655 熟成させたら思ってたのとは違う結果になったんだよ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
並べてあったいろんなワインのブドウ、それをお手本のワインとおんなじくらい熟成したんだよ。
そしたらそれを食べたロルフさんが、こんなこと言ったんだ。
「これは、ちと予想外の結果になったのぉ」
あれ、おいしくならなかったのかなぁ?
ロルフさんのお顔を見てこんな風に思ったんだけど、僕、ワインのブドウは食べちゃダメでしょ。
だからなんか変だったの? って聞いてみたんだ。
そしたらそうじゃないよって。
「いや、わしは熟成前に一番美味いと思っておったものが熟成後も当然一番であろうと思っておったのじゃ」
「違ったの?」
「うむ。確かにまろやかにはなったが、少々渋みが増したように感じるのじゃよ」
ワインって、熟成させるといろんなきつすぎるとこが消えてって飲みやすくなるんだって。
でもこれはそれだけじゃなくって、他の味も強くなっちゃってるんだよってロルフさんは言うんだ。
「熟成をかける前よりおいしく無くなっちゃったの?」
「いや、これはこれで美味いのじゃが、期待しておったほどではなくてのぉ」
そう言って、ちょっと難しいお顔になるロルフさん。
そしたらね、それを見たバーリマンさんがこんなこと言ったんだ。
「思いますに、通常のワインと違って種と皮がそのままなのが原因なのでしょうね」
「なるほど。ワインの熟成は普通、樽に詰めてから行うものじゃからな」
熟成をかけたことで、ワインのブドウの中に入ったままの種や周りの皮の味まで余分に混ざっちゃったみたいなんだ。
だから最初に一番おいしかったブドウは、熟成をかけることでちょっと味が落ちちゃったみたい。
「それに対して、これは化けたな」
「はい。赤ワインほどの重厚さはありませんが、とても飲みやすいものに仕上がっていますわね」
そう言ってロルフさんたちが持ち上げたのは、熟成前はちょっと味が薄いって言ってたワインのブドウ。
こっちはさっきのブドウと違って、皮と種がそのままなのが良かったみたい。
味がよく混じったのと、アルコールのきつさが取れておいしくなってるんだってさ。
「しかし、白とも赤とも違う、少々変わったものができあがりましたわね」
「うむ。軽さという点では白に近いが、香りは熟成させた白よりも良いのぉ」
その熟成前はあんまりおいしくなかったって言ってたブドウに近い味のも順番に食べてくロルフさんたち。
そしたらそのブドウたちもおんなじように、おいしくなってみたいなんだよ。
「私は赤ワインは重くてちょっと苦手なんですよ。でもこの味のワインであれば、肉料理の時に楽しめそう」
「ああ、確かにそういう人たちにはうけそうですね、これ」
お母さんも、このワインのブドウが気に入ったみたい。
ルルモアさんと一緒に、おいしいねって笑ってるんだ。
そんなお母さんたちに、バーリマンさんもそうだねって。
「それにこのブドウは種も小さいですから、とても食べやすいですもの。そういう意味でも、これが赤や黒っぽいブドウの中では一番かもしれませんね」
そう言って笑うバーリマンさん。
そう言えば熟成させる前においしいって言ってたブドウ、皮が厚くって種がおっきいからそのままだと食べにくかったもん。
でもいまみんながおいしいって言ってるブドウは食べやすかったから、味もよくなったのなら一番おいしいって感じるかも。
「次にこの黄緑色のブドウじゃが」
そう言ってロルフさんが持ったのは、僕がおいしいよって教えてあげた黄緑色のブドウ。
「フレッシュさはなくなったが、その分深みが出ておる。これならば十分おいしい部類に入るのではないか?」
「雑味と感じていた渋みがより強くはなっていますが、味がこなれたことでおいしさに変わっていますね」
「うむ。香りにはそれほど変化はないが、味は赤に近づいておるように感じるな」
どうやらこれも醸造をかけた時はあんまりおいしいワインにならなかったのに、熟成させたらおいしくなってたんだって。
「ただ、これも赤とも白とも違う、まったく新しい味になっていますね」
「うむ。しかしこれは皮も薄く、粒も大きいからのぉ。先ほどの味の薄かったものとはまた別の意味で、美味なワインのブドウになっておるな」
僕がおいしいよって言ってたブドウ、採って来た中で一番粒が大きいんだよね。
それに皮も種も小さいから実がいっぱい入ってるもん。
熟成させておいしくなったおかげで、これも一番の仲間入りしたみたいなんだ。
「でも、なぜこのような味のものができたがったのでしょうか」
「それなんですが、白ワインの作り方に理由があるのではないでしょうか」
バーリマンさんの質問に答えたのはルルモアさん。
「黄緑色のブドウは、主に白ワインの原料になるのです。でもその製法は赤とは大きく違っていて、皮と種を取り除いたものを搾り、それを樽に詰めて造るんですよ」
「へぇ、そうやって作るのですね」
ロルフさんやバーリマンさんはワインをよく飲むけど、その作り方までは知らなかったみたい。
だからルルモアさんのお話を、感心しながら聞いてたんだよ。
それに僕も色や味が違うのは赤いブドウから作ってるのか黄緑色のブドウから作ってるのかの違いなのかなぁって思ってたんだよ。
だからこのお話を聞いてちょっとびっくりしてたんだ。
でもルルモアさんのお話は、これで終わりじゃなかったんだよ。
「思いますに、これは本来取り除くはずの皮や種が原因で少々変わったものになったのではないでしょうか。白は渋みがありませんよね。でもこれには赤ほどではないですがありますもの」
「なるほど、その違いか」
ブドウのまんま作った白ワインがちょっと変わった味になったのは、皮と種から出て来た成分のせいなんだって。
でもそれが熟成させることで甘みとのバランスがとれたからおいしくなったんじゃないかなぁってルルモアさんは言うんだ。
「ただこれは実と一緒に食べるからおいしいと感じるだけなのかもしれません。もし皮と種をそのまま入れて造っても熟成させればおいしくなるのなら、これまでに誰かが作っていたでしょうから」
「それは言えるかもしれぬのぉ」
そっかぁ、それじゃあこれがおいしいのはブドウのまんま作ったからなんだね。
僕がそう思いながら一人でうんうん頷いてたんだけど、そしたら一緒にお話を聞いてたバーリマンさんがこんなこと言いだしたんだよ。
「伯爵、このようなものは帝都でも見たことがありません。特にこの黄緑色のブドウは種も小さく、とても食べやすいですもの。これならばお孫様の大きな力になるのではないですか?」
バーリマンさんはちょっと興奮したお顔でそう言ったんだけど、それを聞いたロルフさんはちょっと渋いお顔。
「それは難しいだろうな」
「なぜです? これならば……」
「現状、このイーノックカウでこれを作れるものはルディーン君しかおらぬからじゃ」
それを聞いて、あっ! ってお顔をするバーリマンさん。
「いや、もしかすると帝都にもおらぬかもしれぬ。なにせ普通の料理人は熟成は持っておっても発酵や醸造を持つ者はあまりおらぬと聞くからな」
「確かに発酵と醸造は、どちらかというと私たち錬金術師の技に近いですものね」
そう言えば前に、そのふたつは魔法が使えないと覚えられないから使える人はあんまりいないんだよってアマンダさんが言ってたっけ。
だから料理人さんよりも、お料理が好きな錬金術師さんの方が持ってる人が多いって言ってたもん。
「それだけに、これの存在は我が孫には知らせぬ方が良いと思うのじゃ」
「そうですわね」
ちょっと残念そうなバーリマンさん。
それはルルモアさんもおんなじだったみたい。
「せっかくこれだけのものが目の前にあるのに、世に出せないなんてもったいないですね」
「いや、今日ルディーン君が見せてくれたものすべてが世に出せないと言っておるわけではないぞ」
ロルフさんのお話を聞いてよく解んないっていう顔をするルルモアさん。
そんなルルモアさんにロルフさんは、笑ってこれじゃよってあるワインのブドウを指さしたんだよ。
「これって、熟成させることでおいしくなったブドウですよね?」
「うむ。これならば普通の製法でも作ることができるし、先ほどそなたが申した通り皮と種が赤ワインの味わいに関係しておるというのであれば、仕込む際にその量を調節したり途中で取り除くなどすることで違った味わいの新たなワインが作れるのではないか?」
これを聞いて、すっごくびっくりしたお顔になるルルモアさん。
「確かにそうですね。これもまた、他では味わったことのないワインですもの」
「うむ。この味を元に研究をさせれば、きっと我が孫の強力な武器となろう」
そう言ってわっはっはって笑うロルフさん。
よく解んないけど、このワインのブドウがロルフさんの役に立つみたいだね。
それがうれしくなった僕は、そんなロルフさんの横で一緒にわっはっはって笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
製法を知っている方は解りますよね。この世界にロゼワインが爆誕しましたw
まぁ実際はルディーン君が作ったものを見本にしてロルフさんが懇意にしているワイナリーで作らせることになるから、まだこの世には存在しないんですけどね。
それでも、元となるものがあると無いとは大違いですから、それほど時を待たずに世に出ることとなるでしょう。




