668 キャリーナ姉ちゃん、やっぱりもう起きてたんだ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
「イザベルさん。僕、もう帰らなきゃ」
ロルフさんやバーリマンさんのお話をしてたから、帰るって言ってから結構経っちゃったでしょ。
だからイザベルさんに、もう帰るねって言ったんだ。
「そうね。あまり遅くなると、親御さんも心配するでしょうし」
そしたらそうだねって言ってくれたんだけど、なんでか困ったようなお顔をしてるんだよ。
「どうしたの?」
「ああ、なんでも無いのよ。何でもないんだけど……」
なんかイザベルさん、困ってるみたい。
あっ、そっか。僕、解っちゃった。
「イザベルさん。僕一人で帰れるよ」
「えっ? 急にどうしたの?」
「だってイザベルさん。ここのみんなが心配なんでしょ。なのにさっき僕を送っていくって言っちゃったから困ってるんでしょ」
孤児院にはおっきな子もいるそうなんだけど、今はみんないろんなお店のお手伝いに行っちゃってるもん。
ちっちゃな子たちだけでお留守番させるのが心配になっちゃったんじゃないかなぁ?
だから僕一人でも大丈夫だよって言ったんだけど、イザベルさんはついてくるって言うんだよ。
「屋根や床を直してもらったし、おもちゃもいろいろ作ってもらったもの。親御さんに会って、きちんとお礼を言わないといけないわ」
イザベルさんはそう言ってるんだけど、何でかお顔はずっと困ったまんまなんだ。
それにね、
「そう、行かなきゃダメなのよ。行かなきゃダメなんだけど……」
なんかちっちゃな声でぶつぶつ言ってるんだもん。
だから僕、ちょっとだけ心配になって来ちゃったんだ。
「おっきな子が帰ってくるまで待ってる?」
「いえ、お手伝いが終わるまでにはまだかなり時間があるもの。流石にそこまで引き留める訳にはいかないわ」
イザベルさんはそう言うと、何か思いっきり気合を入れてから僕に行きましょうって。
「それじゃあ私はルディーン君を送っていくから、みんないい子でお留守番しているのよ」
「は~い!」
みんなのお返事を聞いてにっこり笑ったイザベルさんは、僕に行きましょうって手を出したんだ。
だから僕はその手を握って、うんっておっきな声でお返事したんだよ。
「にいちゃ、またねぇ」
「うん。また来るね」
両手を振ってお見送りをしてくれるまねっ子ちゃん。
僕も同じように手を振りながらお別れして冒険者ギルドに向かったんだ。
「親御さんは、冒険者ギルドにいるのね?」
「うん。キャリーナ姉ちゃんが寝ちゃったから、起きるまで待ってるって言ってた」
そんなお話をしながら歩いてたら、あっと言う間に冒険者ギルドに着いちゃった。
「ただいま! キャリーナ姉ちゃん、もう起きた?」
「ルディーン、遅い! どこ行ってたの?」
扉を開けて中に入ると、キャリーナ姉ちゃんが腰に手を当ててコラーって怒ってきたんだよ。
だから僕、なにをしてたのかをお姉ちゃんに教えてあげたんだ。
「あのね、近くにちっちゃな子がいっぱいいるとこがあったんだ。そこでみんなと遊んでたんだよ」
「ふ~ん」
僕とキャリーナ姉ちゃんがお話をしてたらね、冒険者ギルドの隅っこにあるご飯が食べられるとこにいたお母さんがこっちに来たんだ。
「ちっちゃな子って、ルディーンより小さな子がいるところだったの?」
「うん! あのね、孤児院ってところだよってイザベルさんが言ってた」
僕が教えてあげると、お母さんはそんな所が近くにあったのねって。
「ええ。確か第8孤児院がこのギルドの近くにあるはずですよ」
そしたら僕たちの声が聞こえてたのか、カウンターにいたルルモアさんがそう教えてくれたんだ。
そっか、あそこってそんなお名前だったのか。
そう思いながらうんうんうなずいてたらね、冒険者ギルドの扉がそぉ~っとひらいたんだよ。
「おじゃまします……」
ちっちゃな声でそう言いながらイザベルさんが入ってきたんだけど、今はギルドの中に僕たちしかいなかったもんだからみんなが一斉にそっちを見たんだ。
そしたらびっくりしたのか、ビクッてするイザベルさん。
僕はそんなイザベルさんのところに走っていって、お母さんに教えてあげたんだ。
「お母さん、イザベルさんだよ。僕がさっきまでいた孤児院の人」
「ルディーンがお世話になった人なのね。こんにちは、私はシーラ・カールフェルトと言います」
お母さんはそう言うと、僕がお世話になりましたってペコっておじぎしたんだよ。
そしたら何でか知らないけど、イザベルさんは大慌て。
「お世話だなんて、そんな。申し遅れました。イーノックカウ第8孤児院の管理を任されているイザベル・ムーアと申します。ルディーン君には、どちらかというと私たちがお世話になった方でして」
イザベルさんはお母さんに、僕が孤児院の屋根や床を直してくれたんだよって教えてくれたんだ。
「もう雨漏りすることもないし、抜けそうな床も無くなってみんな喜んでいるんですよ」
「へぇ。ルディーン、そんなことをしていたのね」
「うん! それにね、おもちゃもいっぱい作ったんだよ」
僕がそう言うと、キャリーナ姉ちゃんがなになに? って聞いてきたんだ。
「おもちゃって何? スティナちゃんに作ってあげた、三輪車みたいなの?」
「違うよ。四角や三角のちっちゃな木を積んで遊ぶのや、輪っかを棒に入れて遊ぶおもちゃを作ったんだ。スティナちゃんとおんなじくらいの子が、楽しそうに遊んでたよ」
「なんだ、ちっちゃな子が遊ぶおもちゃかぁ」
僕がまねっ子ちゃんが楽しそうに遊んでたことを教えてあげると、キャリーナ姉ちゃんは興味がなくなったみたい。
その代わりに、僕たちのお話を聞いてたイザベルさんがそのお話もしなくちゃって言いだしたんだ。
「そうです。そのお礼も言わないと。ルディーン君には子供たちが雨の日に遊ぶ遊具まで作って頂いて」
そう言ってぺこぺこするイザベルさん。
お母さんはね、それを見て気にしなくてもいいですよって笑ったんだ。
「ルディーンが魔法で作ったんでしょ? この子、一番上の娘が産んだ子にもよく色々と作ってあげているから、それほど気にする必要はありませんよ」
「ですが……」
イザベルさんはね、何かすっごく言いにくそうなお顔でこう言ったんだ。
「その遊具だけじゃなく、屋根や床の修理までして頂いて。ですが孤児院では子供たちの衣服や食事に予算を回しているのであまりお金がなく、その対価をお支払いすることができないのです」
そう言えばイザベルさん、孤児院でもそんなこと言ってたっけ。
でも僕、お金なんかいらないって言ったよね。
なのに、何でそんなこと言うんだろう?
これに関しては、お母さんもおんなじ意見みたい。
「対価なんていりませんよ。どうせルディーンが調子に乗ってやったことでしょうから」
「そんな訳には……。ルディーン君が言うにはイーノックカウの孤児院に寄付をして頂いているのに、その上息子さんにまで無償で働いてもらうなんて」
「孤児院に寄付?」
お母さんはそれを聞いてもピンとこなかったみたい。
だから頭をこてんって倒したんだけど、それを見たイザベルさんが教えてくれたんだ。
「ルディーン君から聞きました。本来はイーノックカウの裕福な方が義務として行っている寄付を、グランリルの村にお住いのカールフェルトさんが特別にしてくださっていると」
「ハンス、そんなことをしていたっけ?」
「前にお父さんが一人でイーノックカウに行って帰ってきた時、僕に寄付してきたって言ってたよ」
僕が教えてあげるとね、お母さんはそんなこともあったような? って頭をこてんって倒したんだ。
そしたらさ、僕たちのお話が聞こえてたのかちょっと離れた所からお父さんの声がしたんだよ。
「違う違う。寄付をしたのは俺じゃなくルディーンだ」
お父さんは奥の方でお酒を飲んでたみたい。
でもお母さんが解んないお話が出て来たからって、こっちに来てくれたんだよ。
「前に話しただろう。ルディーンがいろいろなところから貰えるようになるお金から寄付を出して欲しいとルルモアさんに頼まれたって。ルディーンが言っているのは、寄付してもよかったよなと確認した時の話だ」
「ああ、そう言えばそんな話があったわね」
お父さんのお話を聞いて笑うお母さん。
「えっ?えっ?」
でもイザベルさんはお話についていけないのか、おろおろしながらお父さんとお母さんのお顔を交互に見てたんだよ。




