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641 ロルフさん、お醤油のこと知らなかったんだね

 お話が終わって帰ってくご近所さんたち。


 それを見送った後、ロルフさんはノートンさんにこんなことを聞いたんだよ。


「して、クラークよ。この香りは何じゃ? 前に出してもらったクレイイールの料理の香りではないようじゃが」


「そうそう。私もそれが気になって、伯爵との会議に身が入らなくなっていたのよ」


 それを聞いたバーリマンさんも、一緒になってノートンさんにこれは何って。


 そっか、においはお家の外だけじゃなくって中にだって入ってくもん。


 ロルフさんやバーリマンさんが気になるのも当たり前だよね。


 そんな二人にノートンさんは、焼き台の横に置いてある鍋を指さしたんだよ。


「これはルディーン君が持って来てくれたしょうゆという調味料に砂糖と蒸留酒を混ぜて作ったたれです。クレイイールにつけながら焼くと、そのたれが脂と一緒に炭の上に落ちてとてもいい香りがするのはお二人も経験したのでお分かりですね」


「ルディーン君が持ち込んだ?」


 ノートンさんのお話を聞いて、こっちを見るロルフさんとバーリマンさん。


 だから僕、二人に教えてあげたんだよ。


「あのね、これにはクレイイールの頭を焼いたのも入ってるんだよ。それを入れると、たれがもっとおいしくなるんだ」


 僕はすごいでしょって言いながら、エッヘンって胸を張ったんだよ。


 でもね、ロルフさんたちが聞きたかったのはそのことじゃなかったみたい。


「いや、わしとしてはそのしょうゆとやらの方が気になるのじゃが」


「ええ。私も聞いたことがない調味料です。ルディーン君が作ったのですか?」


 そっか、前にお醤油を持ってきた時はノートンさんたちとお料理を作っただけで帰っちゃったもん。


 あれからあんまり日にちが経ってないから、まだお醤油を使ったお料理を食べてなかったんだね。


「うん。こないだ来た時に大豆って言うお豆を見つけたんだ。これはそれと小麦を混ぜて、お塩を入れたのを発酵させたらできるんだよ」


「実は先日ルディーン君が家族でこの街を訪れると知らせに来まして、その時にこのしょうゆも少量ですが預かっているのです」


 ノートンさんのお話を聞いてびっくりしたお顔になるロルフさん。


「なんじゃと? わしは聞いておらぬぞ」


「はい。何分つい先日のことで、それから旦那様とお会いする機会がなかったもので」


 お醤油を持ってきたのって、みんなでイーノックカウに来るよって言いに来た時だもん。


 帰る時に僕、ノートンさんと次来た時も一緒にお料理しようねってお約束したでしょ。


 ロルフさんには、そのお料理を出したらいいと思ってたんじゃないかなぁ?


 それにストールさんからもロルフさんに出せるお料理を研究しといてねって言われてたから、それができてないなら言ってるはずないよね。


「ロルフさん。僕が来たのってホントにちょっと前だもん。だからノートンさんを怒っちゃダメ」


 だから僕、両手をあげてしょうがないじゃないかってロルフさんに言ったんだよ。


 そしたら困ったお顔になって、怒ってないよって。


「あっ、いや。別に怒っておるわけではないぞ」


「ああ、旦那様は別に俺を叱ってるわけじゃない。ただ、なぜ報告しなかったのかと聞いているだけだよ」


 そっかなぁ、僕には怒ってるように見えたけど。


 そう思いながら頭をこてんって倒してたらね、バーリマンさんがおててをパンって叩いたんだよ。


「そんなことより、クレイイールよ。せっかく焼いたのだから、冷める前に食べないと」


「おお、そうじゃな。クラーク、用意をせい」


 せっかく焼いてたのに、ご近所さんたちが来たからそのままほったらかしになっちゃってるでしょ。


 だからそれを食べようよって言うバーリマンさんとロルフさん。


 でもね。


「ダメだよ。これはご飯と一緒に食べるために焼いてるんだもん」


「ごはん? ああ、そういえばエリィライスを調理したものをそのような名で呼んでおったな」


「これは試食のために焼いていたものなのね」


 僕がダメだよって言うと、ロルフさんたちはお米のことを思い出したみたい。


 それを試食するための物なら、これだけを先に食べちゃダメだねって。


「クラーク。して、エリィライスの方はどうなっておるのじゃ?」


「今、ムラシという段階に入っております。そういえばルディーン君。そろそろいいんじゃないか?」


 ノートンさんに言われて気が付いたけど、そういえばもう結構時間が経ってる気がする。


「うん。そろそろいいと思う」


「なら焼けた分だけ持って、厨房へ戻るか。旦那様、試食はそちらでされますか? それとも後程お部屋へ?」


 僕とノートンさんは、中に入ったらすぐに食べるつもりだったでしょ。


 でもロルフさんたちはお金持ちだから、立ったままごはんなんて食べないもん。


 だから後でお部屋に持って行った方がいいかなぁって聞いたんだよ。


 そしたらロルフさんは、そんなに待てないよって。


「これだけいい香りをかがされて待てというのは辛い。わしも厨房で一緒に試食するぞ。ギルマスもそれでよいな?」


「はい。私も待ちきれませんわ」


 それはバーリマンさんもおんなじだったみたい。


 ロルフさんに聞かれて、私も一緒に食べるよって言ったんだ。


「ルディーン、俺たちも一緒に食べていいか?」


「あっ、私も! 私たちも一緒に食べたいです」


 それにね、お兄ちゃんたちやニコラさんたちも一緒に食べたいっていうんだよ。


 だから僕、ノートンさんに聞いてみたんだ。


「ノートンさん、お兄ちゃんたちも一緒に食べていい?」


「ああ。ちゃんとした食事ならともかく、これからするのは試食だからな。問題はないだろう」


 ノートンさんがそう言ったから、お兄ちゃんたちやニコラさんたちは大喜び。


「それじゃあ、早く中へ行こう」


 特にディック兄ちゃんは待ちきれないみたいで、僕の背中を押しながらお家の中に入ろうとしたんだよ。


 でもね、まだダメなんだ。


「ディック兄ちゃん。お父さんたちやキャリーナ姉ちゃんもできるのを待ってるんだから、僕たちだけで食べるのはダメだよ」


「そうなのか。お父さんたち、今は部屋にいるんだよな? それなら俺が呼んでくるよ」


 ちっちゃい僕が呼びに行くよりも自分で行った方が早いと思ったのか、ディック兄ちゃんはそう言うとお家の中へ走っていっちゃった。


 それを見たロルフさんたちやテオドル兄ちゃんたちも、楽しみだねって言いながら厨房の中へ入っていったんだよ。


「ルディーン君。それじゃあ俺たちも中へ入るか」


「待って。あれも一緒に持ってかないと」


 ロルフさんに言われて僕が指さしたのは、たれが入ったお鍋。


「ん? もうたれは十分につけて焼いただろ?」


「あのね、クレイイールをごはんにのっけて食べる時は、上からあのたれもかけないとダメなんだよ」


 そりゃあ、焼いたクレイイールだけでも一緒に食べたらおいしいと思うよ。


 でもごはんにのっけて食べるんだったら、やっぱり上からたれをかけないとダメだと思うんだよね。


 それにおっきなクレイイールを切って串に刺したのを蒸したから、焼き台の横にはいっぱい積んであったでしょ。


 それを全部焼かないとダメだからって、ジュウジュウいってるクレイイールを何度もドボンドボンとつけてたもん。


 その分脂がいっぱい入ってるから、あれだけでもご飯にかけたら絶対おいしいと思うんだよね。


「そうか。おい、カテリナ。焼いたクレイイールは俺が運ぶから、お前はその鍋を持って来てくれ」


「解ったのですよ」


 そうお返事して、たれの入った鍋をよいしょっと持ち上げるカテリナさん。


「ルディーン君。これで忘れ物は無いな?」


「うん! 食べるのが楽しみだね」


「ああ。しょうゆで焼いたクレイイールの美味さは知っているが、たいたコメは初めてだからな。それが合わさった時、どんな味になるのか今から楽しみだ」


 僕とノートンさんはそう言って、ニコニコしながら厨房の中に入っていったんだよ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ノートンさんは料理長という立場から、中途半端なものをロルフさんに食べさせるわけにはいきません。


 なので数日前に手に入れた醬油も、きちっとした調理法を確立するまでは出すわけにはいかなかったんですよね。


 そんな訳でロルフさんへの報告を怠ったというわけです。


 さて、先日の水曜日から新しい話の連載を始めました。


 実は転生0の1巻が出るタイミングで担当さんに相談していたんです、書籍化に伴って注目度が上がるこのタイミングで新しい話を始めた方がいいかと。


 するとやってみたらとのお返事が。


 そこでその頃から準備を始め、やっと10話ほど書き溜められたのでアップすることにしました。


 題名は「魔王信者に顕現させられたようです ~面倒なので逃げてスローライフをしようと思ったらNPCが許してくれませんでした~」


https://ncode.syosetu.com/n1737jf/


 転生0とは少々テイストは違いますが、そこは私の書く話です。無双もしなければ世界も救いません。


 始まりはよくある最強ものっぽいのですが、異世界に顕現させられた主人公が異世界の人々、特に小さな子たちとわちゃわちゃのほほ~んと過ごす物語です。


 当然鬱展開などありませんし、それどころか戦闘さえほとんどありません。


 もしかすると、転生0以上にないかも? 戦闘シーン。


 基本ほのぼのなので、転生0を気に入って頂けた方々には楽しんでもらえるものになると思います。


 ですのでそちらの方も、もし宜しければ読んで頂けるとありがたいです。


 それと現在アップしてある話では次回更新は水曜日となっていますが、活動報告にも書いた通りこれだけだと内容がなさ過ぎて何が何やらわかりません。


 なので予定を変更して土日にそれぞれ2話と3話を、月曜日は転生0の更新があるのでお休みして火曜日に4話、そして本来の更新日である水曜日に5話をアップします。


 それ以降は毎週水曜日、転生0と同じく12時に更新する予定となっております。


 本当はちゃんと話が始まるところまで連続であげたいところですが、まだ書きあがっていない上に転生0の連載もあるのでそこはなにとぞご容赦を。

 

挿絵(By みてみん)


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