656 そう言えばお姉ちゃんがまだ寝てたっけ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n1737jf/
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
今度こそお話が終わったから、ロルフさんたちとはここでお別れ。
「本当にもらってよいのかのぉ」
「はい。私は試食しただけで十分ですし、子供たちはそもそも食べられませんから」
熟成させたワインのブドウをお手本にして、ほんとのワインを作るって言ってたでしょ。
だからお母さんは、残ったワインのブドウをみんなロルフさんにあげちゃったんだ。
「その申し出は正直ありがたいのじゃが、本当にいいのかのぉ」
そう言ってお父さんを見るロルフさん。
それにつられて僕もお父さんを見たんだけど、すっごくしょんぼりしてたんだ。
でもね、お母さんは笑顔でこう言ったんだよ。
「ハンスは森でたくさん食べたようなので気にしないでください」
「そっ、そうか。ならば遠慮なく頂いて行くとしよう」
その笑顔、僕は何でか知らないけど怖く感じたんだよね。
それはロルフさんもおんなじだったみたいで、お母さんにお礼を言うと残ったワインのブドウを全部持って帰っていっちゃったんだよ。
「ああぁ」
それをちょっと情けないお顔で見送るお父さん。
僕ね、そんなお父さんがちょっと可哀そうだなぁと思ったから、あとでワインのブドウを作ってあげようって思ったんだ。
でもね、お母さんがそれはダメよって。
「ルディーン。ハンスがかわいそうだからって、ワインのブドウを造ってはダメよ」
「なんで? お父さん、すっごくしょんぼりしてるよ」
「これはね、本当は休んでいなければいけないルディーンを働かせた罰だからです」
お母さん、僕が森の中でMPを回復させてたのにお父さんがブドウをワインにしてって頼んだことを今も怒ってるんだって。
だからお父さんが頼んでも絶対作っちゃダメよって言うんだ。
「それと、村に帰ってからもワインのブドウは作っちゃダメよ」
「え~、なんで?」
お爺さん司祭様もワインが大好きでしょ。
だから僕、村に帰ったら作ってあげようって思ってたんだ。
それなのに村でも作っちゃダメだよって言われてびっくり。
なんで? って聞いたんだけど、そしたらさっきロルフさんが秘密にしないとダメって言ってたじゃないって言われちゃった。
「このワインのブドウは、この近くの町や村ではルディーンしか作れないそうなの。それなのにみんなが欲しがったらどうなると思う?」
「困っちゃう。だって僕一人じゃ、そんなにいっぱい作れないもん」
「そうよね。だからナイショにしないとダメなのよ。それに村長さんからも、ルディーンのお仕事をこれ以上増やしちゃダメって言われているもの」
そう言えば村長さんに、お仕事をさせすぎですってお父さんが怒られてたっけ。
僕が村でワインのブドウを作ったら、またお父さんが怒られちゃうかも。
「うん、解った! 僕、もうワインのブドウは作らないよ」
「ルディーンはいい子ね」
そう言って僕の頭をなでてくれるお母さん。
それがうれしくって僕はニコニコしてたんだけど、でもそのせいでそれを聞いたお父さんがすっごくしょんぼりしてるのに気が付かなかったんだ。
「お母さん。お話も終わったし、お家に帰ろ」
冒険者ギルドでやること、もうなくなっちゃったでしょ。
だから僕、お母さんに帰ろうよって言ったんだ。
でもね、お母さんはまだダメだよって。
「キャリーナが起きていないもの。まだ家には帰れないわ」
「あっ、そっか。僕、お姉ちゃんのことすっかり忘れてた」
キャリーナ姉ちゃん、子供なのにワインのブドウを食べちゃって寝てるんだっけ。
置いてっちゃったらコラーって怒られちゃうから、待ってないとダメだよね。
そう思った僕は、何かやることないかなぁって周りをキョロキョロ見たんだよ。
でもここ、冒険者ギルドだもん。
楽しそうなものなんてある訳ないよね。
「ここがお店屋さんだったら面白いものがあるかもしれなかったのになぁ」
朝だったら掲示板に依頼が貼ってあるからそれを見てればいいけど、今はずーっと貼ってあるこれを採ってきてってやつだけだから見ても全然面白くない。
それにふちっこにあるご飯を食べるとこだって、外のお店と違ってメニューなんてないから楽しいこと、何にもないんだよね。
「こんなとこにいても、つまんない」
そう思った時、僕はとってもいいことを思いついたんだ。
「そうだ! ここがつまんないなら、お外に遊びに行けばいいじゃないか」
冒険者ギルドにはよく来るけど、いつも宿屋さんや僕んちからまっすぐここに来てそのまま門に向かうでしょ。
だからこの近くに何があるのか、全然知らないんだよね。
「知らないとこを探検するの、ちょっと面白そう」
街の外に遊びに行くって言ったらダメって言われるかもしれないけど、この近くだったらいいよね。
そう思った僕は、お母さんに言いに行ったんだ。
「お母さん。キャリーナ姉ちゃんが起きるまでの間、お外に遊びに行ってていい?」
「お外って、街の外まで行くつもりなの?」
「ううん。行ったことないから、この近くを探検するんだ!」
僕は両手を振り回しながら、見たことないとこにはいろんな楽しいことがあるかもしれないんだよって。
そういう所を探検したら、きっとすごいことがあるはずなんだよってお母さんに教えてあげたんだ。
「そうねぇ、街の中なら危険はないだろうし……」
お話を聞いたお母さんは、そんなことをつぶやきながらちょっとの間考えてたんだよ。
僕はそれを大丈夫かなぁって、ドキドキしながら見てたんだ。
そして、
「この近所だけよ。遠くに行ってはダメ。守れる?」
それからちょっとして、お母さんは真剣なお顔で僕にそう言ったんだ。
「うん! 僕、遠くになんか行かないよ」
「それならいいわ。それと、知らない人について行っちゃダメよ。後危ないところに行くのも絶対にダメ」
「解った! 僕、危ないことしないし、知らない人にもついて行かない!」
僕がそう約束すると、お母さんはにっこり。
「よろしい。それじゃあ遊んでらっしゃい」
「うん! 行ってきます」
「気を付けて行ってくるのよ」
そう言って小さく手を振るお母さんに元気いっぱい手を振って行ってきますをしながら、僕は冒険者ギルドの扉を開けて外に飛び出していったんだ。




