643 ノートンさんも作り方を覚えたいんだって
先日から新しい連載を始めました。
題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」
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まだ始まったばかりなので状況説明的な話が続きますが、すぐに異世界の人たち(主に子供たち)とわちゃわちゃする話になる予定です。
テイストは少し転生0と違いますが、基本ほのぼの路線で進みますのでよかったら読んでみてください。
クレイイールを焼いたお料理、いっぱいあったのにみんながおいしいおいしいってすぐに食べちゃったでしょ。
だから試食はおしまい。
そのおかたずけをしなきゃって思ってたらね、ノートンさんが僕にお話があるんだって言ってきたんだ。
「ノートンさん、お話って何?」
「あのしょうゆっていう調味料のことなんだが、君は発酵スキルを使って作ったと言っていたよな。ということは、時間さえかければ俺でも作れるってことか?」
さっきロルフさんがクレイイールを食べた時、すっごくおいしそうに食べてたでしょ。
それにロルフさんのお孫さんも食べるのが大好きな人だから、お醤油のことを知ったら絶対気に入ると思うんだって。
だからノートンさんは、自分でもお醤油が作りたくなったそうなんだ。
「うん。作れると思うよ」
「そうか。ならそれ相応のお礼はするから材料とその製法、そして発酵に必要な種元をもらえないだろうか?」
ノートンさんは僕が持って来るまでお醤油のことを知らなかったでしょ。
だから作り方が全然解んないみたい。
それにノートンさんは錬金術が使えないから、発酵スキルも持ってないもん。
僕と違って発酵させるための元が無いと、お醤油を作ることができないんだって。
「うん、いいよ」
「えっと……あっさりと承諾したけど、ほんとにいいのか?」
お醤油は、ノートンさんでも今までに聞いたことのないくらいめずらしい調味料でしょ。
普通だったらどうやって作るのかを教えてくれるはず無いんだって。
でも僕、お醤油のことを秘密にしたってしょうがないもん。
それに僕が作るだけだったら、ほんとにちょびっとずつしか作れないでしょ。
だから今のまんまだと、グランリルの村の人たちが欲しいっていったら困っちゃうんだ。
「ノートンさんがいっぱい作れるようになったら、いっぱいおいしいものを作れるようになるもん。だからいいよ」
「ありがとう。旦那様に言って、できる限りのお礼はする」
そう言ってペコって頭を下げるノートンさん。
でも僕、それを聞いて頭をこてんって倒したんだ。
「ありがとうって言ったのに、またお礼するの? ありがとうは一回でいいよ」
「いや、そういう意味では」
ノートンさんはそう言うと、ちょっと困ったお顔になっちゃったんだよ。
だからどうしたんだろうって思ってたら、近くでお話を聞いてたのかなぁ?
お母さんが寄ってきて、こう言ったんだ。
「ルディーンの言う通り、お礼はもういいですよ。ノートンさんにはいつも良くしてもらってるみたいだし」
「いや、でも」
「ルディーンは作りたいものを作っただけでしょ。喜んでくれるのならそれでいいのよね」
「うん!」
僕が元気にお返事するとね、お母さんはほらねって笑ったんだ。
おかたずけが終わったところで僕とノートンさん、それにカテリナさんも覚えたいって言ったから三人でお醤油のお勉強。
「なるほど、ソイ・シードと粉にする前の小麦が材料なのか」
「うん。僕は大豆って言ってるんだけど、まずそれを柔らかくなるまで蒸して、小麦の方は炒ってから細かく砕いとくんだ」
でも今からお買い物に行くには、もうちょっと遅い時間でしょ。
だから今日は作り方だけ教えることになったんだよ。
そうしとけば、僕たちがゴブリンの村を見つけて帰ってきたらすぐに作ることができるからね。
「火の入れ方に違いがあるのは、何か理由があるのか?」
「解んない。でも大豆を蒸すのは、茹でると中に入ってるのがお水に溶けだしちゃうからなんだって」
「なるほど、味を中に閉じ込めるのです」
二人はそう言いながら、木の板にやり方を書いて行く。
「大豆は潰してから小麦と混ぜるんだな」
「うん。でね、そしたらここで発酵スキルを使うんだよ」
僕がそう教えてあげると、カテリナさんが不思議そうに聞いてきたんだ。
「お塩は入れないですか?」
「ああ、それは塩を入れると発酵に必要な種菌が増えないからだろ」
ノートンさんはスキルは持ってないけど、発酵のことはお勉強したことがあるんだって。
だからその時、腐っちゃわないように気を付けないといけないんだろ? って僕に聞いてきたんだ。
「うん。今みたいにちょっとあっつい時は増えやすいみたい。でも腐りやすくもあるから、たまにかき混ぜて空気を入れ替えてあげないとダメなんだって」
僕はスキルであっという間に終わらせちゃうけど、ほんとだったら3日くらいかかるんだよ。
だからその間、腐っちゃわないように見ててあげないとダメなんだ。
「それが終わったら、いよいよ塩か」
「うん。お塩を水に溶かして、それを大豆と小麦に混ぜるんだ。そしたら菌が増えなくなるからまた発酵スキル。そうするとブクブク言いだして、だんだん茶色くなってくんだ」
これも僕はスキルで終わらせたけど、普通は50日くらいかかるんだって。
それを教えてあげるとカテリナさんはびっくりしてたんだけど、ノートンさんはまぁそうだろうなぁってうんうん頷いてるんだよ。
「チーズを作る時も、発酵にはかなりの時間がかかるだろ? あれと同じだ」
「ああ、そう言われると解るのです」
発酵させた調味料の作り方は知らないけど、チーズの作り方はカテリナさんも知ってたみたい。
だからノートンさんの説明を聞いて、これからはチーズの作り方を参考に考えるよってにっこり笑ったんだ。
でもね、チーズとは違う所もあるから、僕は忘れないように教えてあげたんだよ。
「この時のをもろみって言うんだけど、これって大豆とかが入ったままだからチーズと違ってドロドロでしょ。だからかき混ぜてあげないと、ちゃんと発酵しないんだって」
「なるほど。チーズというよりワインの作り方に近いのか」
ワインも作る時、潰したブドウをかき混ぜてあげないとダメなんだって。
「そうなの?」
「ああ。かき混ぜてやらないとうまくアルコールができなくて、腐らせてしまうこともあるらしいな」
ノートンさんはそう言いながら、木の板に書き書き。
それが終わるのを待って、僕は次のお話をしたんだよ。
「もろみ全体が黒っぽい茶色になると、ほとんどブクブクしなくなるんだ。そしたらここから熟成。これはね、そのままやると180日くらいかかるみたい」
「ああ、それに関しては大丈夫。発酵と違って、熟成は俺も使えるからな」
「私も使えるのです」
錬金術が使えないと覚えられない発酵スキルと違って、熟成スキルはお菓子屋さんのアマリアさんも使えたでしょ。
どうやらノートンさんたちも同じように使えるみたいで、ここからの作業はあんまり時間をかけなくっても作れるんだって。
「そっか。ならすぐ終わるね。そしたら今度は下にお醤油が出てくる穴の開いてる入れ物の中に布ともろみを交互に何回も重ねてって、全部入れ終わったら上に重しをするんだよ」
「なるほど、その重さで時間をかけて搾っていくんだな」
「うん。でね、搾り終わったお醤油は大豆のカスとかが入ってるでしょ。それに大豆には油も入ってるから浮いてくるもん。だから1日2日か置いとくんだよ」
そうしとけばお醤油といらないものが解れちゃうもんね。
「なるほど。それらを取り除けばしょうゆが完成するんだな」
「ううん、まだだよ。最後に一度火にかけてあっつくするの。そしたら菌が死んじゃうから、それで完成」
「うー、やることがいっぱいあるのです」
いろんなことをやらないとできあがらないって聞いて、カテリナさんは大変そうって言うんだよ。
でもノートンさんは逆の意見みたい。
「いや。あれだけ複雑な味の調味料を作るのに、これだけの手間でできるのはすごいと思うぞ」
「そうなのです?」
「ああ。それに熟成が使える俺たちならたった60日前後でできあがるんだ。それに材料の調達や加工もワインやチーズ、それに同じく熟成を必要とする生ハムなんかに比べたらはるかに楽と来ている」
僕もいっぱいやらないとダメだなぁって思ってるんだけど、そういえば大豆と小麦、それにお塩と水さえあればできるもん。
そう考えると、お醤油を作るのはそんなに大変じゃないかも?
「とりあえず、これで目途は立ったな。実際に完成させるまでは旦那様に作れるようになったと報告するわけにはいかないが、成功したら量産できるよう上申しなければいけないな」
ノートンさんはこう言ってるけど、僕は簡単に作れちゃうんじゃないかなぁって思うんだよ。
だってノートンさんもカテリナさんもすごい料理人さんだもん。
「ゴブリンの村を見つけたら、みんなで作ろうね」
「ああ。発酵スキルを使って作る工程を見せてもらえば、俺たちだけで作る時の参考になるから頼む」
帰ってきたらいっしょにお醤油を作る約束をして、僕たち三人のお勉強会は終わったんだ。




