651 見つけたブドウは普通のじゃなかったんだって
私のもう一つの作品、「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n1737jf/
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
キャリーナ姉ちゃんをのせた敷物を引っ張ったまま、イーノックカウへ。
門のところにいた兵士さんにはびっくりされたけど、何でこうなったのかを教えてあげたらそのまま入れてくれたんだ。
「流石に、冒険者ギルドには寄らないとダメだよなぁ」
お姉ちゃんが寝たまんまだからほんとはお家に帰りたかったんだよ。
でも僕たち、冒険者ギルドに依頼されて森に行ったんだもん。
だからお父さんの言う通り、そのまま冒険者ギルドに向かったんだ。
「ただいまぁ!」
いつものように元気よく冒険者ギルドの中に入ってくと、カウンターのとこにいたルルモアさんがニッコリ笑顔で迎えてくれたんだよ。
「あれ? ルディーン君、ご両親と一緒に森に行ったんじゃなかったの?」
そう言って頭をこてんって倒すルルモアさん。
でも僕の後ろからお父さんたちが入ってきたのを見て、びっくりしたお顔になったんだ。
「どうしたんですか、こんなに早く。まさかゴブリンの集落を見つけたなんて言いませんよね?」
「流石に、それは無いわ。実は森でブドウを見つけたのよ。それをハンスがルディーンに頼んでお酒にしてしまって」
「あのね、キャリーナ姉ちゃんがワインのブドウを食べちゃったんだ。そしたら変になっちゃったんだよ」
僕がそう言って寝てるキャリーナ姉ちゃんを見せてあげると、ルルモアさんは大慌て。
「大丈夫なんですか? キャリーナちゃん、まだ小さいのにお酒なんて飲んで」
「大丈夫じゃないから帰って来たんじゃない」
そう言って笑うお母さん。
でもね、キャリーナ姉ちゃんは普通の子と違って魔物を狩ってるから心配するほどのことじゃないと思うよって言うんだ。
「この子もそこそこ強くなっているし、もうアルコールにも耐性があると思うのよ。だから寝ていればすぐによくなるんじゃないかしら」
「そういえばキャリーナちゃん、もうジョブが発現しているんでしたね」
なんかのジョブについてると、普通の人よりお酒に強いんだって。
キャリーナ姉ちゃんはまだ子供だからちょっとおかしくなっちゃったけど、そのおかげで冷めるのも早いんだってさ。
「ところで、森でワインを造ったんですか? 樽なんか無いでしょうに。あっ、そうか。ルディーン君が木を使って作ったんですね」
「違うよ! ワインのブドウを食べちゃったって言ったじゃないか!」
僕、ちゃんと教えてあげたよね。
なのにルルモアさん、間違っちゃうんだもん。
大人なのにダメだなぁ。
「えっと、ブドウのお酒がワインよね。それとは違うの?」
「それがね、ハンスが私にばれないようにと悪知恵を働かせてブドウのまま中身をお酒にしてしまったのよ」
それを聞いたルルモアさんはびっくり。
「そんなこと、できるんですか?」
「それができちゃったのよ。現物があるから、見てみる?」
お母さんがそう言ってワインのブドウを渡したんだよ。
そしたらルルモアさんは、すっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「これ、ピノワール種じゃないですか。こんなものが森の中で自生していたのですか?」
「ピノワール?」
急にそんなこと言われても解んないでしょ。
だからお母さんも僕も、頭をこてんって倒したんだ。
そしたらそれに気が付いたルルモアさんがごめんなさいして、ピノワールってのが何なのかを教えてくれたんだよ。
「ピノワール種というのはワイン用に作られているブドウの品種で、それで作られたものはワインの最高峰と言われているんです」
どうやらこのブドウ、ワインを造るのの中ではかなり有名なものだったみたい。
だからそんなのが森に中になってるって知って、ルルモアさんはびっくりしたみたいなんだ。
「この種類のブドウは、育てるのが難しいと言われているのです。それなのに、これほど立派な房がなっているなんて」
それにね、このブドウは作れる人が少ないんだって。
なのに僕たちが採ってきたブドウが普通のよりも房が大きかったらか、そのことにもびっくりしたんだよって教えてくれたんだ。
「そもそもこの種は粒が小さく、ひと房に付く数もそれほど多くないのです。だから収穫量もそれほど多くないんですよ」
「でもこれ、そんなに小っちゃくないよ」
僕がワインにしたの、前の世界にあった巨峰ってのよりちょびっとだけ小さいだけなんだよね。
これ、皮が厚くて種もおっきかったでしょ。
もっと小っちゃかったら、食べるところがほとんどなくなっちゃうんじゃないかな。
僕がそう言うとね、ルルモアさんはだからワインを造る為だけに作られているのよって。
「それに房の大きさも、私が知っているものの倍くらいあるのよ。だから不思議で」
ルルモアさんがそう言うとね、後ろでちっちゃくなってたお父さんがこんなこと言ったんだよ。
「ベニオウの実も、魔力溜まりの影響で甘くて大きな実がついてましたよね。それと同じなんじゃないですか?」
「帰って来た時間からすると、そんなに森の奥の方で採れたわけじゃないですよね? それなら影響はほとんど無いと思うのですが」
そういえばベニオウの実も、森の入口の方で採れるのはそんなにおっきくないって言ってたもんね。
これは倍くらいになってるっていうんだから、違う理由なのかも?
「まぁそれに関しては、私たちが考えても仕方がありませんね。ところで、ブドウの形のまま作ったワインというのはおいしくできたのですか?」
「ええ。特にこの種で作ったのはすごくおいしかったみたいですよ」
お母さんがワインのブドウを見せながらそう言うと、ルルモアさんはかなり気になったみたい。
一粒もらっていい? って聞いてきたから渡すと、そのままお口にポイって放り込んだんだ。
「なるほど。少々若いですが、確かにかなり上質ですね」
ゆっくりと味わいながらそんなこと言うルルモアさん。
でもね、僕はそれを聞いて頭をこてんって倒したんだ。
「若いってなに?」
「ああそれはね、作ったばかりのワインのことを若いっていうのよ」
「そんなの、さっき作ったばっかりだから当たり前じゃないか」
僕がそう言って笑うと、ルルモアさんもそうねってにっこり。
「本当ならワインができるまでにかなりの時間がかかるのよ。でもルディーン君はこれをスキルで作ったんでしょ。だから違いがあるのかなぁって思ったのよ」
「そっか。じゃあさ、どうなったら若く無くなるの?」
「普通は樽で何年か寝かせて、熟成させればいいのよ……って、ルディーン君。前にベニオウのお酒を熟成させたことあるじゃない」
言われて気が付いたけど、ワインもベニオウのお酒もおんなじお酒なんだから熟成スキルでおいしくなるよね。
「そっか。じゃあ、これにもおいしくしてあげるね」
それを聞いた僕は、ルルモアさんが持ってるブドウの房に熟成をかけようとしたんだよ。
でも何でか知らないけどルルモアさんがちょっと待ってって言うんだ。
「ブドウの形のままワインになったものなんてとても珍しいから、この状態のままフランセン様たちにお見せした方がいいと思うのよ」
「ロルフさんたちに?」
「ええ。喜ぶと思うわよ」
そういえばお父さんも僕に、ブドウのまんまワインにできるの? って聞いてきたもん。
きっとロルフさんやバーリマンさんだって、ワインのブドウなんて見たことないよね。
「解った! 後で錬金術ギルドに持ってくね」
「あっ、ちょっと待って。私も聞きたいことができたから、人をやって冒険者ギルドに来て頂けませんかって頼んでみるわ」
僕がすぐに駆けていきそうって思ったのか、ルルモアさんは大慌てでこんなこと言ったんだよ。
キャリーナ姉ちゃんが寝てるから、そんなことするはずないのに。
「そうだ! キャリーナ姉ちゃんは? お姉ちゃん寝ちゃってるけど、どうするの?」
「それは大丈夫。職員用の宿直室があるから、そこに寝かせてもらえばいいわよ」
そこにはちゃんとベッドもあるんだって。
だからキャリーナ姉ちゃんは自然に起きるまでそのまま寝かせておいて、僕たちはロルフさんたちが来るまでおしゃべりしながら待ってることになったんだ。




