654 そう言えばまだそのお話をしてなかったっけ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
お水を汲んだりブドウがなってるところを探してくるって約束したし、今日のお話はこれでおしまいかなぁって思ってたんだよ。
でもね、そこでロルフさんがこんなこと言いだしたんだ。
「それでは改めて、ルディーン君の作ったという房のままワインになっておるブドウの話をするかのぉ」
そういえばさっき、ロルフさんはまず採ってきたブドウのお話をするって言ってたっけ。
そのお話が済んだから、今度はワインのブドウのお話をするんだね。
「ルディーン君。ワインにしたのはこのブドウだけなのかな?」
「ううん、違うよ。いろんなブドウが採れたから、全部をちょっとずつお酒にしたんだ」
「ちょっ!」
僕がそのことを教えてあげると、何でか知らないけどお父さんがちょっと慌てだしたんだ。
だからどうしたのかなぁって思ったんだけど、そこでお母さんが聞いてきたんだよ。
「そのワインにしたブドウはどうしたの?」
「あのね、お父さんが味見するからって全部食べちゃった」
僕はそのおかげでこのブドウがワインにしたら一番おいしいって解ったんだよって教えてあげたんだ。
でもお母さんはそんなことより、お父さんが全部食べちゃったのを黙ってたことを怒ってるみたい。
「ハンス! 自分の子供に、一体何をさせているのよ」
「ごめん、シーラ。許してくれ」
すっごく怖いお顔で叱るお母さんと、頭を抱えながら謝るお父さん。
それを見た僕は、もしかして僕も怒られちゃうのかなぁって思ったんだ。
「お母さん。もしかしてお酒を作るのは悪いことなの?」
「いいえ、違うのよ。まりょくって言うのが無くなって休んでいたルディーンにそんなことをさせたから、お母さんは怒っているの」
「そっかぁ。よかった。ワインのブドウを作ったから、僕も怒られちゃうのかと思った」
それを聞いてほっとしてたらね、そんな僕にロルフさんが聞いてきたんだよ。
「ルディーン君。君はそれほど多くのブドウをワインに変えたのかい?」
「うん。一粒ずつだったら魔力もほとんど使わないもん。だからいっぱいワインのブドウを作ったんだ。すごいでしょ」
僕がエッヘンってしながら教えてあげると、ロルフさんはお母さんに他のブドウも今ここにあるの? って聞いたんだ。
「はい。おみやげにするつもりで持って来ていますよ」
お母さんはそう言うと、キャリーナ姉ちゃんを寝かしてた敷物のところに行って一緒に載せてあった採取用の袋を何個か持ってきたんだ。
「ほう。たくさん採ってきたのじゃな」
「元々はルディーンとキャリーナを乗せて運ぶための敷物ですから、ブドウを載せるスペースは結構あったので」
そんなことを言いながらお母さんが袋から出していくと、テーブルの上はいろんなブドウでいっぱいになっちゃった。
「ロルフさん、これが一番おいしいんだよ。でね、これはおいしいけど酸っぱいの」
さっきルルモアさんに教えてあげたのとおんなじように、僕はおいしかったのを教えてあげたんだよ。
そしたらロルフさんは、お酒にしておいしかったのはどれかな? って聞いてきたんだ。
「僕、ワインのブドウは食べられないから解んない」
でも僕、お酒を飲んじゃダメだもん。
だから解んないって言うと、今度は隅っこの床に座らされてたお父さんに聞いたんだよ。
「ふむ。言われてみれば確かに。それではカールフェルトさん、実際に口にして、どれがおいしかったのかを教えてもらえるかのぉ?」
「えっと、そちらに行ってもいいのか?」
「はぁ、仕方ないわね」
母さんが小さくため息をつきながらいいよって言ってくれたもんだから、お父さんはゆっくりと立ち上がってこっちに来たんだ。
「それで、どれが良いワインになったのかのぉ」
「これとこれが、比較的上質なものになってたな。それとこの黄緑色っぽいのは白ワインぽい物にはなったんだけど、雑味があると言うかスッキリしない味になっていたって印象だ」
お父さんはね、食べてみて赤いのや黒っぽいやつの方が黄緑色のやつよりおいしいお酒になってたよって教えてあげたんだ。
そしたらそれを聞いてたルルモアさんが、そうだろうねって。
「白ワインは皮と種を取り除いてからすぐに絞って、それを発酵させることで作ります。今回はブドウの形のままワインにしたから雑味が出たのだと思いますよ」
「なるほど」
ワインって、白と赤で作り方が違うんだって。
お父さんが一番おいしいって言ったブドウ、皮が厚くって種がおっきかったでしょ。
赤ワインを作る時は実だけじゃなくってそういう所からもおいしいものが出てくるから、皮が薄くって種がちっちゃいものよりおいしいのができるんだってさ。
「しかし、実際に口にしてみないことには良くわからぬな。ルディーン君、すまぬがブドウの房をいくつか選ぶから、ワインにしてもらえるかな」
「うん、いいよ」
普通の魔法と違って醸造スキルはそんなに魔力を使わないもん。
それに森から帰ってくるまでにMPもすっかり回復しちゃったから、僕はロルフさんが選んだブドウをパパッとワインにしちゃったんだよね。
「それでは味を見てみることにするかのぉ」
そう言ってロルフさんとバーリマンさん、それにルルモアさんとお母さんがワインのブドウを一粒ずつ食べてったんだ。
「ふむ。確かに食べやすいものと、ワインにしておいしいものは違うようじゃな」
「皮が薄く、種が小さいものは渋みや香りが薄く感じますわね」
「この黄緑色のブドウも、少し雑味を感じます」
「そのまま食べるには、一番おいしいんですけどね」
ああでもない、こうでもないっていろんなワインのブドウを食べてくロルフさんたち。
そして一通り食べ終わったところで、ルルモアさんがこんなことを言いだしたんだよ。
「そういえばフランセン様たちが到着される前に、ルディーン君が熟成をかければこれも普通のワイン同様おいしくなると言ってましたよ」
「熟成か。それをかければ確かに、味はまろやかになるであろうな。美味かったものをいくつか選んで、ルディーン君に頼むとするかのぉ」
ロルフさんがそう言うと、それを聞いたバーリマンさんがもしかしてあんまりおいしくないブドウも違った感じになるんじゃないかなって言いだしたんだ。
「伯爵。ワインの中には搾りたての方が寝かせるよりもおいしいと言われるものがあります。それとは逆にそのままではいまいちだと思われたのに、熟成で大きく印象が変わるものもあるかもしれませんよ」
「なるほど、確かにそれはあり得る話じゃな」
ロルフさんたちはそう言うと、おいしかったのとそうでなかったの、それをより分けてお皿にのっけてったんだ。
でね、おいしかったのから順番にテーブルに並べると、ルルモアさんが僕にお願いしてきたんだ。
「ルディーン君。これを熟成させてくれるかな?」
「うん、いいけど、どれくらい熟成させればいいの?」
「どれくらいかぁ」
ルルモアさんはそう言ってちょっと斜め上を見ながら考えた後、ちょっと待っててねって言って冒険者ギルドの隅っこにある飲食スペースへ。
そこから一本のワインをもらって帰ってきたんだ。
「これと同じくらい熟成させるってできるかな?」
「うん! お手本があるなら簡単だよ」
「そう。じゃあお願いね」
ルルモアさんはそう言ってワインのコルク栓を抜くと、コップについで僕の前に置いてくれたんだ。




