645 エリィライスの生えてる場所が解るのは大事なんだって
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
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まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
採取専門の人がなんでみんな、狩りをする人たちとおんなじ方に行くのか解ったでしょ。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、そうなのかぁって感心してたんだ。
でもね、ルルモアさんは僕たちがもっとびっくりすることを言いだしたんだよ。
「それにね、人がいないところに行ったからといって、薬草が残っているとは限らないのよ」
「ええ、なんで? 採る人がいないならいっぱい残ってるんじゃないの?」
みんなが生えてるのを摘んだからなくなっちゃうっていうのなら解るよ。
でも、誰も行かないのに無くなるなんて変だもん。
だから僕、ルルモアさんになんで? って聞いたんだよ。
そしたらさ、それを食べる動物がいるからだよって。
「病気にかかったりケガをしたりしたら薬草を使って治すでしょ。それは私たちだけじゃなく、動物も同じなのよ」
「そっか! 他の動物や魔物に襲われたりしておケガをすることもあるもんね」
僕たちに効くんだから、動物のケガにだって効くのは当たり前だ。
それにね、人が来ないからこそ、そこの薬草を食べにくる動物もいるんだって。
「森にはシルバータミアスの毛皮のように、あまり強くなくて狩りやすいのに人にとって価値のあるものもあるでしょ。そういう動物は、人が来ないところでしか木の下に降りてこないのよ」
シルバータミアスっていうのは灰色っぽいのと白っぽいの、二つの銀色の毛を持つおっきなシマリスなんだよ。
その毛皮はとってもきれいだから大人気だけど、シルバータミアスはすっごく弱ちい動物だから普段は木の上に隠れてるんだ。
「薬草は地面にしか生えてないもん。森の左っ側だと人がいっぱいいて採りに行けないから、おケガをしたら右っ側に行くんだね」
「そういうこと。これはシルバータミアスだけに限った話じゃなくって、冒険者から逃げた大型の動物もケガが治る前に人間に会うと困るから縄張りを離れてそちら側に薬草を採りに行くことがあるのよ。だから人が来ないからといって、薬草が残っているとは限らないってわけ」
行くのが大変で、もしかするとおケガをした大型の動物がいるかもしれない。
そんなとこだったら、余計に採取専門の人は行きたがらないよね。
僕がそう思いながらうんうんうなずいてたらね、お母さんが不思議そうに聞いたんだよ。
「採取専門の人はあまり行かないんですよね? それならなぜ、エリィライスが生えてる場所を調べる必要があるのですか?」
そういえばそうだよね。
採りに行く人がいないんだったら、どこに生えてるのかなんて調べなくってもいいもん。
だから僕もなんで? って聞いたんだよ。
そしたらルルモアさんから、こんな答えが返ってきたんだ。
「理由はいくつかあるのですが、一番の理由はある場所が確定していれば誰でも採りに行けるということです」
どこに生えてるのか解んなかったら、森の中を探さなきゃダメでしょ。
でもはじめっから解ってたら、そこにまっすぐ行けばいいもん。
だから生えてる場所を見つけるのは大事なんだって。
「薬草などの特殊な採取物と違って、エリィライスは誰が見ても一目でそれと解るでしょ。場所が解っていれば、採取専門の冒険者でなくても採りに行けるじゃないですか」
「そっか! 普段狩りをしてる人だったら、動物が出てくるところでもへっちゃらだもんね」
採取専門の人だから危ないってだけで、普段ブルーフロッグとかを狩ってる冒険者さんなら大丈夫。
動物が出てきたらやっつければいいだけだから、そういう人を冒険者ギルドが指名して採ってきてもらうつもりなんだってさ。
「いくつか理由があるとのことだけど、他にはどんなのがあるんだ」
「そうですねぇ。日があたる場所とあたらない場所との生育比較とか、どの程度の水があれば育つかを調べるなどが挙げられますが、人があまり荒らしていない状況下にあるエリィライスを採取したいというのが一番の理由でしょうか」
このお返事を聞いて、お父さんとお母さんはよく解んないってお顔をしてるんだよ。
だからルルモアさんはちょっと苦笑いしながら、その理由を教えてくれたんだ。
「最初にエリィライスがとても有用な植物であると解ったと言いましたでしょ。我々、というよりイーノックカウの上層部がその種を採取し、栽培しようと考えているのです」
「栽培というと、あれを育てるのですか? 麦みたいに?」
これを聞いたお父さんたちはびっくり。
「雑草のようにどこでも生えてますよね、あれ。わざわざそんなことをしなくても、採りに行けばいいだけじゃないですか」
お父さんの言う通り、エリィライスは森の中にいっぱい生えてるでしょ。
だから麦とかを作ってる畑でわざわざ作る必要は無いんだよね。
でもルルモアさんは、そうじゃないんだよって。
「いえ、栽培するのはイーノックカウではなく、他の地域です」
他のところだと、麦やお野菜をあんまり育てられないところもあるんだって。
そういう所は食べる物があんまりないから、これを植えたらいいんじゃないかなぁってイーノックカウの偉い人たちが言ってるんだってさ。
「エリィライスは知っての通り、一本から食用の種が麦以上に採れます。その上食べるために粉にする必要もなく、調理するとかなり膨らむ。かなり理想的な農作物になり得るのです」
「言われてみると、確かにそうですね」
「ですのでなるべく自然な状態の物を採取し、その種子を研究したいらしいんですよ」
人がいっぱい入ってるとこだと、靴についた土とかでお水が汚れたところのを採らないといけないでしょ。
でも、これから行くところはほとんど人が来ないとこだもん。
そこに生えてるのだったらほんとに自然のまんまだから、そこのを採ってきて研究したいんだってさ。
「ですのでカールフェルトさんたちも、あくまで場所を特定するだけ。採取したいというお気持ちはわかりますが、そのまま手を付けずに地図に書き込むだけにとどめて欲しいのです」
「ええ、それくらいなら構いませんよ。今日の目的はエリィライスではなく、ゴブリンの集落の探索ですから」
「助かります」
ルルモアさんはそう言うと、前にポイズンフロッグを探しに行った時に貸してくれたような地図と、先っぽに小さなインクつぼの付いたペンを出してきたんだ。
「エリィライスの生育場所が見つかったら、この地図に書き込んでください」
ゴブリンの村はとってもおっきいはずだもん。
見つけたら解んなくなっちゃうことなんてないから、その場所を書く地図なんて持ってないんだよ。
でもエリィライスの生えてる場所はそんなにおっきくないから、ちゃんと地図に書いとかないと解んなくなっちゃうでしょ。
だからルルモアさんはそう言ってお父さんに地図を渡したんだ。
「できるだけ多く見つけて貰えたらありがたいそうです。でも、上層部がなんと言おうと今回の目的はあくまでゴブリンの集落の探索だということはお忘れなく」
「解ってます。そっちが見つかったらすぐに切り上げて帰ってきますよ」
「お願いします」
そう言ってペコって頭を下げるルルモアさん。
僕たちはそんなルルモアさんに笑顔でバイバイしながら、冒険者ギルドを出て森へと向かったんだ。




