636 ご飯は炊くまでが結構大変なんだよ
ノートンさんとルルモアさんだけじゃなくって、ロルフさんまで一緒になって難しいお話を始めちゃったでしょ。
だからもうお米はできあがってるのに、僕たちはまだ小麦粉屋さんにいるんだよ。
「僕、早くお米が食べたいのに」
そんなことを言いながらロルフさんたちを見てたらね、バーリマンさんが声を掛けてきてくれたんだ。
「どうかしたの?」
「あのね。ロルフさんたちが難しいお話を始めちゃったでしょ。でも僕、お米が食べたいから早く終わらないかなぁって思ってたんだ」
「確かに、このタイミングでする話ではないですわね」
バーリマンさんはそう言うと、そのままロルフさんたちのところへ行っちゃったんだよ。
「伯爵。ルディーン君は明日も森に探索へ出なければいけないのですよ。それなのにここで時間を使わせてどうするのですか」
「ん? おお、そうじゃった、そうじゃった」
バーリマンさんに言われて、難しいお話は終わったみたい。
「ここでの作業は終わったようじゃな。ならば場所をルディーン君の館に移すとしよう」
そのまんま、みんなで僕んちに行くことにしたんだよ。
「わしとギルマス、それにルルモア嬢はちと話があるからルディーン君のことは頼んだぞ、ライラ、クラーク」
「「お任せ下さい、旦那様」」
さっきの難しいお話はまだ続くみたい。
でも、僕がいっしょにいてもしょうがないでしょ。
ってことでロルフさんとバーリマンさん、それにルルモアさんと料理の錬金術師さんとはここで一旦お別れ。
それにね、お父さんたちやキャリーナ姉ちゃんもここでお別れするんだって。
「俺たちが厨房に行っても邪魔になるだけだからな」
「ルディーン、おいしいのができたら呼んでね」
「うん!」
ってことで僕たちは先にお台所に行って、お米を食べる準備をすることになったんだ。
「あっ、ルディーン君。おかえりなのです」
「カテリナさん、ただいま!」
お台所に行くとね、イーノックカウの僕んちで料理長をしてるカテリナさんがいたんだ。
ってことで、ここからはカテリナさんも合流。
「それじゃあ、調理を始めるとするか」
ノートンさんの号令でお米のお料理を始めることにしたんだよ。
「ところでこれ、どうやって調理するんだい?」
エリィライスは、鑑定解析を使って初めて食べられるって解った草だもん。
ノートンさんもお料理の仕方が全く解らないみたい。
「小麦のように粉にするわけではないというのは聞いているのだが」
「あのね、お米は炊いて食べるんだよ」
「タク、なのですか?」
だから炊いて食べるんだよって教えてあげたんだけど、ノートンさんもカテリナさんもよく解んないみたい。
「それは蒸すと同じように、特殊な道具がいる調理法なのかい?」
「ううん。お鍋の中にお米とお水を入れて火にかければいいんだよ」
これを聞いたノートンさんとカテリナさんは、余計に解んなくなったようなんだよね。
「それは茹でる、違うなのですか?」
「わざわざ異なった表現をするということは別の調理法なのだろうが、それだけ聞くと違いが全く解らん」
そっか、茹でる時もお鍋にお水と材料を火にかけるもんね。
それしか言わなかったら解んないか。
僕はうんうん頷くと、炊くってのがどういうのなのか教えてあげることにしたんだ。
「お水を入れるのはおんなじだけど、お米がぜんぶ吸っちゃうくらいしか入れちゃダメなんだよ」
「全部吸う?」
「うん。お米はお水を吸ってふくらむの。だから、ちょうどおいしくできるくらいの量を入れないとダメなんだ」
僕がお米の炊き方を教えてあげるとね、ノートンさんはちょっと考えた後こう言ったんだ。
「同じ穀物の扱いから考えた予想なんだが、パンを作る時に生地に含ませる水分量、それに適量があるのと同じようなことなのか?」
「うん。少ないと硬いし、多すぎるとべちゃってなるんだよ」
「なるほど。本当にパンを作る時の水分量と同じような扱いなんだな」
パンも、生地に入れるお水の量があってないとおいしく作れないでしょ。
ノートンさんはそのことを思い浮かべながら、お水を入れて炊くっていうのがどんなものなのかを想像してるみたい。
「まぁ、あれこれ想像するより実際にやってみた方が早いか」
「うん。僕も早くエリィライスが炊き上がったの、食べてみたい」
ってことで、とりあえずお米を炊いてみることになったんだけど……。
「あっ、そっか。普通のお鍋じゃダメだ」
ノートンさんが出してきたお鍋を見て、お米を炊く時はそれ用のを使わないとダメだって思い出したんだよね。
「特殊な鍋がいるのか?」
「うん。あのね、お米を炊く時は中の湯気がお外に出ないようにしないといけないんだよ。だから重たい蓋が付いたお鍋じゃないとダメなんだ」
ご飯用のお釜はおっきい木の蓋が乗っかってるし、土鍋の蓋も土でできてるから重たいでしょ。
僕、そういうお鍋じゃないと途中で蓋がカタカタいってうまく炊けないんだよって教えてあげたんだ。
「なるほど、重い蓋がいるのか。それならいいものがあるぞ」
それを聞いたノートンさんは、ちょっと離れたところにある戸棚のところへ。
そこを開けると、中から黒くておっきな鍋を出してきたんだ。
「これはオーブンが足りない時に使う鍋でな、本体だけじゃなく蓋も鋳物でできてるから、とても重いんだぞ」
あっ、僕その鍋知ってる!
オヒルナンデスヨでやってたキャンプ特集ってのに出てきたやつだ。
確かダッチオーブンていうんだよね。
「本来はこの蓋の上にも熱源を置いて上下から熱を加えるための特殊鍋なんだが、これならタクって言う調理に使う鍋の条件にあってるだろ?」
「うん。このお鍋なら吹きこぼれないと思うよ」
これならお釜にのっけるおっきな木の蓋より重たいもん。
お鍋が吹いてきても湯気で持ち上げられてカタカタいう心配ないよね。
「よし。それじゃあ早速、そのタクってのをやってみるか」
ノートンさんはそう言うとね、そのお鍋に持ってきたお米を入れようとしたんだよ。
だから僕、慌てて止めたんだ。
「ダメだよ。その鍋、すっごく重たいんでしょ。最初っからそれに入れちゃったら、研ぐのが大変だもん」
「トグ? また、新しい言葉が出て来たな。それはどんな行程なんだ?」
「さっき漬物に使った黄色い粉、お米にはまだあれがついてるんだ。それを取るためにお水に入れて何回かごしごししないとダメなんだよ」
僕は近くにあったボウルにお米とお水を入れると、そこに手を入れてギュッギュッて研いだんだよ。
そしたらお水があっという間に真っ白になっちゃったんだ。
「確かに、かなりのぬかが残っているようだな。ふむ。ちょっと俺にもやらせてくれないか?」
ノートンさんがそう言ったので交代。
すると力いっぱい研ぎ始めたもんだから、僕はまた大慌てで止めたんだ。
「そんなに力一杯やったら、お米が割れちゃうよ」
「おお、そうか」
僕がもっと優しくやらないとダメっていうと、ノートンさんはさっきよりも力を抜いてギュッギュッて研ぎ始めたんだよ。
「これは水が透明になるまで繰り返すのか? あっ、いや。違うな」
ノートンさんも料理スキルを持ってるでしょ。
だから研いでるうちに、どれくらいやったらおいしくなるのか解ったみたい。
「この白いのはぬかだけじゃなく、エリィライスに含まれた味の一部でもあるのか。ならこれくらいで終わらせた方がいいな」
2回目の白くなったお水を捨てた後、お米をダッチオーブンの中にざらざらって入れたんだよ。
「あとは水分量だが、できあがりを知らない俺では流石に解らない。教えてもらえるかな?」
「うん!」
僕はそう言うとお米の上におててをのっけて、その上までかぶるくらいお水を入れたんだ。
「ノートンさんは僕よりおててがぶ厚いけど、その分おっきいでしょ。だからこのやり方で同じくらいのお水の量になると思うよ」
「なるほど。流石に俺の手ぜんぶに水がかぶるほどではないが、それほど大きな違いは無いみたいだな」
ノートンさんのおてて、思った以上に厚かったみたいでお鍋に入れてみたらお水よりも上に来ちゃったんだよ。
でもそんなにいっぱい出てたわけじゃないから、どれくらいお水を入れたらいいのか大体解ったみたい。
「それじゃあ、あとは蓋をして火にかければいいんだな」
「待って! まだダメだよ」
「まだ何かやることがあるのか?」
「うん。このまましばらく置いて、お米にお水を吸わせないとダメなんだよ」
このまま火にかけても炊けるけど、30分くらい置いた方がおいしくなるってオヒルナンデスヨで言ってたもん。
だからそのことを教えてあげると、意外と気を付けないとダメなことが多いんだなってノートンさんは笑うんだ。
「だが、しばらく放置するとなると時間が空いてしまうな」
「うん。だからね、その間におかずを作ろうよ」
ご飯はパンと違って、おかずが無いとおいしくないでしょ。
だから僕、この時間で何かご飯に合うものを作ろうって思ったんだ。




