658 お屋根に魔法を使うとうねうねするんだって
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
孤児院には明かりの魔道具は無かったんだけど、窓がいっぱいあるから中は明るかったんだよ。
「さぁ、入って」
「うん!」
イザベルさんに言われて、僕は中に入ったんだ。
ギイィッ
そしたらさ、床からこんな音がしてびっくり。
それも、僕が歩くたんびにするんだもん。
だから聞いてみたんだ。
「イザベルさん。この床、歩くと音がしてとっても楽しいね。どうやって作ったの?」
「これは音がするように作ったんじゃないのよ。床が古くなって音がするようになってしまったの」
歩くたんびにするこのギイギイって音、床の板が緩くなってて乗っかると他の板とこすれるからこんな音がするんだって。
それを聞いた僕は、そっかぁって思いながら床を見たんだよ。
そしたらさ、いろんなとこにちっちゃな光が当たってるんだもん。
だから僕、びっくりして天井を見たんだ。
「わぁ、お部屋の中なのにお外の光が見える」
そしたら天井のいろんなところからちょっとずつ光が入ってきてて、すっごくきれいなんだよ。
「イザベルさん。ここの天井、お外の光が入ってきてキラキラしてるんだね」
こんなの見たことないからすごいねって言ったんだけど、それを聞いたイザベルさんは困ったようなお顔で笑うんだ。
「こんな屋根は見たことが無いでしょうね。でもね、あれもわざとやっているわけじゃないのよ」
「違うの?」
「ええ。この建物はとても古くて、屋根の板に隙間が空いてしまっているのよ」
あの天井の光も床のギイギイって音とおんなじで、お家が古くなったから見えてるだけなんだって。
それにね、あの光が見えてることで困ったこともあるんだよって近くにいた子が教えてくれたんだ。
「雨が降ると、お部屋の中にお水がぽたぽた落ちてくるんだよ」
「ふってきたら、みんなでおなべをならべるんだ。そうしないとねることまでべたべたになっちゃうもん」
そっか、僕はきれいだなぁって思ったけど、あれだとみんな困っちゃうんだね。
「穴が開いてたら、お部屋の中にも雨が降って来ちゃうもんね」
今日は晴れてるから光しか入ってきてないけど、雨が降ったらあそこの穴からお水が中に入って来ちゃうもん。
天井を見ると、キラキラしてるとこがいっぱいあったんだ。
ってことは、その数だけお鍋を置かないとダメってことだよね。
「イザベルさん、なんで直さないの? お鍋を置くの、大変でしょ?」
「なんででしょうねぇ」
僕が聞くと、イザベルさんはまた困ったようなお顔に。
そんなイザベルさんを見たからなのか、また近くにいた子が教えてくれたんだよ。
「ばかだなぁ。お金が無いからに決まってるじゃないか!」
「こら、そんなこと言うんじゃありません」
その子は親切に教えてくれたのに、何でか知らないけどイザベルさんは怒ったんだよ。
「だってホントのことじゃないか!」
「イザベルさん。お金、無いの?」
「えっと、ちゃんとお金は領主様から頂いているのよ。でも、この子たちの食費を払ったり衣服の修繕とかをしていると屋根を直すところまではね」
そう言われて僕は周りの子たちを見たんだよ。
そしたらみんなが着てる服は布がいっぱいついであって、こないだ裁縫ギルドで作ったぬいぐるみみたいなんだよ。
でもちゃんとついであるから、穴が開いてる服を着てる子は一人も居ないみたい。
それにね、太ってる子はいないけど、痩せすぎてる子だって一人もいないんだよ。
ってことは、ちゃんとご飯を食べてるってことだよね。
「そっか、ご飯を食べないとお腹かがすいちゃうもん。そっちの方が大事だよね」
「ええ。この子たちがちゃんと食べられるだけのお金がもらえているのだから、これ以上贅沢は言えないわ」
そう言って近くの子の頭をなでながら、にっこり笑うイザベルさん。
でもさ、屋根に穴が開いてるとやっぱり大変だと思うんだよね。
「そうだ! じゃあ、僕が直してもいい?」
穴をふさいじゃえば、もう雨は入ってこなくなるでしょ。
だから僕が直してあげるって言ったんだよ。
そしたらイザベルさんはびっくり。
「直すって、坊やが親御さんに言ってそのお金を出してくれるってこと?」
「違うよ。僕が直すんだよ」
もう! 僕が直していい? って言ったでしょ。
大人なんだから、ちゃんと聞かないとダメじゃないか!
そう思って僕がぷんぷん怒ってたら、イザベルさんがごめんなさいしてくれたんだ。
「ごめんね。直すのはいいけど……坊やがやるの? 屋根になんか上ったら、危ないわよ」
「大丈夫だよ。はしごで屋根の端っこの所まで行くだけだから」
僕がそう言うと、イザベルさんは何を言ってるんだろうってお顔をしたんだよ。
「屋根の端まで行くだけなのね? それ以上危ないことをしないのならいいけど」
「うん。僕、危ないことなんかしないよ」
僕が約束すると、イザベルさんははしごを持って来て屋根にかけてくれたんだ。
「はしごは私がちゃんと持っているから揺れたりはしないだろうけど、落ちそうになったら言うのよ。受け止めてあげるから」
「うん、解った!」
はしごになんか登ったことないけど、木に登るよりは簡単だもん。
するするって登っていって、あっと言う間に屋根の端っこについちゃったんだ。
「う~ん、こっから見ただけじゃどこに穴が開いてるのか解んないなぁ」
屋根に上って近くで見たら解るかもしれないけど、危ないことはしないって約束したでしょ。
だから屋根全体に鑑定解析をかけてみたんだ。
そしたらどこに穴が開いてるのか、全部解っちゃったんだよね。
「こんだけ広いと、いっぺんには直せないなぁ」
そう思った僕は、屋根の端っこから順番にクリエイト魔法をかけてったんだよ。
「わぁ、なんかおやねがうねうねしてる」
そしたら屋根に使ってある木が動いて穴をふさいでったもんだから、お部屋の中にいたみんなはすっごくびっくりしたみたい。
すごいすごいって大騒ぎになっちゃった。
「えっ、何が起こってるの?」
その声を聞いたイザベルさんは、お部屋の中で何が起こってるのかすっごく気になってるみたい。
でも僕が乗ってるはしごを支えなきゃダメだから、見に行くことができないんだよね。
「イザベルお姉ちゃん。お部屋の天井がね、うにゅーってなってるの」
「ぐわんってして、ひかりがはいってこなくなったんだよ」
だからなのか、お部屋の中の子たちが何が起こってるのかを教えてくれたんだ。
でもね、それを聞いてもイザベルさんにはよく解んないみたい。
さっき以上にお部屋の中を見に行きたそうにして、でも動かずに僕の乗ったはしごを支えてくれてたんだ。
「イザベルお姉ちゃん、はしごは僕たちが持っててあげるから、見てみなよ」
「すごいんだよ。はやくはやく」
それを見たからなのか、僕とおんなじくらいの子たちがお外に出てきて何人かでイザベルさんと交代。
そのイザベルさんはちっちゃな子に押されながらお部屋の中に入ってったんだ。
「えっ、何これ?」
僕はその間も、クリエイト魔法で屋根を直してたでしょ。
だから当然お部屋の中から見たら、みんなが言ってる通り天井がうねうねって動いて穴がふさがっていくよね。
それを見て、イザベルさんは何が起こってるのか解らないって言いだしたんだ。
「さっき、あのこがいってたでしょ。おやねのあなをなおしてるんだよ」
「うねぇってなると、光が入ってこなくなるんだ。すごいよね」
そんなイザベルさんに、周りの子たちは何言ってるんだよって大笑い。
そうしてるうちに最後の穴がふさがったから、下ではしごを持ってくれてる子たちに聞いてみたんだよ。
「もうお外の光、入ってきてない?」
「ねぇ、入ってきてない?」
「うん、もうはいってきてないよぉ」
「入ってきてないって」
「解った、じゃあ降りてくね」
みんなが教えてくれたから、僕はするするってはしごを降りてったんだ。
でね、孤児院の中に入ってみると、どこからも光が入ってきてなくて大満足。
「これで、もう雨が降ってきてもお鍋を置かなくてよくなったよ」
「うん。もうおへやがべちゃべちゃになること、ないね」
そう言って周りの子たちとニコニコしながらお話してたんだ。
そしたらさ、イザベルさんがわけが解んないってお顔をして聞いてきたんだよ。
「えっと、一体何をしたの? なぜ穴が全部ふさがってしまったのよ」
「あのね、クリエイト魔法ってのを使ってふさいだんだよ。僕ね、お父さんが馬車とかを作る時にお手伝いしてるから木にクリエイト魔法を使うのがとっても上手なんだ」
そんなイザベルさんに僕はそう言うと、エッヘンって胸を張ったんだ。




