653 ブドウが大きく育ったのはお水のせいだったんだよ
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
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テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
「ルディーン君が作ったというワインのブドウも気になるが、まずはこちらからじゃな」
ロルフさんはそう言うと、ルルモアさんから貰ったブドウを錬金術の解析で調べたんだよ。
「ふむ。少々魔力を含んでおるようじゃが、いたって普通のブドウという印象じゃな。これがどうかしたのか?」
「はい。本来このブドウは房が小ぶりで、これほど大粒にはならないはずなのです」
ルルモアさんはこのブドウがピノワールって言う品種で、近くの村でも作ってるけどほんとはこんなに大きくならないんだよって教えてあげたんだ。
「これがルディーン君たちが持ち帰ったベニオウの実のように森の奥地で見つかったのなら解ります。ですが、これは森に入ってそれほど進まないところになっていたそうでして」
「大きく育っておる理由が解らないというのじゃな」
「はい」
ロルフさんのお話を聞いて、うなずくルルモアさん。
「そこで考えたのですが前に起こった魔力溜まりの活性化、その影響で森の中にまた別の魔力溜まりができたのではないかと心配しているのです」
「新たな魔力溜まりじゃと?」
ロルフさんはびっくりしたお顔をしたんだけど、すぐに難しいお顔になって考えこんじゃったんだよ。
だからルルモアさんも黙ってみていたんだけど、そこでバーリマンさんがこんなことを言いだしたんだ。
「伯爵。はっきりとは断言できませんが、多分そのようなことは起こってはいないとわたくしは思いますわよ」
「何故そう思うのじゃ、ギルマスよ」
「それは、これが近くの村で育てられているものと同じ品種のブドウだからです」
バーリマンさんのこの一言でロルフさんは何が言いたかったのか解ったみたい。
でも僕、それだけじゃ何で魔力溜まりができてないのか解らなかったんだ。
だから聞いてみることにしたんだよ。
「ねぇ、バーリマンさん。何で村で作ってると魔力溜まりができないの?」
「いえ、できないのではなく、魔力溜まりの影響を受けて大きくなったわけではないと言いたかったのよ」
???
バーリマンさんは教えてくれたけど、僕、全然解んなかったんだ。
だから頭をこてんって倒しながら、教えてもらおうとルルモアさんの方を見たんだよ。
でもルルモアさんは、さっきのお父さんとおんなじように壁を見てるんだもん。
もう! 大人なのになんで解んないの!
僕がそう思ってぷんぷんしてたら、バーリマンさんがごめんごめんって謝ってくれたんだ。
「言葉が足らなかったわね。ベニオウのような魔木は一定以上の魔力が無いと育たないの。でもこのブドウ、ピノワール種は村でも育てられるのだから普通の植物でしょ?」
「うん」
「周りの魔力を吸収できる魔木と違って、このブドウのような普通の植物は根から吸い上げた水や養分に含まれた魔力しか吸収できないのよ」
ルルモアさんの言ってる魔力溜まりの活性化って、前に幻獣が出た時のことでしょ。
もしその活性化の時に小さな魔力溜まりができてたとしても、その魔力が地面の中にしみ込むには時間がなさすぎるんだってさ。
「それじゃあもしちっちゃな魔力溜まりができてたって、ブドウがおっきくなるはずないんだね」
「ええ、そうよ。だからこのブドウの成長は新しい魔力溜まりの発生などではなく、別の理由があるということなのでしょうね」
でもさ、それなら何でこのブドウ、おっきくなったんだろう?
そう考えたのは僕だけじゃなくって、ルルモアさんもおんなじだったみたい。
だからバーリマンさんに聞いたんだよ。
「それではなぜこのような現象が起こったと思われますか?」
「そうねぇ。土壌に何かあるのか……これが採れた場所の近くに流れている川に秘密があるのかも」
「いえ、そこの近くに川は流れていないはずです」
それを聞いたバーリマンさんはびっくり。
「そんなはずないわよ。だってブドウの木は育つのに、豊富な水が必要なのだから」
「「あっ!」」
そんなバーリマンさんのお話を聞いて、僕とお母さんはあることを思い出したんだよ。
「お母さん。ルルモアさんにあの話、まだしてない!」
「ええ、そうね。すっかり忘れていたわ」
「森で何かあったのですか?」
僕たちが急に騒ぎ出したもんだから、ルルモアさんが何かあったのって聞いてきたんだ。
だからお母さんが、アマショウの実が採れた場所でのことを教えてあげたんだ。
「私たちはブドウを探す前にアマショウの実を探していたんです。でも、アマショウって水が無いと実がつかないでしょ。だから不思議に思っていたら近くに湧水が出ていて。それに、そのブドウが採れた場所のすぐ近くにも同じような湧水が出ていたんですよ」
「湧き水ですか?」
「はい。それでですね、ルディーンが言うには他にもアマショウの実やブドウがなっている場所が結構あるらしくて」
お母さんはアマショウの木を育てるのにお水がたくさんいるって知ってたでしょ。
だからブドウも育つのにお水がいっぱいいるなら、なってるところにはアマショウの木とおんなじように湧水が出てるんじゃないかなぁって言ったんだよ。
「私たちはゴブリンの集落を探しに行ったでしょ。もし集落ができるとすればどうしても水が必要だろうから、湧水の元となる地下水の流れがそのヒントになるんじゃないかと思って報告するつもりだったんです」
「なるほど。豊富な湧水が出ていれば、ゴブリンも集落を作りやすいですからね」
そう言って感心するルルモアさん。
そのまま僕たちはゴブリンの村のお話を続けるつもりだったんだけど、
「そうか、地下水じゃ!」
急にロルフさんがこんなこと言いだしたもんだから、みんなびっくりしてそっちを見たんだよ。
「どうしたのですか、伯爵」
「だから、地下水じゃよ。きっとその地下水に魔力が含まれておるのじゃ」
さっきまで僕たちはなんでブドウがおっきく育ったのかのお話をしてたよね。
ロルフさんは、その原因が地面の下に流れているお水にあるんじゃないかって言うんだ。
「地上にある川は、例え魔力溜まりの近くを通ったとしても流れてくる間に溶け込んだ魔力が霧散してしまう。しかしそれが地下ならば、魔力溜まりから離れた場所まででも魔力を保ったまま流れてくるのではないか?」
「なるほど。魔力は土などにも溜まりますから、地下水が流れている場所は飽和状態になっていて放出されずにすんでいる可能性はありますわね」
そう言って感心するバーリマンさん。
ロルフさんはそんなバーリマンさんに、これはすごい発見なんだよって言うんだ。
「何をそんな冷静に話しておるのじゃ。これは我々イーノックカウに住む錬金術師にとって、とても価値のある発見なのかもしれぬのだぞ」
「価値ですか?」
「うむ。前にグランリルの村に流れておる川には魔力が含まれているという話があったではないか」
ロルフさんのお話を聞いて、はっとしたお顔になるバーリマンさん。
「ギルマスも気が付いたようじゃな。普通の水と違い、魔力を含む水ならばポーションに混ぜても薄まるだけで効果は失われない。ならば、その水でポーションを作ったらどうなると思う?」
「より効果の高いポーションを創り出すことができる、伯爵はそうお考えなのですね」
お話を聞いて、ゆっくりと頷くロルフさん。
そして今度はお母さんの方を向いてこう言ったんだよ。
「先ほど話しておった湧水なのじゃが、汲んできてはおらぬかのぉ?」
「いえ。まさかいるとは思わなかったので」
それを聞いて、ちょっとがっかりするロルフさん。
でもすぐにこうお願いしてきたんだよ。
「では、また明日にでもその水を汲んで来てはもらえぬか? そしてできれば、湧水が出ている可能性があるというブドウなっている場所も調べてきてもらいたい」
「はい。元々そのつもりでしたから、いいですよ」
笑いながらそう答えるお母さん。
こうして僕たちはゴブリンの村を探すだけじゃなく、エリィライスとブドウがある場所を探すって言うお仕事まで増えちゃったんだ。




