634 高いのは普通のお塩じゃないんだって
「こうなったらもう止められないから、一度落ち着きましょうね」
入れ物からザアザアあふれ出てくるお塩を見て慌ててたんだけど、そんな僕にバーリマンさんがこう言ってくれたんだ。
「どうしよう。お塩だらけになっちゃったよ」
でも、お塩は入れ物からどんどんあふれ出ちゃってるでしょ。
だから僕、どうしようっておろおろすることしかできなかったんだよね。
「あんな小さな入れ物の中で塩を創り出したのだから仕方がないわ」
「私、ほうきを借りてきます」
それを見て仕方ないなぁってお顔で言うバーリマンさんと、慌ててお部屋の外に出てくルルモアさん。
「まぁ誰にでも失敗はあるんだから、そう気にするな」
そしてノートンさんが大きな手で頭をなでてくれたことで、僕はやっと落ち着くことができたんだ。
「なるほど。ヌカドコとやらを作るために必要だったから、塩を作ったのじゃな」
「うん。でも、なんであんなにいっぱいできちゃったんだろう?」
お砂糖を作った時は、あれくらいの大きさの魔石で1キロよりちょっと多いくらいしかできなかったでしょ。
イーノックカウのお店で見た時、お砂糖より安かったけどお塩だって高かったもん。
だから10キロもできないだろうなぁって思って、ノートンさんにあの入れ物を持って来てもらったんだよ。
でもできあがったお塩は、溢れちゃったほうが入れ物の中にあるのより多いんだよね。
「なぜも何も、ルディーン君が持っているということは一番小さな魔石でもホーンラビットのものでしょ。それならこれくらいできてもおかしくないわ」
「ええっ!」
バーリマンさんにそう言われて、僕はすっごくびっくりしたんだよ。
「なんで? お砂糖の時はこれくらいしかできなかったよ」
僕が手でこれくらいの量だったよって教えてあげると、それを見たバーリマンさんはそうでしょうねって。
「塩と砂糖は見た目が似てるから勘違いしてしまったのね。でも創り出すのに必要な魔力が違うから、同じ大きさの魔石を使ってもできあがる量はかなり違うのよ」
「でもでも、前にお店でお塩をお砂糖と一緒に売ってるのを見たけど、こんなに差は無かったよ」
前にお爺さん司祭様が、お砂糖が高いのは魔法使いさんたちが魔石を使って作ってるからだよって言ってたでしょ。
その時、この近くには取れるところが無いからお塩も魔法で作ってるって言ってたもん。
ならお値段があんまり変わらないお塩がこんなにいっぱいできるの、おかしいよね。
「いや、そんなことは無いはずなんだが」
でもね、そんな僕のお話を聞いてノートンさんが頭をこてんって倒したんだよ。
「市場での価格は砂糖が1キロで20000セント前後、それに対して塩は150セント程度のはずなのだが」
「そんなはずないよ。だって僕が見た時、そんなに違わなかったもん」
僕は前にお店に並んで売ってるのを見て、お砂糖の方が高いんだなって思った時のことを教えてあげたんだよ。
そしたらノートンさんは、何か納得したってお顔になったんだ。
「それ、ただの塩じゃないぞ」
「どういうこと?」
「砂糖と普通の塩では値段に差がありすぎて並べて売るなんてことは無いんだ。なのに並べてあったということは、それは多分、天然のものか一部の魔物からとれる魔素塩だ」
「まそえん?」
この近くにはいないそうなんだけど、お塩の湖とかがあるところに住んでる魔物の中には体の中にお塩の塊をためてるものがいるんだって。
そのお塩は魔物のお肉とおんなじで、かなり多くの魔素を含んでるそうなんだよ。
そのお塩を使った方がお料理がおいしくなるから、普通のお塩なんかよりもずーっと高いんだってさ。
「それに海という塩を大量に含む水がある場所や塩の湖の近くで取れる岩のようになった塩塊、これら天然の塩は遠くから運んでくるから魔法で作る物に比べて値が張るんだ」
イーノックカウって大陸の奥の方にあるんだよ。
だから海からお塩を運ぼうと思ったらすっごく時間とお金がかかるんだって。
「わしも孫から聞いたことがある。天然の塩はいろいろな成分が入っておるから、取れる場所ごとで味が違うそうじゃな」
「はい。こだわる料理人は、複数の塩を使い分けていると聞いたことがあります」
「うむ。金が多少かかっても、わざわざ取り寄せる者がおると我が愛しの孫も話しておったわ」
天然のお塩はみんな味が違うから、作るものによって一番合うものを使う料理人さんもいるんだって。
おいしいお料理を出すお店の方が、普通のお店よりお客さんがいっぱい来るでしょ。
だからすっごく高くなっても買う料理人さんがいるんだよってノートンさんが教えてくれたんだ。
「俺も旦那様に出すために海のものといくつかの種類の塩塊、それに魔素塩を厨房にそろえてるからなぁ」
ノートンさんがうんうんとなずきながらそんなこと言ってたらね、ルルモアさんがほうきを持って帰ってきたんだよ。
「塩の種類の話ですか?」
「ああ。ルディーン君が高い塩を市場で見たというからその説明をしていたんだ」
それを聞いたルルモアさんは、そう言えば高いお塩、ありますよねって。
「この街は領主様が集めてくれたおかげで有名店が多いですからね、そのような高価な塩もかなり入ってきているって話ですよ」
「僕が見たのは、そんな高いお塩だったのか」
僕、他のお店でお塩を見たことなかったもん。
だからあれくらいしてもおかしくないんだろうなぁって思ってたんだよ。
でもね。
「大体、塩が砂糖とあまり値段が違わなかったら、ほとんどの人たちが塩を口にできないだろうが」
「そうですね。砂糖と違って塩は無いと生きていけませんから、1キロ買うのに金貨が必要だなんてことになったら街が滅んでしまいます」
そっか。甘いものは無くっても平気だけど、お塩が無いとパンも焼けないしお料理だってできないもん。
そんなに高かったら、みんな困っちゃうよね。
「そうね。だからあれほど多くの塩が、小さな魔石から作れるのかもしれないわ」
「うむ。創造の女神ビシュナ様か、豊穣の女神ラクシュナ様がそう取り計らってくださったのかもしれぬのぉ」
この世界って、ほんとに女神さまが作ったんだもん。
お塩が無いとみんなが困っちゃうからって、いっぱい作れるようにしてくれたのかもしれないね。
「だからルディーン君。次に作る時はもっと大きな、それこそ君が入れてしまうような入れ物で作るのよ」
「そうしないと、作るたびにほうきが必要となってしまうからのぉ」
そう言って笑うバーリマンさんとロルフさん。
「うん、次はそうするね。でもお塩を作ること、あるかなぁ?」
だって、こんなにいっぱいできちゃったら僕んちだけじゃ使いきれないもん。
そう思って頭をこてんって倒してると、
「確かに、塩は素直にお店で買った方がいいと俺も思うぞ」
ノートンさんが大きな手で、僕の頭をなでてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
この世界では砂糖が1キロで20000セント、日本円にして20万円もするんですよね。
それなのに市場で値段を見たルディーン君は、お砂糖の方がすごく高いんだねと軽く言っているんですよ。
ということは、100倍も1000倍も違っているなんてことは無いはずです。
でも塩って、無いと生きていけませんよね。
そこでこのような話が生まれたというわけです。
修正しようにも、気が付いたのが最終確認の時だったのでw
さて、いよいよ2巻の発売が近づいて来ました。
ということで表紙、解禁です。
ルディーン君は当然として、初登場のスティナちゃんがかわいいですよね。
流石に見せられませんが、挿絵も素晴らしいんですよ。
皆さんにも早く見てもらいたいなぁ。




