、違うのをくっつけたら変な色になっちゃうかもしれないもん。
だからおんなじのを選んで、それにクリエイト魔法をかけることにしたんだ。
「どの色にしようかなぁ」
「私、赤! 赤がいい」
僕が考えてると、キャリーナ姉ちゃんが横からこう言ってきたんだよ。
でもさ、これってバーリマンさんのなんだよね。
「キャリーナ姉ちゃん、魔法は使うけどもらえるわけじゃないんだよ」
「あっ、そっか」
そんな僕たちを見てくすくす笑うバーリマンさん。
「そうねぇ。あんまり多くはあげられないけど、クリエイト魔法をかけてとお願いしたのは私なんだから少しくらいなら持って行ってもいいわよ」
「やったぁ! ルディーン、くれるって」
それなら赤がいいって盛り上がるキャリーナ姉ちゃん。
僕も他にやりたい色があった訳じゃないし、お姉ちゃんが赤色のが欲しいならそれでいいかって思ったんだ。
「それじゃあ、赤いのをお皿から取ろっ」
「うん」
おっきな宝石から削ったやつだからなのか、尖ったのもいっぱい入ってるんだよね。
だから刺さったりしないように気を付けながら、僕とキャリーナ姉ちゃんは赤色の宝石のかけらを他のお皿に移していったんだ。
「それじゃあ、やってみるね」
「うん。がんばってね」
キャリーナ姉ちゃんに見守られながら、僕は体に魔力を循環させる。
そして目の前の赤い宝石のかけらにクリエイト魔法をかけてみたんだ。
でもね。
「う~ん、うまくできないや」
宝石は魔法陣を付与するのに向いてるって言ってたでしょ。
そのせいなのか、普通の石や砂とちょっと違うみたい。
何度もやってればいつかはできるようになるかもしれないけど、今はまだかけら同士をくっつけておっきな宝石を作るのは無理みたいなんだ。
「う~ん。ルディーン君ほど強い魔力を持っているのなら、宝石の加工もできるんじゃないかと思ったんだけど……」
これにはバーリマンさんも、ちょっぴりがっかりしたみたい。
キャリーナ姉ちゃんと二人並んでしょんぼりしちゃったんだ。
「あっ、でも形を変えるだけならできそう」
「ほんと!?」
「うん。くっつけるよりは簡単みたい」
クリエイト魔法をかけてみて解ったんだけど、離れちゃったのをくっつけるのは無理でも形をちょっとずつ変えるのはできるみたいなんだよね。
だからおっきなのを作るのはやめにして、僕はちっちゃな形のいい宝石を作ることにしたんだ。




